表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/37

第33話 葛藤、朝食。

「よう。おはようさん」


「……おはよ」


 昨夜。親方は俺の返事を聞く前に寝落ちしてしまった。豪快なイビキを掻いて、テーブルに突っ伏して寝る親方に毛布をかけ、俺はなんとも言えない顔で寝室に引っ込んだ。結局夜遅くまで寝付けなかったせいで、朝日が目に沁みる。


 朝起きても、親方は何も言わなかった。酔っ払っていたせいで記憶が飛んだわけでもあるまいに。それでも何事もなかったように振る舞うから、俺もそれに便乗する。


 俺が明確な答えを出せなかったことの意味を、親方は理解した筈だ。だって、『親方のこと、ほんとの父親同然に慕ってますよ!』だなんて、工房の職人たちが常日頃やってることなんだから。俺なら平然とそう言いきるだろうと、たぶん親方もある程度予測してたと思う。でも、そうはならなかった。


 それは失望でなく、変な期待をさせてしまったことへの戸惑いなんじゃないか。あそこで即答していればきっと、俺たちは今も仲よし父娘でいられた。だけど、咄嗟にできなかった。だからお互い戸惑ってる。本当にいいのかそれで、と当惑している。


「……」


「……」


 分からん。どうすりゃいいのか、なーんも分からん。


「今日は」


「うん」


「今日は、いや、今日はいい天気になりそうだな」


「そっすね。最近涼しくなってきたし。気持ちのいい秋晴れになりそうで」


「そろそろ衣替えの季節だな」


「ああ、そういえば」


「秋冬用の作業服も、買ってやらんとな。2着、じゃダメか。冬場は洗濯物が乾かんから」


「……よろしくお願いします」


 前世。俺は自分のことだけで手いっぱいだった。他人のことなんか気に掛ける余地はなかったし、もっと言えば他人なんかどうでもよかった。だから、いざ誰かのことを考え始めると。自分が他人からどう思われてるのか、いや、自分が他人をどう思ってるかについて考え始めると……途端に思考が行き詰まる。


 こんなことになるならいっそ、前世のままでいられりゃよかったのに。そうすれば、頭抱えるはめにならずに済んだのに。


「……」


「……」


 気まずい。正解が分からない。何が正解なのかも、どうすれば正解なのかもまるで何も。そんなんじゃ答えの出しようもなく、誰かに相談しようにもリンお嬢さんやクレレには言い辛い。


 とはいえ、だ。これはある意味で親方が俺に考える時間をくれたともとれる。答えを出すのは今すぐにじゃなくていい、と。彼は俺に問いを投げた。俺はそれを受け止めた。であれば、親方はそれを投げ返すのを待つ、と。いや。投げ返すか、投げ返さないか。その決断をするのを、待ってくれると。


 それは俺の一方的な思い込みかもしれない。ただの独りよがりな願望かもしれない。でも。


「……」


「……」


 伊達にこの半年、一緒に暮らしてきたわけじゃない。口下手な親方の言いたいことぐらい、目を見れば大体分かる。そもそも。


「このスープ、美味いな」


「どうも」


 前向きに逃げてるのはあっちも同じ、か。

第4幕、完。

続き、どうするかちょっと悩んでいるので、一旦更新止まります。

場合によってはムーンライトに続くかもしれません。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