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源田哲章は幸せになりたかった(1)

源田哲章の年齢など修正




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 小太りの身体に、リーゼントを下したような中途半端な長髪。薄汚れたエプロンは自ら経営する焼き鳥屋の店名がプリントされていて、煙草のフィルターを噛む癖と、歯の隙間からこぼれ出る煙。この男も昨今の喫煙者叩きにうんざりしていて、これまで何度もタバコをやめようと考えたが、禁煙した回数と同じ数だけ失敗している。


 だがもうタバコをやめる必要はない。


 降りしきる雨の中、今まさに首にロープが巻き付き、ギリギリと締めあげようとしている。

 タバコの火に雨粒が落ちてじゅうッと音を立てて消えた。


「消えちまったよ……ああー、最後まで吸いたかったなあ……」



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 男の名は源田げんだ哲章てっしょう

 本人もなかなかに男っぽい名だと思っている。


 だけど成人しても身長は157センチと小さく、小太りでスポーツなど身体を動かす事が苦手だったため、ケンカも強くない。若い頃から地元の不良グループに所属していて、地元では気合の入った不良という事で、半グレの中ではそこそこ名の通った有名人だった。


 中学では一番ケンカの強い友達にくっついていて、中学を卒業したらバイクのマフラーを外して夜を煩く走り回る集団の末席に加わった。昔の言葉でいう暴走族というものだが、ネット時代の幕開けと共に、珍走団とかマル珍と揶揄した蔑称で呼ばれたりもした。いまどう呼ばれているのか誰も知らないような絶滅危惧種になった。つまり、本人はケンカが弱いことを自覚しているくせに、一般の人が関わり合いになりたくないといったグループに属することで、自らを強く見せることに成功した。


 そういった背景から、本気で殴り合ったら勝てないような奴を相手に対しても臆することなく恫喝する。

 虎の威を借る狐という言葉がこれほど似合うやつは居ないのではないかと思う、そんな奴だった。


 そんな源田哲章げんだてっしょうも、生まれながらにヤンキーではなかった。ヤンキーになりたいと考えさせられるような、人生を変えた出来事があったからこそ、源田げんだはなるべくしてヤンキーとなった。


