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初恋プロポーズ






 奏翔の頭の中で『魔王』という単語が飛び交い、弾けて消えてはまた浮かび上がってくる。

 目の前の美少女が魔王・・・?とても信じられない・・・という気持ちになる。それもしょうがないことだろう。


 端的に言ってイメージにそぐわなすぎる。

 魔王といえばもっと凶悪で、理不尽で、暴虐の限りを尽くしそうなイメージなので、こんな可愛い魔王が居るわけないだろ!とツッコミを入れたくなった。入れることにする。




 「ま、またまた~こんな可愛い魔王が居るわけが・・・」




 お茶を濁して本当のことを聞き出そうと思っての発言だったのだが、これに関してはリリムは照れるなどの反応は見せずにただ真剣な表情でこちらを見ているだけであり、嘘はついていないと奏翔には感じられた。

 しかしここが魔族の国だというのであれば、リリムは魔族だということになる、のだが・・・




 (肌の色も普通だし、ツノが生えてるわけでもないっぽいし、どう見ても人間なんだけど・・・)




 確かに、リリムの頭にはツノっぽい形の王冠?ティアラ?が乗ってはいるが、それはどう見てもただの飾りであり、人間でないことを証明するものではない。

 現状から見て、リリムが魔族だと証明できる要素はない・・・と考えていると、リリムがスッと目を閉じた。そして、驚くことにリリムの額に一本の横線が入り、『眼』が開かれた。


 いわゆる第三の眼、というやつである。

 驚きのあまり瞠目する奏翔。おそらくは、この世界でいうところの『第三の眼』が魔族の証拠足り得るのであろう、少なくとも人間でないことは確かである。


 奏翔が驚き言葉を失っていると、リリムの額の眼が閉じられ、ゆっくりと通常の双眼が開かれた。




 「・・・えーっと、マジですか?」



 「はい」



 「冗談でしたーってのも今なら間に合いますよ?」



 「嘘はついておりません」




 リリムの態度は先程の真剣な状態のまま一切変化がなかった。これはつまりは・・・




 「嘘じゃ、ないってことですね?」



 「はい、信じていただけましたか?」




 またも魅惑的な表情で微笑むリリムであったが、奏翔はそれどころではなかった。




 「リリムさんが魔王だとするなら話が分からなくなりました。どうして俺は召喚されたんですか?しかも魔王であるあなたに?」



 「はい、それを今からご説明させていただきます。」




真剣な顔に戻り、リリムは話し始めた。




 「召喚した理由を説明する前に、この世界について簡単に説明しておきますね。まず、この世界には主に6つの種族が住んでいます。レンジョウ様と同じ人間族、魔の種族であるわたし達魔人族、森に住み暮らしている獣人族、心が澄んでいる者の前にしか現れないと言われている精霊族、とてつもなく強い力を持っている竜族と竜人族、最後にドワーフやエルフなどのいわゆる亜人と称される亜人族です。」



 (あ、やっぱりエルフとかも居るんだ。会ってみたいなあ。)



 心の中で感想を漏らす奏翔には気づかず、リリムは話を続ける。



 「この6つの種族なのですが、このうち精霊族と亜人族以外はとても仲が悪く頻繁に戦争を起こしています。」




 悲しげに俯くリリムであるが、そこには反応せずに疑問に思ったことを聞く。




 「どうして精霊族と亜人族だけ除外されてるんですか?あ、いや、精霊族は何となく予想はつくんですけど・・・」



 「それはですね。まず精霊族は基本的に争い事に興味がなく、また精霊の国がどこにあるのか精霊族以外誰も知っておらず戦争を起こそうにもどこに攻めたらいいか分からないので手の出し様がないという状態なわけです。亜人族につきましては、そもそも国を持っていないのです。徴兵されること自体はあるでしょうけれど、亜人族という種族単位での戦争が起こることはまずあり得ません。」



