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透明街の人喰い獏  作者: 葉里ノイ


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119/124

119-処分


 檮杌(とうごつ)渾沌(こんとん)を地下牢に収容し、宵街(よいまち)は静けさを取り戻していた。

 その病院の一室で(ばく)はぴょんと跳ね、踏鞴を踏んでベッドに尻餅を突く。体が重い。金色の目を天井に向けて嘆いた。

「やっと包帯を取ってもらえたけど、完全に鈍ってる……」

 人間の街で渾沌と戦ってからもう一ヶ月ほど経ったが、怪我は治ったと言ってもラクタヴィージャは中々獏の足の包帯を外してくれなかった。包帯がある内は好き勝手に動き回らない、と暗示のように巻き続けられた。ラクタヴィージャは心配性だ。

「レンさんと一緒にリハビリをしますか?」

 傍らに控えていた灰色海月(クラゲ)は獏に肩を貸そうとするが、獏は首を振る。そこまで歩けないわけではない。

 菌糸で操られていた白色鉄線蓮(テッセンレン)は渾沌の計画のためだけに生み出され、その最初から菌糸に蝕まれていた。生まれてから長期間ずっと思考を乗っ取られ、体を動かされていたのだ。その所為で菌糸を断った今は歩き方がわからず、毎日歩行の練習をしている。菌糸による衰弱はまだ残っているので様子を見ながらではあるが、体力の回復と共に歩ける距離は伸びている。ラクタヴィージャは他の仕事があるため、鉄線蓮の面倒は変転人達が交代で行っていた。

 白色鉄線蓮は菌糸に操られながら多くの罪を犯した。生まれてから今までのことを時間を掛けて尋問したが、自我が途切れて記憶が曖昧になっている所もあった。自分の歳もわからない程だった。ただ鉄線の花が満開の頃に人となったことは覚えていた。

 狴犴(へいかん)に渡した薬は菌糸を通して渾沌の指示で彼女が作った物であり、呑ませ続けたことは認めた。そして同様の薬を神隠しの街の悪夢にも放っていた。

 身体能力の高い白花苧環(シロバナオダマキ)も後々面倒になるかもしれないと、念のために始末するよう狴犴を唆した。

 狻猊(さんげい)が有色の変転人に狙われたことがあったが、それも彼女が仕向けたことだった。狴犴が薬の影響で倒れたので、証拠の薬を回収するためだった。蒲牢(ほろう)が科刑所に来るのを遅らせるため、騒ぎを起こすつもりだった。だが白色鉄線蓮は菌糸の支配の中で僅かに足を遅らせることができた。そうして何とか蒲牢に薬を見つけてもらえた。その後に薬は回収したが、彼に見つけてもらえただけで充分だった。狴犴を薬で陥れたことに気付いてもらうことができた。

 白色鉄線蓮が傘を奪った黒い変転人は、檮杌にすぐに殺されるはずだった。何とか一度は逃がすことができたが、結局は檮杌に秋水仙(アキズイセン)と共に潰された。白色鉄線蓮は操られながらも時折自我を取り戻し抗っていた。それは悪事に手を貸したくないという白の意地だった。

 渾沌の計画は獏達が出した真相の推測で大凡は合っていた。白色鉄線蓮の記憶が曖昧になっている部分は、忘却ではなく記憶として定着しておらず空白になっている。それ以外なら推測は概ね正解と言えた。

 獏は足を摩り、もう一度立ち上がる。跳ばなければ歩ける。

 部屋にノックの音が響き、灰色海月は静かにドアを開けた。

「失礼します」

 頭を下げて立っていたのは白花苧環だった。一ヶ月も経つと前髪も伸びたが、元のように片目を覆えるようになるにはまだ時間が足りない。いつも眼帯を耳に掛けているのは煩わしいため、彼はまた前髪を伸ばそうとしていた。

