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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【第四回】SSコン 〜給料〜

【SSコン:給料】 お兄ちゃんと妹のほのぼの帰り道

「にーにはいい加減、わたしに給料を支払うべきだとおもうの」


 もうすぐ中学生になる妹が給料を求めてきた。

 こういうとき、兄としてはどう反応するのが正しいのだろう。兄歴は長いが全くわからない。


「いきなりどうしたのさ」

「にーにはわたしの好意に甘えすぎ。可愛い妹でいてあげてるんだから、わたしにもっとメリットがないと」

「えー? なになに、そういう遊び?」


 遊園地の帰り道、夕陽に照らされた道がオレンジ色になっている。

 今日はたくさん遊んだけど、まだ足りないのかな? メリーゴーランドもジェットコースターも乗ったし、おやつもいっぱい食べたし、最後に観覧車にも乗ったからそろそろ疲れてると思ったんだけど。お化け屋敷では叫びまくって必死に俺にしがみついていたから、その後からぐったりしてたけど。

 あの時のユウはとっても可愛かった。それはもう天使の如く。出た後もしばらくは俺に抱きついていて、道行く人達に微笑ましそうに見られたのがもはや自慢。


「遊園地に行ってあげた。わざわざおめかしして、メリーゴーランドまで乗ってあげた。アレなにが楽しいのかぜんぜんわかんないのに」

「何いってるの、ユウはメリーゴーランド好きでしょ。遊園地だって楽しんでたくせに」

「お化け屋敷もぜんぜん怖くなかったけど抱きついてあげた」

「恥ずかしがんなって」

「今日一日いい子で、可愛い妹でいてあげたでしょ。お金払ってくれないと納得できない」


 うちの子は……。一体何に影響されたんだか。

 はっ、もしやこれが反抗期? お父さん嫌い、ならぬお兄ちゃん嫌いか。そのうち洗濯物も別でと言われてしまうのか……。地味に嫌だな、洗濯がめんどくさい。

 ウチには親がいないから兄である俺がユウの親代わりだったが、反抗期まで親の代わりに受けることになるとは。


「親孝行、いや兄孝行だと思ってさ」

「あっ、そういうの追加料金なんで」

「追加料金って。そういうの流行ってるの? 小学校で」

「わたし小学校行ってない」

「……あぁ、お友達?」

「友達もいない。あんたが外に出してくれないんだから」


 ユウ、さっきから怒ってるのかな。ちょっと写真撮りすぎたかも。自重しよ。


「どうでもいいから給料」

「やだよ。ユウさっきから変だよ?」

「変じゃないでしょ」

「変だよ。さっきから給料とか、追加料金とかって……」


「どうしてそんなこというの?」

「…………」

「家族なのに、給料とか……」


 たった一人の家族なのに、と続けようとしてユウの様子がおかしいことに気づく。

 真顔だ。だけど目は呆れているような、嫌悪しているような目。


「……家族じゃ、ないでしょ」

「え?」

「あんた、兄じゃないじゃん」


 思い切り睨みつけてくる。どうして、そんなこと……。

 俺が兄じゃないって誰に吹き込まれたんだ? ユウはずっと俺の家族で、妹なのに。誰がそんな酷いこというように仕向けたんだろう。

 心当たりがない。家には誰も入れてないはずなのに。誰も、ユウと会ったはずがないのに。


「わたしの家族はママとパパだけ。兄はいない」

「違う、オマエの家族は俺だけ」

「事実だよ」

「……どうして、そんなひどいこというんだよ」

「ひどい? わたしのこと誘拐しといて、なにいってんの?」


 そっちこそ何をいってるんだ。

 あぁ、妹がおかしくなっちゃった。また壊れた。まだ直るかな、直らなかったら取り替えないと。脳みそをいい子と取り替えたらよくなるかな。でも前はそれで動かなくなっちゃったんだよね。どうしようか。

 そうだ、ひどいこというのは口があるからだ。


「……っ、触んな!」

「どうしたの、逃げないでよユウ」

「逃げるでしょ」


 思い切り腕を叩かれて、距離を取られてしまった。最初の頃と似てる。野良猫が威嚇してるようにも見えるのは可愛いけど。

 でも、ユウはにーにと手を繋がないとダメなのに。ずっとずっと、手を離しちゃいけないのに。一緒にいなきゃダメなのに。

 やっぱもう、修復不可能なレベルで壊れちゃってるかー。


「ユウ、話をしようよ」

「話すことなんてない」

「ユウ、ユウってば、ねぇ、」

「……あのさ、ユウが誰かは知らないけど」


 ユウ、とっても可愛い俺の妹。

 クズでしかない両親とは似ても似つかにもない可愛い子。ご飯をくれない、殴ってくるアイツらから産まれたなんて思えない。神様が使た本物の天使さま。

 笑顔がとっても可愛くて、俺のことを「にーに」って呼んでくる。まだちっちゃくて柔らかくて、でも元気に動く丸っこいの。

 夕方に産まれたからユウ。単純な名前だけど、結構気に入っている。夕陽は綺麗だし、何よりも真っ暗で孤独な俺の名前よりもまし。


 でもある日突然動かなくなった。

 アイツらがいない間に花瓶を割ったんだ。多分誤作動を起こしちゃったんだろう。だから直してあげようと思った。


 ちゃんと花瓶を運べるように、右手は父親の。

 周りがよく見えるように、眼球は母親の。

 「走らないで」っていう注意をちゃんと聞けるように、左耳は俺の。


 どうして壊れちゃったんだろう。


「わたし、ユウじゃないよ」


 夕陽は沈み、あたりはすっかり暗くなっていた。

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