 「ふむふむなるほど・・・続きをお願いします。」



 「はい。残りの4種族では常に争いが絶えず、最近も獣人族と人間族で争いがあったばかりです。 ・・・わたしは幼い頃からずっと度重なる戦争の不毛さについて悩んでいました。この世界に住んでいる種族たちにはそれぞれ良い部分があり、お互い手を取り合って互いの知識や技術などを共有すればきっと今よりもっと素晴らしい世界になるはずなのです。ですが、多くの者たちは手を取り合うのではなく奪い取ることを主目的として生きています。わたしは、今のこの現状をどうにかしたいと思っています。」



 「それは・・・途方もない目的ですね。」




 奏翔にはそう感じられた。どれだけリリムが高潔な理想を掲げていたとしても、相手にそのつもりがないのであればその理想は現実になるわけがないのだ。

 4種族は常に争い続けているという。であれば、まず話し合いなど以ての外であろう、仮に今のような理想を相手に伝えたとしても、バカにされるのがオチなのではないだろうか。そう思えた。

 しかしリリムも何も行動していないわけではないのだろう。前までの魔王がどうだったかは知らないが、現魔王はリリムである。つまり戦争をできるだけ起こさないように行動することも出来るわけだ。それでも起きる時は起きるだろうが・・・。




 「そうなのです・・・。わたしが魔王になってからはせめて魔人族が戦争に巻き込まれないようにしてきたのですがそれもそろそろ限界でして・・・。人間族側から頻繁に諜報員がこの国に入り込むようになってきているのです・・・。」




 最近獣人族と争ったばかりではなかったのか?この世界の人間族はかなり好戦的なようだ。




 「ん?そういえば今のところ竜人族の話が出てきませんね。そんなに戦いが好きではない種族なんですか?」



 「竜人族は基本的に住んでいる土地からは出てきません。ですがまれに気まぐれに出てきては一方的に他種族を蹂躙して去っていくので・・・。」




 おおう。竜人族が一番タチが悪いかもしれない。普段は自国にいるのに唐突に出てきて襲ってくるとは通り魔も良いところだ。




 「ふむ。つまりはその現状をどうにかするのを手伝ってほしくて召喚したという認識で合っていますか?」



 「はい!その通りです!レンジョウ様には関係のない話ではありますが、どうかよろしくお願いできないでしょうか?」




 綺麗に整った眉を力無く垂れさせてリリムは懇願してくる。ハッキリ言ってかなり可愛いし庇護欲を誘われるので何も考えずにOKしてしまいたいところではあるが、伝えることはしっかり伝えておかねばならない。




 「まず、手を貸すということ自体には不服はないですし、基本的にこちらの自由意志を侵さないのであれば、出来ることに関しては全力でやります。ですが、正直言って俺なんかが役に立ちますかね?こう見えてもただの一般人ですよ?戦争を繰り返す奴らを話し合いの場に持って行かせる方法なんてほとんど何も思いつかないですし。」



 「問題ありません。レンジョウ様はこの世界に『勇者』として召喚された時点で、一般人とは異なる存在となっております。戦争を終らせる方法も、一応ですが考えはあります。」




 そうなのか。てっきり八方塞がりで自分に頼ってきたのかと思ってかなり焦っていた。そんなに多大な期待をかけられても重すぎて胃に穴が空いてしまうところだった。




 「考えというのを聞いても?」



 「はい。考えというのは、一度戦いに勝って勝利後の要求として技術提供なども含んだ同盟を結ぶことです。」



 「・・・・・・・・・。」



 「お考えしていることは分かります。結局戦いで・・・力で意見を通すのかと思われるでしょう。ですが、理想をただ並べていても相手が聞いてくれないのでは意味がありません。相手がこちらの言い分を聞かざるを得ない状況を作り、こちらの言い分を伝え終わったのち、相手を言い分を聞き、お互いの妥協点を見つけ出す。つまりは話し合いの場を実力で作るのです。どうせ戦いが避けられないならば、わたしは戦った上で和平を結ぶ道を選びます。」




 すごい女の子だと思った。正直言って先程までは言い方は悪いがただ理想論を語るだけの平和主義者なのかと思っていたが、しっかりと先を見据えて考え、行動しているようだ。趣味フルコンプして睡眠不足に陥った自分とは大違いだ。