「待合室に来てください。檮杌と渾沌のことで話があると、贔屓(ひき)が呼んでます」

「遂に? 何か聞き出せたのかなぁ……」

 白花苧環には待機をさせていたが、まだ動いてもらっていない。一ヶ月経つが人間の街は渾沌の一件で大騒ぎで、それ所ではないのだ。大きな災害となった所為でポストにも獏宛ての手紙が普段より増加している。善行はまだ休んで構わないと狴犴に言われているので獏は手紙のことをあまり把握していないが、灰色海月と白花苧環が手分けして回収している。

 白花苧環に連れられ獏と灰色海月が一階の待合室へ行くと、こちらも呼ばれたのだろう(しん)椒図(しょうず)も座っていた。贔屓は軽く微笑み、着席するよう促す。

「贔屓、怪我はもういいの?」

「ああ。杖として使用した肋骨以外は治ったよ。杖は粉砕したから、完治に時間が掛かる。それも大方治ってはいるんだが、獣としては遅いそうだな」

「杖って獣の弱点なんだね……」

「通常は簡単に折れる物ではないんだが。皆弱点を見せながら戦っていると考えると、少し面白いな」

「面白いかなぁ……」

 獏には杖が無いが、無くて良かったと思う。

「獏も怪我が治って何よりだ」

「もっと前に治ってたけどね……」

「怪我の回復を妨げないために、烙印の一時的な封印を延ばしてもらったんだろ? 目の届く病院に居てもらう方が管理し易いからな。転送する手間も省ける」

「烙印はもういらないと思うなぁ」

「フ……では、本題に入ろうか」

 逸らかされ、獏は不貞腐れる。渾沌の一件の功労者と言っても過言ではないのだから、釈放してくれても良いのに。

「随分と時間が掛かってしまったが、実はまだ途中なんだ」

「何も吐かないってことか?」

 順に紅茶を置いていく灰色海月を一瞥し、蜃はカップを手に取る。罪人が口を割らないことは容易に想像できた。

睚眦(がいさい)に拷問もしてもらったんだが、渾沌は一言も喋っていない。殺さないようラクタに付いてもらっていたが、却って殺されないという確証を与えてしまった」

 拷問の経験者である椒図は悲惨な現場を思い浮かべ、痛みで吐かない獣には拷問は無意味だと悟る。

「だが檮杌はよく喋ってくれた」

「喋ったのかよ」

 進展が無いのかと思えば、一方はペラペラと話したらしい。饕餮(とうてつ)窮奇(きゅうき)に馬鹿だと言われていたが、ここまで来ると馬鹿もありがたいものだ。

「喋りはしたが……どうにも断片的でな。言葉を纏めるのが大変だった」

 やはりありがたくはないものだと蜃は思い直した。

「檮杌の話によると、先に聞いていた鉄線蓮の話と辻褄が合う。渾沌の考えは理解していないようだが、檮杌は鉄線蓮と行動を共にすることが多く、彼女の証言の裏付けには使える。僕と狴犴で相談し、鉄線蓮が今も歩行が困難であることから、完全な脳の乗っ取りとして自力の抵抗は極めて難しいと判断した。だが記憶は有しているからな。彼女自身の罪悪感は計り知れない。よって、科刑所の掃除係を罰として科すことにした」

