プロローグ 『天地創造のこと』
はるか昔、まだこの星に暗黒しかなかった頃ーーー。
創造神リュカはその世界に命の素を与えた。
彼の歯から、火をふく山々が生まれーーー、
彼の爪から、山と海をつなぐ川が生まれーーー、
彼の髪から、空と海を紡ぐ風が生まれーーー、
彼の垢が、小さき者たちの大地をつくった。
すなわちこの世を構成する『火』、『水』、『風』、『土』だ。
リュカは大いに喜び、世界を巡ってすべてのものに名と役割を与えた。
そして時が経ち、『ジーハーヴェン』と名付けられたこの地が数多ある世界の一つとして存在し始めたころーーー。
リュカが草むらに腰かけていると、物陰から一匹の蠍が這い出てきた。
巨大な鋏と尾に仕込む毒から皆に恐れられいた蠍へ、リュカは平然と手を差し伸べた。そして自身の元へ招き寄せようとした。
だが無造作に差し出された手に驚いた蠍は、毒針で彼の親指を刺してしまった。
リュカは驚いた。
痛みと怒り、悲しみをいっぺんに味わい、心の平静さを失った創造神は蠍を天高く持ち上げた。そして二度と生き返らぬよう、蠍をバラバラにして世界中にばらまいてしまった。
バラバラになった蠍の体には、いまだ強力な毒が残留しており、それはジーハーヴェンの生命に初めて『死』というものをもたらした。
リュカは自ら作り出したものに裏切られた悲しみに暮れ、生まれ故郷である『リュカナ・マグ』へと姿を消してしまった。
創造神をなくした世界は再び暗闇にのまれ、『死』を恐れる生命たちは互いに殺し、奪い合うようになっていった。
強い者が弱き者を支配し、また更に強き者に支配される。だが強者もまた滅びを免れることはできず、新たなる種が台頭する。
そんな時の節目のようなものが何度か繰り返された後、リュカの子達による地上の支配は、ある者の出現により最大の危機を迎える。
恐ろしい力を持った『魔王』が誕生したのだ。
リュカの吸い出した蠍の毒と彼の血は、長い年月のうちに混ざり変貌し創造神の世界を我が物へせんと牙をむいた。
破壊につぐ破壊ーーー魔王の生み出す軍は、ただの生き物ではなかった。
無数の頭をもつ蛇が、森や田畑を踏み潰し、
岩の肌をもつ巨獣が、城壁を粉砕していき、
空を埋め尽くす飛び蜥蜴が、村々を蹂躙していく。
この世の闇から生まれた魔物たちは毒の牙と爪をもって、いくつもの国を滅ぼしていった。
だが生命は大いなる勇気をもって、この世を支配せんとする恐怖と絶望に立ち向かった。
森のエルフが、山のドワーフが、谷のオークが、平原のヒューム(人間)が、海のトリトン(海棲人)がーーー種族の壁を越えて、共闘を始めた。
ーーーが、それでもなお魔王の力は強大であり、多くのものが犠牲になっていった。
遠きリュカナ・マグよりその様子を見ていたリュカは、我が子らの奮戦に涙した。
毒におかされる我が身を奮い起こし、創造神は最後の力をつかってジーハーヴェンへ降り立ち、自らの力が最も発揮される『始まりの地』へ向かった。
火の山と風の谷、豊穣の地と静かなる海に囲まれた始まりの地ーー.すなわち『火』、『風』、『土』、『水』の『マナ(世界を構成する要素。)』の集積する場所にて、リュカは異界へ繋ぐ門を生み出した。
リュカは願った。命の消えようとしている自身に代わり、我が子らを救う者ーーー『勇者』の出現を。
リュカの願いと、人々の祈りによってついに異界の門は開き、4人の勇者がジーハーヴェンへ召喚された。
勇者の剣は巨大な魔物を一振りで両断し、その体は毒の爪も牙もはじいた。また創造神の加護を受けた勇者は、マナの力を自由に引き出すこともでき、それまで優勢だった魔王軍に恐怖をあたえた。
勇者たちはジーハーヴェンの住人と力をあわせ、魔王軍の侵攻を阻止し、各地で猛威を振るう魔物たちを退けていった。
そしてついに形勢は逆転し、魔王の居城である『アージヘイル』にまで追い詰めた。
魔王は自身の切り札として、最後の砦たる『竜』を召喚した。
それは今まで誰も見たことのない、100の頭と100の足、100の翼をもつ化け物だった。
100の頭は、岩影に隠れるどんな者も見逃さなかった。
100の足は、一駆けで山々を飛び越えた。
100の翼は風を嵐にかえ、空に雷雲を呼び寄せた。
竜の放つ白い炎はどのような城壁も意味をなさず、城ごと燃やしとかしてしまった。
戦いは勇者たちにとっても苦しいものとなり、とうとう勇者の中に犠牲者が出た。
だが勇者が死の間際に放った一撃が竜の肉をたち、そこから一本の剣が現れた。
創造神の加護をもつ勇者は、剣に『ドラゴンキラー』の名を授けると、その剣を一振りした。
竜殺しの名を与えられた魔剣は竜の鱗を容易く断ち切り、その剣で切られた箇所は再生することがなかった。痛みに苦しむ竜が無数の頭で襲いかかるも、魔剣の一振りでそれらはバタバタと打ち取られていった。
勇者がその山のような胴体に剣を突き立てると、切り口から真っ黒なマナが間欠泉のように吹き出し、とうとう竜の息の根を止めるに至った。
残るは魔王のみ。だがおびただしい犠牲者と、勇者だけでなく誰もが満身創痍のなかでは、戦いによる決着も難しく思えた。
勇者たちは魔王の討伐ではなく、魔王をその住みかである魔城ごと封じ込めることに決めた。
全身全霊をこめた魔力の壁は、魔王の力を完全に封じ込めることにし成功し、魔力の奔流はその存在を遥か闇の彼方へと追いやった。
我が子らの勝利を見届けた創造神リュカは、ジーハーヴェンを彼らと勇者たちに託しても良いと安心し、『始まりの地』と『異界の門』の秘術を彼らに授け、その管理を怠らぬことを約束させた。
初めての投稿です。
続けられるように頑張ります。
誤字脱字、アドバイスなんか頂けたら幸いです。