地獄界
設定は後から変える気満々です。
書き上げたいという一心です。
赤黒い世界。
命を感じない世界。
ただ、痛みと苦しみが全身を駆けまわる。
ああ、酷い気分だ。
このままでは餓鬼界に行く前に魂が壊れてしまう。状況を整理して、すぐにでも行こう。動いていないと狂ってしまいそうだ。
ここは地獄界。地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上から成る六道の最下層に位置する。
次の世界に行くには、その世界の条件をクリアしなければいけない。
そうしなければ、永遠に同じ世界を彷徨い続けることになるからだ。だからといって必ず次の世界に行く必要はないだが。
しかし、この地獄界だけは別だ。あらゆる痛みと苦しみが自信を襲い、長い期間いれば自然と魂が壊れ、そして……
「最後には消滅してしまう」
乾くのどから声を出し、今一度まわりを見渡してみる。
本当に酷い世界だ。
人っ子一人いない。が、その代わりに怪物が遠方からこっち目がけて突進してくる。
くそ……今使える能力は何だ。目を閉じ、自分の魂に命じる。
【汝の魂の色を見せろ】
そう命じると頭の中に自分の情報が入ってくる。
名前:レオニール
種族:人間
レベル:1
体力:120/120
攻撃:70
防御:50
敏捷:50
特殊能力;ランダムウォーカー、……、……、……
なるほど。今使えるのはランダムウォーカーだけか。
間違いない。これは詰んだ。
「ランダムで空間移動できる能力(ただし、効果範囲は10m以内)」ってなんの役に立つんだ。
自分の状態を確認している間に、怪物はその大きさが分かる距離に近づいていた。体長は20m以上はあるだろうか。硬そうな赤色の鱗に包まれた体を捩らせながら向かってくる。この外見で四足歩行だから爬虫類だろうか。名前はトカゲでいいや。
ああ、観察をする暇もないらしい。
足元に落ちていた木の枝を拾い上げる。心許ない武器を持ってしまった。しかし、しょうがない。この地獄界には碌なものがないのだから。
「ゴガアアアアアアアアアアアッ!!」
怪物の咆哮が荒野に響く。
よく見ると、足の先には発達した鋭い爪がある。痛そうだ。食べれるかな。
思考がおかしくなってきた。早くこいつを倒してしまおう。そして、そこら中で燃え盛った炎で炙って、こいつを食っちまおう。
「おらぁっ!!」
勢いよく繰り出された木の枝はあっけなく折れた。
「グガ?」
攻撃されたと思って身を固くしたトカゲは状況を理解したようだ。咆哮をまき散らして突進をしてきた。
「ゴオアアアアアア!!」
「おわっ!ランダムウォーカー!」
とっさに能力を発動し、相手の攻撃を回避する。ただ、移動先は指定できないので、10m上空に飛ぼうが文句は言えない。
「うわああああああ!!」
何かないかと体を触る。しかし、現状は着ているワンピース型の衣服しかない。
もう一度飛ぶか? いや、何度やっても同じだ。
こいつを倒せないなら次の世界に行くことなんて到底できない。
半ば投げやりに拳を突き出し、トカゲの背中に降下する。
「どうにでもなれ! うおおおおおおお!!」
トカゲの頭より小さい大きさの俺の体がトカゲの背中にぶつかる。ごつっと音がした。
トカゲ、ダメージなし。俺、ダメージ大。
攻撃を受けたトカゲは頭を左右に動かし、俺を振り落とそうとする。
普通なら絶好のチャンスだが攻撃する武器もないので、一度トカゲの背から飛び降りる。
着地し視線を後ろにやると、どうやらトカゲはまだ俺の姿を見失っているようだ。
【汝の魂の色を見せろ】
トカゲから距離を取りながら魂に命じ、体力の欄を確認すると、体力:70/120となっていて50減ったようだ。
俺弱すぎだろ! 勢い付けて攻撃した方がこれってどうなんだ!
……どうする。地獄界で死ねば、悪魔に魂を食われて完全に消滅する。
それだけは避けたい。
俺にはまだ、やることがある。
ない頭を振り絞り、打開策を探す。周りを見渡すが、あるのは地面に広がる水気のない土、干からびたような木、そして燃え盛る炎。
自分にあるのはこの身ひとつと『ランダムウォーカー』だけ。
ん? 10m以内の空間にランダムで飛ぶ能力?
なるほど……これしかなさそうだ。
ひとつの打開策を思いついた俺は、手に持った折れた枝を地面に突き刺す。そして、何度もその枝を抜いては刺し、一心不乱に土を掘り起こす。
「ゴオアアアアアア!!」
「やばっ」
俺の姿を見つけたトカゲが迫ってくる。
急いで掘り起こした分の土を抱え込むようにワンピースの前部分にため込む。そして、覚悟を決めた俺はトカゲに正対し、能力を発動する。
「ランダムウォーカー!」
本当は心の中で魂に命じるだけでいいが、声に出した方が気分が乗る。
頭上、右、下、前方とトカゲの周りをランダムに飛び回る。そして、何度目かの空間移動で全身をヌチョっとした液体に包まれた。
――よし、あたりだ! いや、まあ、あたりでもないんだけど。
そして抱えていた土をそこにばらまき、もう一度能力を発動する。移動した先はトカゲの顔の前だった。
「おわっ!」
慌てて今度は能力を使わずに後方に走る。十分に距離を取りトカゲの方を見ると、体の異変に気付いたのか首をかしげていた。
俺だったらあんなに土食ったら、お腹いっぱいなんだがな。体がデカすぎてあれじゃ足りねぇってか。
「くそ!だったらもっとサービスしてやるよ!」
走り出し、枝が突き刺さった地点に向かい、土を掘り起こす。ある程度、土の量が確保できると、能力を使い別の場所に移動し、また土を掘り起こす。
今度は連続で土を運べるように、ストックを作っておく作戦だ。
土の山を数十個ほど作ったところで攻撃を始める。
「うげぇ、またあいつの中に入るのか」
腹に抱えた土とともに空間移動を繰り返す。
そして、何度目かの空間移動でヌチョ。
「よっし、次!」
トカゲの体液を体にまとい、次の土の山まで走る。
そして、また土を抱え込み空間移動をする。
「土を抱える。ランダムウォーカー。体液ヌチョ。ランダムウォーカー。次の土山に走る」を数十回と繰り返した。ここまでやると、さすがに巨体のトカゲも苦しみもがいている。
もう少しか。ふうっと息を大きく吸い込む。
「まだまだぁ!!」
「はあ、はあ、はあ……。やっと終わったか」
体内を地獄の土で満たしたトカゲの横で体を大の字にして寝転ぶ。
【汝の魂の色を見せろ】
息を整えながら、自分のステイタスを確認する。
名前:レオニール
種族:人間
レベル:50
体力:5120/5120
攻撃:600
防御:700
敏捷:300
特殊能力;ランダムウォーカー、環境適応(渇き)、……、……、……
「おお! けっこう上がったな!」
相手の命を奪うと、魂に刻まれた基礎能力や特殊能力を奪える。これはどの世界でも一緒だ。ただ、ここまで数値が増えるのは地獄界だけだ。
特殊能力の欄を確認すると、ひとつ項目が増えている。
環境適応:「どんな環境下でも水を必要としない」
なんだこれ、ずるっ! いや、ラッキーだな。ここでこれが得られたのは大きい。なにせここじゃ水場なんてどこにもなさそうだからな。
ため息をつき現状を嘆く。
「はあ、まだまだ先は長いな。……とりあえずこいつ食うか」