「それって……確か狴犴に怪しまれないよう科刑所に潜り込んで掃除とか雑用をしてたって言う……今までと変わらないってこと?」

「そういうことになるな。退院してからだが」

 重い空気を振り払うように贔屓は笑い、カップを手に取る。

「後は黒い傘を没収し、新しく白い傘を与える。手から傘を出せないほど消耗していたが、そろそろ取り出せるだろう」

 操られていたとは言え重い罰を受けることになるのではないだろうかと心配していたが、ラクタヴィージャの言っていた通り、軽い罰で済むようだ。

「良い判決が聞けて良かったよ。狴犴は僕のことは何か言ってた?」

「獏にはもう少しここに居てもらうそうだ。蜃の創った街に巣くう悪夢の処理……それを本格的に終わらせたいようだな」

「ああ……随分戻ってないけど、どうなってるのかな、あの街」

「狴犴はまだ後始末があるから、悪夢の件は僕に一任された。とは言っても僕も悪夢には何もできない。監督という立場になる。何か必要な物があれば協力する」

「それはすぐに?」

「ん? まだ足が痛むか?」

「痛みは無いけど、すっかり鈍ってる」

「そうか。まだ休む時間はあるだろ。無理はしなくていい」

 あの街の悪夢は数が多い。必要な物と言うなら、無尽蔵の胃だろう。喰わずに潰して処理もできるが、喰う方が楽だ。獏はどうしたものかと考える。休息と共に対処法は考えておかねばならない。

「あの街の製作者として、蜃も立ち会ってほしい。危険と判断すればすぐに離脱するようにするから、怪我はさせないと約束しよう」

「え……あ、ああ……」

 またあの悪夢の前に行くのかと思うと気が滅入るが、これが最後かもしれない。気が乗らないが承諾する。自分で蒔いた種だ。刈り取るのは獏だが。

「僕が半解除した獏の烙印をどうするか、悪夢の処理の後に狴犴と話すことになっている。上手く遣れば良い結果が待っているかもしれないな」

「ふふ……言葉が曖昧過ぎて期待できなさそう」

 上辺だけで呆れたように笑い、贔屓も何を考えているのかわからない笑顔を作る。

 一通り話した所で、病院の出入口に突如ずんぐりとした黒い塊がのそりと現れた。中層にも来ることがあるのかと獏と蜃はそちらに目を奪われる。長い耳を生やし鼻をひくつかせる地霊だ。しかも三体もいる。

 贔屓も振り向き、廊下の奥へ目を遣った。厚い布に包まれた大きな物を浅葱斑(アサギマダラ)と、ラクタヴィージャの分身体である青年が重そうに運んでいる。

 それを地霊に引き渡し、地霊はバランスを取りながら抱えて去って行った。

「じゃあ片付けてくる」

 青年ラクタヴィージャはすぐに踵を返して廊下を戻って行く。残された浅葱斑は一息吐き、視線を向けられていることに漸く気付いた。

「うわぁ! びっくりした……」

「お疲れ様、アサギさん。今のは?」

 久し振りに顔を合わせた獏は小さく手を振りながら微笑む。浅葱斑は疲労の浮かぶ顔で苦笑いした。その肩からひょこりと小さな少女が顔を出し、存在を示すために蔦をぶんぶんと振り回す。花魄(かはく)だ。

「私が教えてあげるわ! あれは死体よ」

「えっ」

 浅葱斑の浮かない顔に合点が行った。

「檮杌に潰された変転人が運ばれてきたでしょ? 死んでた子」

 秋水仙が連れて来た頭の無い変転人のことだ。あれから病院に安置されていた。

「聞き込みをして日々草(ニチニチソウ)って奴だってわかったから、植物系だし種が取れないか観察してたの。でも駄目だって結論を出した」

 日々草は人間の街の庭や公園などでよく見掛ける、全草に毒がある植物だ。大量に摂取すると死に至る場合もある。

「植物なら誰でも種を遺すわけじゃないの?」

「私も詳しく把握してるわけじゃないけど、条件に当て嵌まってないみたい。憶測だけど、獣が人の姿を与える時に注ぐ力の量が関係してると思う。大体の獣は他人にそんなに力を注ぎたくないから少量でしょ? でも偶に不器用な奴がうっかり注ぎ過ぎるみたい。その余分な力が種にまで回るのかも。今回は単純に欠損が大きかった所為で種が取れなかったのかもだけど」

「不器用……」

 壁際に控えていた白花苧環に目を向ける。以前の彼の場合は欠損を補うために多く力を注がれていたが、彼の前の苧環はそうではなかったはずだ。知らず内に狴犴を不器用だと侮ってしまっていることに花魄は気付かない。

