第27話 相席、開始。
この国の第1王子様の来訪だけあって、店内は貸切状態だった。店の中にも外にも護衛の兵士がわんさか。店員さんたちも緊張した面持ちで、それでも必死に笑顔を浮かべている。唯一自然な態度を取り繕っているであろう女店長も、よく見れば手が少し震えていたがそこは見ないふりをしてあげるのが元社会人としてのマナーだろう。
「ケーキセットを5つ。僕はチーズタルトと紅茶で」
「紅茶は茶葉を選べますがどれになさいましょう?」
「では、シンバルグレイで」
「わたくしはカボチャのモンブランとピッコローズヒップでお願い致しますわ」
「僕も姉さんと同じものを」
「私はカボチャのモンブランと……サックストロベリーティーにしようかな」
「コーヒーをブラックで。ケーキはカボチャのモンブランを」
4人がけのテーブル席に2人がけのテーブルと椅子を追加し、6人がけにしてもらったテーブルに5人で座る。席分けは男子2の女子3だ。男子が1人足りない合コンか。
「折角の季節品ですのに、よろしかったんですの?」
「フフ。同じものを頼んだら君とシェアできないだろう? 君のを一口もらうから大丈夫さ」
「まあ。それでわたくしの好物であるチーズタルトを? さすがはフォルテ様ですわね」
その手があったか! みたいな顔になる弟くん。こいつらほんとにマンダリンお嬢さんのことが好きなんだな。問題はその好意がこちらに迷惑をかけるかどうかだが。
「君たちは学内でも随分と仲がいいようだけれど、こういった店にはよく来るのかい?」
「ええ。わたくしの方からよくお誘い致しますわ。付き合ってくださるお二方には感謝しないと」
「こういう店に来たいのなら僕に声をかけてくれればいつだって喜んで付き合うのに」
「フフ、まだまだ女心が解ってないわねアルト。家族でお出かけするのと、殿方とお出かけするのと、女の子同士で気兼ねなくお出かけするのとでは、楽しみ方が違うものよ? あなただって男の子同士で遊びに行くのと、女の子を交えて遊びに行くのでは、勝手が違うでしょう?」
うわあ、凄い顔。よっぽどお姉さんのことが好き、と言えば聞こえはいいが、クレレの言う通りのシスコンなんだろうな。
「お待たせ致しました」
ケーキと飲み物が運ばれてきたのをコレ幸いにと、俺たちは有名なケーキ屋の新作ケーキに舌鼓を打つ。途中王子様とマンダリンお嬢さんがあーんをし合っているのを弟くんが歯軋りでもしそうな顔で見つめていたり、『私たちも別々のを頼んでシェアすればよかったね』と言うクレレに『そうだね』と相槌を打ったりしながら、あまり楽しくないお茶会は何事もなく進んでいった。
「失礼、わたくしちょっとお花を摘みに」
さて、本題の時間だ。マンダリンお嬢さんが席を立ったと同時に、場の空気がピリっと引き締まる。
「ああ、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。僕は確かに王子だが、今この場にいるのはただの一介の学生、リンの彼氏に過ぎないと思ってくれ」
「はあ。あなた様がそう仰られるのであれば」
「それで。君たちは随分と僕のリンと仲がいいようだね?」
直球で斬り込んできたな。わざわざ女子会に鉢合わせにきたのだから当然っちゃ当然かもしれんが。僕の、という部分に反応してる奴がいるが今は無視しよう。
「畏れ多くも、とてもよくして頂いておりますよ」
「特に君だ。メヌエットくん。君と出会うまで、リンは随分と引っ込み思案で自分に自信のない、率直に言えば卑屈な子だった。僕たちがどれだけ手を尽くしても、だ。それを君は一晩で前向きに変えてしまったようだが、一体どんな手品を使ったのかな?」
「女の子同士の秘密、としか。マンダリンお嬢様自身がそれを秘していらっしゃる以上、私どもの口からそれを申し上げるのは彼女の信頼を裏切ることになりますので」
「なるほど、女の子同士の秘密。確かに女の子の間には、男には分からない事情もあるのかもしれない」
「……あまり調子に乗るなよ」
思わず、といった口調で、はなく。至極冷静な口ぶりで、弟くんが忌ま忌ましげに口を挟んできた。王子様が驚きも止めもしない以上、最初からこうするつもりだったのだろうか。いい警官と悪い警官じゃないが、王子様の思う通りに汚れ役を演じるのも貴族の必須スキルなのかもしれない。コイツの場合はそれだけじゃないだろうなってのも伝わってはくるが。
「姉さんは気さくで誰にでも優しい人だからお前たちのような平民相手にも対等な友人関係を築いてやってはいるが、本来であれば公爵令嬢であり殿下の婚約者でもある姉さんはお前たちのような人間からすれば雲の上の御方だ」
「そんなこと、あなたに言われなくても知ってます!」
「なんだと?」
抗議の声を上げたのはクレレだった。




