第32話 親方の図星。
「初めまして、エクレール・タンヴァリンと申します」
「イカルガだ」
見合いの席というのはどうにも苦手だ。俺は昔っから女ウケする顔じゃねえし、だからこそ『御家のために』『我慢して』『嫌々』見合いに来た女の表情というのに敏感になっちまった。それが悪い、とは言わん。若い女が、惚れた男でなく俺のようなむさい髭のドワーフに嫁ぐのは、そりゃあ嫌だろうよ。俺より背が高い女なら、なおさら。
「アンタにゃ悪いが、この見合いは端から不成立だ。手間かけさせちまって悪かったな」
「……理由を、お伺いしても?」
「アンタになんの落ち度もねえよ。ただ、種馬にされるのは嫌だってだけの俺のワガママだ」
「ですが、そうとも限りません。わたくしたちは初対面ですけれど、一緒に暮らしているうちに、心惹かれ合っていく可能性だってゼロではないでしょう?」
「それはねえ」
「何故そう言い切れるのです?」
彼女は随分な別嬪さんだった。確か、まだ10代後半だと聞いたが、随分と大人びている。貴族のスケベジジイどもと同列に見られてやがったのか、10代前半の若い娘ばっかあてがわれてその尽くを拒否してきた結果、手を変え品を変えし始めたのかもしれん。
「一から十まで、何もかも説明してやる程の義理もねえ。そうだろ?」
「ですが、わたくしの目には、あなた様が思い悩んでいらっしゃるように見えます」
「へえ?」
「義理の娘さんの事、ですか?」
「養子じゃねえが」
「娘も同然だと伺っております。であれば、気にかけるのは当然の事かと」
「それこそ、アンタが気にすることじゃない」
「惹かれているのですか? 彼女に」
「!」
バカを言うな! と咄嗟に怒鳴ることはできなかった。
「申しましたでしょう。最初はなんともなくとも、一緒に暮らしているうちに、心惹かれ合っていく可能性だってゼロではない、と」
「ハッ! 俺が娘どころか孫みてえな年頃の娘っこに欲情するとでも?」
「恋に、歳の差は関係ありませんから」
いやいやいやいや、ないないないない。俺がヌエに恋してるだって? 冗談も休み休み言え。
『親方?、どーこ見てるんすか? エッチ!』
『どうしても見たいってんなら、お小遣いくれれば見せてあげてもいいっすよ! ちょ!? 冗談ですからそんな怖い顔せんでくださいよ! チビるかと思ったー!』
『怖かった! 俺、怖かったあ!』
『へ? ああ、これっすか。あー、うん。ほら、親方の言うように、もうそろそろ恥じらいを持った方がいいかな、って』
『別に、男が怖くなったりはしてないっす。だから、平気。だってほら、親方だし、ね?』
日に日に美しく成長していく姿。無防備な子供から、女らしさを得て、少しずつ変わっていく距離感。だが、ヌエは暴漢に襲われかけたんだぞ。それこそ一番近くで一番長く一緒にいる俺が、助け出した俺が、預けられる信頼を裏切ってどうする。お前を女として見ちまったことが、ないとは言えないだなんて。そんなこと、絶対に言えるわけがねえ。だから俺はあくまで、あいつにとってのよき親父でなけりゃなんねえんだ。男女の関係なんか、考えちゃいけねえんだ。
「恋は、理屈じゃありません。愛は、制御しきれません。誰だってそう。あなたも、きっと恐らく、彼女も」
「ハッ! 若い娘が、知った風な口をききやがって」
「少なくともわたくし。恋に関しては、あなた様より上手かと。だって」
わたくしにも好きな殿方がおりますので、と。エクレール・タンヴァリンは美しい笑みを浮かべた。