「……あ、そうだ花魄。丁度いい。頼みたいことがあるんだ」

「頼み? 貸しなら幾らでも作ってあげるわよ。倍にして返してね」

「そうだね……僕にできることなら」

 花魄は浅葱斑に指示を出し、机に下ろしてもらう。掌に乗る大きさの可憐な少女は両手を腰に当てて踏ん反り返った。

 獏は大切に布に包んだ物を取り出し、中身を落とさないようにゆっくりと開く。小さな褐色の粒が優しく包まれている。

「この毒芹(ドクゼリ)の花守をしてほしい」

「それは御安い御用だけど、このタイミング……これを変転人にするってこと?」

「うん。昔、僕と一緒に居てくれた変転人が遺した種なんだ」

「小耳に挟んだんだけど、確か今は毒芹は人にしちゃいけないんだった……ような?」

「…………」

 地下牢の罪人だろうとその規則は耳に入っているようだ。毒芹が蜃を殺した一件で、毒芹は危険と見做され人にすることを許されなくなった。

 それでも、ただ花を咲かせるだけではなく、記憶が無くとも変転人として再び生まれさせてやりたかった。

「それは……毒芹は悪夢に蝕まれてただけで、悪夢が獣を殺しただけだよ」

「…………」

 毒芹が蜃を殺せたのは悪夢だったからだ。だが毒芹には殺意があった。悪夢が殺したと言い切るには横暴だ。それでも毒芹に殺された蜃は口出ししなかった。毒芹が蜃を殺したのは、蜃が先代の獏を殺したからだ。そして蜃が先代の獏を殺したのは、椒図が地下牢へ行くことになったからだ。その原因を作ったのは檮杌だ。毒芹が蜃を殺したことを悪だとはどうしても言えなかった。

「横からすまないが、それはいつの話だ?」

 宵街から離れていた贔屓は毒芹の件を知らない。変転人が獣を殺すなど初耳だった。

「えっと……」

「百八十年くらい前だ」

 獏に化生前の記憶は無い。答えられるはずがないので仕方無く蜃は横から口を挟んだ。

 贔屓は少し怪訝な顔をしたが、やがて苦笑する。

「その頃の毒芹なら……おそらく僕が人の姿を与えた変転人だろう」

「……え?」

「何色だ?」

「白」

「だったら間違い無い」

「え?」

 蜃が回答を挟みつつ、獏はすぐに言葉が理解できずきょとんと目を瞬く。贔屓は困ったように笑い、事情を話すことにした。

「僕が宵街を去ってから、狴犴の助けになればいいと時折変転人を作って送っていたんだ。その一人が毒芹だ。まさか問題を起こしていたとは知らなかったな」

「え!?」

「狴犴ではなく獏の所に居たとは……。確かに狴犴の所に居ろとは言わなかったが」

「えぇ……」

 話を聞いている内に何となく理解した。洋種山牛蒡(ヨウシュヤマゴボウ)が語っていた贔屓の居場所の噂話――あれを流したのは贔屓本人だと薄々は思っていたが、変転人を作って送る時に噂を乗せたに違いない。殻を被って人間に擬態できる贔屓の存在が、簡単に明るみに出るはずがないのだ。狴犴の助けにと変転人を作りながら、治安維持のために贔屓の噂も作った。贔屓が健在だと知れば、反抗的な獣への抑止力になる。何とも抜け目が無い元統治者だ。