 「そして、その戦いに勝つには勇者様の・・・レンジョウ様の力が必要なのです!お願いします!どうかわたしとともに戦ってください!」




 こんなに華奢で戦いも経験したことなさそうなのに、奏翔を戦場に送りつけるだけで済ませるのではなく自分も戦うと言った。信念と覚悟を持ってことに臨もうとしているのがヒシヒシと伝わってきた。




 「も、勿論。ただでとは言いません!レンジョウ様が望むだけの対価も用意いたしますし、先程言った日々の生活の保証、元の世界に戻る転移術式も必ず用意いたします!」




 更に報酬までくれると言う。いや国を、世界を変えるような大仕事なのだから報酬が出て当たり前っちゃあ当たり前なのだが、戦争準備やら何やらでそれほど余裕があるわけでもないだろうに。ここらへんは多少考えなしっぽい部分もあるように思うが、それだけ必死なのだろう。これを見捨てようとは少なくとも奏翔は思えない。




 「ぁぅ・・・ぇえっと・・・」




 黙って考え込んでいたら何やらリリムが涙目になってきていた。何故だと一瞬思ったがそういえば考えを聞いてから一言も返事を返していなかった。断られると思っているのだろう。通りで必死具合がどんどん上がっていっているわけだった。




 「あ、すみません。考え事をしていたものでつい。さっきも言いましたが協力することに不服はないです。」



 「で、ではっ」



 「ええ、これから宜しくお願いします。」




 精一杯の爽やかスマイルでそう宣言する奏翔。別にそんなに頑張って爽やかさを出さなくても元がイケメンなので必要のない努力ではあったが、奏翔自身は自分にあまり自信がないので努力を惜しむ気はなかった。




 「どうもありがとうございます。勇者様、色々お話していただいて少々お疲れでしょう。宜しければ紅茶でも淹れてきますが?」




 見れば、ジオニスもホッとした様子で提案してきた。

 彼もついあまり表に出してはいなかったが多少緊張していたのだろう。




 「ありがとうございます。えっと、ジオニスさん、でいいですか?」



 「はは、私などに敬語は不要ですよ。」




 お手本のような爽やかスマイルで返答し、ジオニスが一旦退席していった。

 奏翔も少し息を吐きながらソファに座り込む。


 ちらりとリリムを見ると、嬉しさのあまりか状況も忘れて飛び跳ねている。

 そんな彼女を見て、ふと思った。




 (そういえば元の世界に居た時はこんなに見た目を気にしたりしなかったはずなんだけど今は物凄く気になったな・・・なんでだろう?)




 そんな心の問いも、状況を思い出して飛び跳ねるのをやめて羞耻心で顔を赤くしているリリムを見ていたら、答えが出た気がした。




 「えっと、報酬の件なんですけど。」



 「は、はい!もう何か考えがあるのですか?」



 「えぇ、報酬?というか要求?というか・・・まぁ俺が求めるものですかね?二つほどあるんですけど、いいですか?」



 「先程も言った通り、望むだけの対価を約束します。流石に今すぐに用意することは出来ませんが・・・。」



 「あぁ、それで問題ありません。それでですね。まず一つ目は先程少し言った通り『自由意志を侵さない』ということです。鍛錬とかはともかくとして、基本的には自由に過ごしたいというか・・・。まぁこれは人権が保たれるなら特に問題ないかと思います。」



 「そうですね。確かに協力はしていただきますが、無理やりこの国に縛り付けるつもりはございませんし。・・・ではもう一つは?」



 「あ、はい。これがちょっと聞いたらビックリすると思うんで心の準備をお願いします。」



 「・・・わかりました」




 ゴクリと生唾を飲み下し、覚悟を決めるリリムを見て、奏翔は二つ目の要求を言い放った。



























 「結婚してください。」








 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぇ?」







 互いに沈黙が流れる。

 流石にこのタイミングで二度言うのはいくら奏翔でも恥ずかしいので、黙って反応を待つことにする。

 反応を待つこと十数秒。ようやく言葉の意味が理解できたのか、リリムの顔がまたもや赤色に染まっていく。さくらんぼみたいだ。




 「けっ、けけけけっこん!?ぁぇ!な、なんでですか!?あっ!わ、わたしの聞き間違いでしょうか?す、すみません。もう一度お願いします。」



 「結婚してください。」



 「聞き間違いじゃなかった!?」




 何やらコントのようになってきたが、奏翔は至って真面目である。いつの間にかは分からないが、どうやら自分はこの少女のことが好きになったようだ。そして自分の行動力の高さにもビックリした。もう色々ビックリだ。




