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1話 出会い

ある日僕の部屋に知らない人がいた。

いつも誰も居ない僕の家。

ご飯を食べるのも、テレビを観るのもいつも独り。

昔は男友達が泊まりに来たり遊びに来たり、それくらいの事はあった。

それも、今では殆ど無いんだけど。違うか…… それは正しい表現じゃ無いね。

誰かが泊まりに、遊びに来れるような環境では無くなっただけの事なんだけど。


でも、僕が生きてきた数年間、母親以外の女の人を僕の部屋で初めて見た。


……


「あんた誰?」

自分自身でも驚く程にシンプルな質問だ。何よりも、人見知りの僕が同い年くらいの女の子に緊張のかけらも無く簡単に言葉が飛び出した。


不思議そうな表情で少女は尋ねる。


「ワタシ?」

「他に誰かいるか?」

意外な回答にも関わらず、間髪いれず当たり前の事を、当たり前に言えた。

でも、今考えるとそんな一連の事があまりにも不自然だった。


――


女の子が外をぼんやり見下ろしながら、聞こえるか聞こえない位の小さな声でつぶやく。

「アナタ誰?」

その質問に驚きとイライラで 声は大きく、荒れてくる 。

「ワタルだよ、この部屋の住人だよ」

「ワタルって? ……何?」

「僕の名前だよ? 逆に、何?  聞いてばっかりで答えてくれないけど、 あなたの名前は何ですか?  なんでここにいるんですか?  日本人ですか?  日本語分かりますか?」

「ワタシの名前?」


な……ま……え……

「てちか! アタシは“てちか”!!」

あきれた表情でワタルは質問を続ける。

「てちかさん、じゃあ名前は分かったよ、この際国籍なんてどこでも良い、なんで? どうして、ここにいるの?」


てちかは、急に早口になり、ワタルの質問に答えず、また質問で投げ返す。

「ワタル、ワタシが見えるの?」

その切り替えしにワタルは、足元のビールの缶を蹴飛ばし、叫びながら頭を抱える 。

「いよいよ何言ってるのか分かんねーよ」

早口でてちかが急にしゃべり出す 。

「ゴメンゴメン 、 チョット頭がボーとしてて何も思い出せなくて、名前を思い出したら、色々出てきてチョットスッキリ! ダカラ、謝るから、そんな怒んないでよ……」


急な展開に理由も分からず、逆にワタルの方が声も小さく辿々しくなる。

「じゃあ答えろよ! 何で、どうしてお前はここにいるんだよ!?」

てちかの早口が元に戻り、悲しげな表情で答える。

「それは、いつも覚えていないの…… 思い出したよ、でも覚えていない事も思い出したの」


時計の音が部屋に響く。


ワタルは冷静さを取り戻し落ち着いた様子で部屋に響く声で、徐々に声を荒らげる。

「もぅいい! じゃあ、もぅいいから家に盗られるようなモンなんて無いし! 別に居たからって困ってるわけでも無いし! とりあえず、出て行ってくれ!!」


てちかに近付きながらワタルは続ける。


「そして、何か重要な用事があってここに来てて、それを思い出したらいつかどこかで教えてくれ」

ワタルはてちかの手を取り、部屋の外に出そうとした。

しかし、触れる事が出来ない。


〔あれ?〕


何度試しても触れる事が出来ない。

ワタルは思わず怒鳴った。


「よけるなよ!」


ワタルは、つい声を荒らげる。

しかし、手をすり抜ける分けでも無く、ただ触れる事が出来ない不自然さは、てちかがワタルの手から逃げているように感じても仕方のない事だった。

そんな風にしか理解の出来ない状況なのだ。


ドンッ!


勢いをつけてワタルがてちかに突進するが、真横の壁にぶつかる。


〔どうしてだ!〕


ワタルは混乱してか、痛くてか、涙を溜めて、そのまま倒れ込み、てちかを見上げた。

てちかは畏まって、ちょこんと座り、ワタルを覗き込み答える。


「ワタシはてちか、誰もワタシに触れる事は出来ないの、ワタシも誰にも、何にも触れる事は出来ないの」

ワタルは髪をかきあげボソッとつぶやく。

「何でだよ、意味わかんねぇーよ」


また、時計の音が部屋に響く。


てちかは立ち上がり、今までで一番明るい表情で話しだす。


「ただ、ワタシが見える人はみーんな、不幸になるの」

「皆ね、ワタシの事を疫病神や死神って呼ぶの、よろしくね」


キャラクターがコロコロ変わるてちかに、毎回合わせていたらキリが無い。ある意味で楽になったワタルが

最近の事を思い出しながら、必要以上に大きな声でつぶやく。

「どーりで!」

てちかはまた座り込み、ワタルに近づき訪ねる。

「おどろか無いの? ワタシの言う事を信じるの?」

ワタルは、うつ伏せになり、モゴモゴと答える。

「今までの事で全部驚きつくして、今更驚かないし、何となくだけど、最初みた時そんな気がした」


ワタルは突然笑い出す。

当然てちかにはその理由が分からない。


「どうしたの?」

「何だか、おかしくってさ」

てちかは笑顔で首を傾げる。

「何がなの?」

ワタルは笑いながら答える。

「だってお前の存在ってリアルじゃねぇーのに、自分がなんだか分からないって設定無理が無理じゃねーか?」

てちかもつられて笑い出す

「そうだよね」


ワタルは呼吸を整える。

「なんだか、久しぶりに僕こんなに笑った」

そう言って外を見ると、夕日は沈み、僅かな灯りを残し気付けば外は暗くなり始めていた。


その時、ガチャリと玄関の扉が開く。


扉は勝手には開かない。開いたであろう人物、中肉中背の中年の男が部屋に入ってきた。

男は低いしゃがれた声でワタルに飯と金が有る場所を尋ねる。

「おい! ワタル、今日の飯はどこだ?」

ワタルは何度も講演を繰り返された舞台の様に、いつもの返答を行う。

「冷蔵庫に入ってると思う」

男はタメ口に敏感に反応する。

「思う?」

ワタルは小さな声で返答する。

「思います……」

男はもう一つの望みのモノの有る場所を尋ねる。

「金は?」

ワタルは起き上がり、おもむろに自分の財布から千円札を6枚取り出す。

それは、ワタルが今月の給食費や、食事が家に無い時に食いつなぐ為の全財産だった。

男は受け取るとワタルを突然殴り倒した。

そのまま何度も腹部を蹴り続けた。


「足りねぇーよ」

男は、暫くの間、ワタルを蹴り続けると、怒鳴り散らし冷蔵庫の飯をレンジに入れて温め始めた。

ワタルは倒れた勢いで、そのまま転がり、部屋の隅で小さくなり、心配した様子で側に寄って来たてちかに話かける。

「なぁーあんたホントに他のやつには見えないんだな」

てちかもなぜか小声で話す。

「うん…… アレはさ、ワタシが連れて来たのかな?」

ワタルは少し考え答える。

「違うよ、アレはずいぶん前から時々来るんだ、でも最近は母さんよりも、アレを見る事の方が多いかも……」

「フーン」

てちかは頷きながら男の方を見上げた。


暫くして、ワタルは疲れたのか、小さく丸まりそのまま眠ってしまった。


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