「そんなに驚かれるとは思わなかったが、僕も驚いている。どうやら僕も不器用なようだ」

 贔屓は笑いを堪えきれずに、笑みを零しながら獏の取り出した種を見る。毒芹が種を遺したと言うなら、贔屓も不器用なのだ。花魄も漸く理解し、はっとして震えた。

「ちっ、違うよ!? 贔屓のことは不器用なんて言ってないよ!?」

 撤回してももう遅い。贔屓は全く気にしていないが、花魄は何てことを言ってしまったんだとしどろもどろになりながら膝を突いて項垂れた。

 贔屓はよく動く花魄に笑いかけ、獏にも穏やかに手を差し伸べる。

「毒芹については僕が責任を持とう。獏が悪夢が原因と言うなら、狴犴も理解を示してくれるはずだ」

「! ちょ、待って! 狴犴!?」

 項垂れていた花魄は突然思い出したように飛び起きた。

「わ、わわ忘れてたけど、私って地下牢に戻される!?」

 烙印も首輪も無いので、花魄が罪人であることをこの場の全員が忘れていた。自由に動き回っているが、そう言えば罪人だった。

「地下牢か……困ったな」

 贔屓は口元に手を遣り暫し考える。

「僕が最終決定を下すことはできないが、花魄が花守できるよう取り計らってみるよ。変転人の種のことなど、他にもまだ聞きたいことはあるからな」

「その後は……?」

「宵街に必要な人材だと示せれば、減刑されるかもしれないな」

「終身刑の減刑……つまり釈放!?」

 それは些か飛躍している気がするが、釈放の可能性もないわけではない。花魄の犯した罪過を贔屓は知らないが。

「遣ってやるわ……! 花守を完遂して超絶優秀な変転人に仕上げてみせる!」

 遣る気を漲らせているので、贔屓は水を差さないことにした。

 花魄のことも獏のことも、とりあえずは狴犴の後処理が終わってからだ。今は贔屓がいるので狴犴も少しは休息を取れているが、まだ暫くはゆっくりと休めそうにない。


     * * *


 病院で死体を受け取った地霊達は、のそのそと暗い石段を上る。地霊同士で会話などはしない。

 布に包まれた頭の無い死体をひっそりと上層へ運び、誰も来ない蔦と茂みに隠れた目立たない狭い穴へと足を踏み入れる。

 地霊の一体は常夜燈を掲げ、暗く狭い通路を照らした。しんとしていて物音一つしない。

 地霊は暫し鼻をひくつかせた後、誰もいない通路を進んだ。

 少し歩くとぽっかりと大きな竪穴が眼前に口を開け、布に包まれた死体をそこへ投げ捨てる。

 この死体は処理方法を指定されなかった。指定があれば土葬なり火葬なりするが、今回はそれがない。

 一番下に落ちるまでどれだけの時間が掛かるのか、地霊は把握していないし興味も無かった。

 地霊達の長い耳がぴくりと震え、鼻をひくつかせる。遠くで底に辿り着いた音が聞こえた。それを確認し、地霊はのそりと地下牢の竪穴を去る。

 指定の無い変転人の死体、そして行き場の無い野晒しの獣の死骸はこうして処理される。獣の死骸は化生する時に消えてしまうが、化生には個体差が存在する。何年も野晒しで転がしておくと人間に見つかり騒ぎになってしまうため、地霊が処理しているのだ。

 獣は自ら変換石の付いた杖を体内で作り出し、壊れても体内で修復することが可能だが、体内で作り出す変換石と同じ物が何故宵街で発掘されるのか、誰も考えたことがない。

 獣の死骸が宵街の土に影響を与え、変換石を生み出す。統治者ですら知らないことだ。

 地下牢は採掘場を利用して作られた物である。つまり先にあったのは採掘場であり、採掘場は墓である。宵街は墓地であり、地霊はそこで昔から墓守をしている。墓に作られた科刑所で働くのは当然であり、いずれ死ぬ地下牢の罪人に食事を運ぶのも墓守の仕事である。

 地霊は寡黙だ。真実を誰にも話さない。

 地霊は無感動にそれぞれの仕事へ戻って行く。死体の処理は只の日常だ。その手で地霊は何の感情も抱かず、今日も罪人に食事をただ運ぶ。


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