 「なななな、何でですか!?どうして急にそんな話に!?」



 「いや、何でってそんなの好きだからに決まっ─」

 「あー!!言わないでください!ただでさえ今めちゃくちゃ恥ずかしいんですよ!?」




 さっきまでの王族らしい気品のある物腰は鳴りを潜め、今は年相応の少女のような振る舞いになっている。おそらくはこちらが素なのであろうが、むしろ好ましいとさえ思えた。ゾッコンである。




 「お、おかしいですよ!なんで急に結婚なんですか!会ったばっかりじゃないですか!け、結婚はもっと・・・お互いのことをよく知ってから・・・ゴニョゴニョ」




 最後の方は小さくてよく聞き取れなかったが、大体何を言いたいかは察した。確かに会って数時間で結婚はいくらなんでも色々すっ飛ばしすぎだと言えるがそもそも今すぐにという話でもない。




 「まぁあくまで最大の要求を伝えたにすぎないし。今すぐにって話でもない。リリムちゃんもさっき言ってただろ?」



 「なんかさっきまでと喋り方変わりませんでした!?」




 プロポーズしてから唐突に距離を埋めてきた奏翔に対し、リリムはそうツッコむ。




 「結婚云々は置いておくにしても、これから仲間になるんだしいつまでも他人行儀に喋っていると疲れそうなもんでね。」



 「それは・・・確かに一理ありますね。でもわたしは変えるつもりはありませんよ?いくらお仲間とはいえ、大切な勇者様に対して礼を失するような行動は取りたくありませんので。」



 「おおう・・・大切だなんて流石にちょっと照れるな。」



 「そっ、そういう意味で言ったんじゃありません!!」




 終始真っ赤な顔でツッコミを入れてくるリリム。現在彼女の頭からは煙が立ち昇っており、ツッコむ余裕はあれど羞耻心でいっぱいなのは容易に見て取れた。




 「まぁ、望むだけの対価をって言うから言うだけ言ってみたって部分もあるし、王族だから結婚相手ももう決まってそうなもんだしな。無理なら無理でそれでいいよ。」



 「そっそれは・・・というか良いんですか?」




 少しジト目になるリリム。生半可な気持ちで求婚されたのかと勘違いしているのかもしれないので。しっかりと伝えておくことにする。




 「あぁ、俺が欲しいのは君の心も含めた全てだ。契約の上で仕方なく結婚するなんて無理強いはしたくない。」



 「こ、心って・・・」



 更に顔が赤くなっていくリリム。そろそろ限界突破して爆発してしまうのではないだろうか?そうなっては困るのでここらで一旦落ち着かせたい。




 「色々言ったけど、結局は君の気持ち次第ってことだよ。それも今日明日の話じゃない。目的を果たすにはどれだけ短くても数年はかかりそうなもんだろ?それまでに答えを決めてくれればそれでいいさ。まぁ勿論俺は好きになってもらえるように努力するけどね!」



 「・・・わ、わかりました。でも、ズルいですよそれ。」




 何か不味いことを言っただろうかと頭を捻るが特に問題点は見当たらないように思えた。そうやって首を傾げている奏翔を見て、リリムはゆっくりと息を吐きながら言う。




 「そ、そっちは気持ちを伝えてスッキリしてるのかもしれませんが、わたしはさっきから惑わされてばかりなんですからね?次に会う時どんな顔をしたらいいんですか。恥ずかしくて死んじゃいますよ。」




 口を尖らせ拗ねたような顔でそう言うリリム。超可愛い。

 だがそれを口にすると怒られそうなので自重する。



 「あはは。ごめんごめん。」



 「ごめんじゃないんですよ全くもう!きゅ、急にプロポーズだなんて・・・」



 その言葉を聞いた奏翔が更に笑い、「何笑ってるんですか!」とリリムが怒る。二人の楽しげな会話が、部屋の中に響いていた。





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