 それはまだ源田げんだが中学1年で、野球部に入り生まれて初めての丸坊主頭になった頃の話だ。

 頭皮は青白いのに、顔は日焼けした少年そのもの、野球部に入りたての少年だという事が一目で窺い知れる、そんな子どもだった。





~~~ 1994年 初夏  ~~~~


 源田げんだ少年が駅前の商店街にまで自転車で遠征し、クレープ屋で他の店よりも3段高く巻いてくれるソフトクリームをミックスで注文しようとしたとき、いきなり後ろから何者かに突き飛ばされた。


「おいおまえ、さっき自転車で俺らとすれ違った時、なんか言ったよな?」


 身に覚えのない事だった。自転車ですれ違った事すら覚えていないのに、初対面で会った瞬間から怒ってる人がいて、自分に対して怒りをぶつけている。しかも不良4人にいきなり囲まれるだなんて、こんな体験、生まれて初めての事だった。


 年上の不良に絡まれるだなんて、テレビでは何度も見たことのあるシチュエーションだったが、テレビなんかとは迫力が全然違う、凄まじいまでの臨場感に足がガクガクと震え、恐怖で身体が動かない。今にも泣きだしそうになったとき、商店街を偶然通りかかった男がいた。源田と同じ中学の先輩たち2人だった。


 源田げんだがまだ家に帰る前、制服を着ていたことが幸運だったのか、先輩の一人が絡まれている下級生の制服に気が付いた。自分たちの中学の後輩が他校の奴らに絡まれていると。


「ん? そいつうちのコーハイだよな? 何かしたのか?」

「ああっ? ぶっ殺すぞコラ!」


「優ちゃんまって、夛嶋たじまだ、あいつ夛嶋たじまだって!」


 夛嶋たじまと呼ばれたガタイのいい男は、今まで源田げんだに絡んでいた男たちのうち、2人を瞬く間に倒した。よく見えなかったが、たぶん左の蹴りと右のパンチだけで2人を倒したのだと思う。


 源田げんだを助けたのは2つ年上の夛嶋明則たじまあきのり、その強さは少年の憧れとなった。


源田哲章げんだてっしょうといいます。ありがとうございました」

「わかったわかった、こんどまたこいつらに絡まれたら言ってきな。次は歩いて帰さんから。源田げんだくんは気ぃ付けて帰りなあ、ここいらにはこんな育ちの悪いバカが多いからな」


「はいっ!」


 野球部で先輩に仕込まれたばかりの大きな声でお礼を言い、源田げんだ少年は家に帰った。

 その時はまだ自分がそんな不良グループのようなものに関わろうとは考えてもみなかったのだが、不良というものへの見方が変わったせいか、これまで避け気味だったヤンキー予備軍のような同級生とつるむようになった。野球部は1年の夏休み前に退部、髪が少し伸び始めた頃、友人たちと行った縁日の夜遊びで、事件は起こった。


 源田げんだたち4人は、他校の6人グループともめ事になった。

 原因は目が合ったとか合わなかったとか、そんな些細なことだった。双方ともやる気のムードが高まり、縁日の露店筋から外れて薄暗いところに案内されてノコノコついて行くと、もともと数が多くて優勢だった他校の奴らがそこに3人待ち伏せていて、源田げんだたちはいきなり窮地に立たされた。しかもたったいま加入した3人の敵は上級生っぽい。


 しかしそいつら、源田げんだの顔を見るやいなやさっきまでの語気の強さはなりを潜めた。

 この春に駅前の商店街で絡まれ、夛嶋たじま先輩にぶん殴られて簡単にのされた奴だ。


「優ちゃん、あいつ、ほら……」


 相手の一人が "優ちゃん" に耳打ちしている。あの時もそうだった。

 源田げんだ少年は、あの日、与えられた恐怖と、身体がすくんでしまって泣きそうになってしまったことを恥だと思っていた。目の前にいる不良も源田げんだの顔を忘れられないのだろう、今まで取って食われそうな勢いで威嚇してきたと言うのに、その勢いはもうなりを潜めてしまった。


 この源田哲章の顔を見て、あの日、商店街のクレープ屋の前で、ブン殴られた時の事を思い出しているに違いない。


 ニヤニヤと囲んでいた男の表情が曇るのが分かった。

 目は口程に物を言うという、確かにその通りだ。顔色を見ると相手の精神状態が簡単に見て取れる。

 こいつは、夛嶋たじま先輩に負けたとき、次もまた源田少年に絡んだら報復されると言われた。きっと夛嶋たじま先輩の報復を恐れているのだ。


 源田げんだ少年の目がすわった。こっち1年生4人に対し、相手は上級生を含めた9人。普通にやってもぶちのめされるだけだ。ならこっちが先制してもいい。


「俺は源田哲章げんだてっしょう夛嶋たじまさんの後輩だ! やるんか! おおおおう!」


 大声での恫喝。実は源田げんだ本人、大声を出す人が苦手で、その声の圧力に委縮してしまうことを知っていた。父親がそんなひとで、何か気に入らないことがあると大声で恫喝するのだ。源田げんだ本人だけでなく、母親も、2つ下の弟もみんな大声で恫喝されると委縮してしまう。大声には威嚇の効果があることを、経験で知っていたのだ。


 生まれて初めての恫喝がこれほど効果を発揮するとは思わなかった。

 結果、相手の9人は不満そうな顔をしながらも争い事を避けるようにその場を去っていった。


 源田げんだ少年は、その方法が正しかったか、正しくなかったか、卑怯なのかそれとも正当なのか議論の余地なく、圧倒的不利な状況をひっくり返して勝利したのだ。


 これが源田哲章げんだてっしょうのヤンキー人生始まりの咆哮であり、人生の方向性を決定づけた出来事だった。



 それから数年が経ち、やがて源田も成人となった。

 これまで散々ワルいことをしてまわった友人たちも、次々と足を洗って普通の幸せを追い求めた。

 友人たちがみな自分の人生を選んでいくなか、寂しそうな影を落として、背中を見送る。どんどん取り残されてゆくのを肌で感じた。結局のところ高校は中退、最終学歴が中卒で、20歳代だというのに職安行ってもまともな職はない。これまで自分とは目も合わせられなかった気弱なヘタレ連中にどんどん追い越されるのをヒシヒシと感じ、焦りを感じながら、大型トラックに乗るための免許を取り、トラック運転手として働いていた。


 パチンコや競艇などでつくった300万もの借金も少しずつ返済している。

 また、ホステスをしながら通信制高校に通っていた年下の彼女と結婚した頃、数奇な縁あってか、少年時代に憧れた夛嶋たじまと再会した。





~~~ 2013年 初冬  ~~~~



 源田哲章げんだてっしょうは30歳となり、地元の採石場から工事現場に砂利を運ぶダンプトラックの運転手をしていた。仕事ぶりは真面目で、同年、年下の女性と結婚したことから、どうやら真人間になったのだと源田げんだの両親も喜んでいて、いつ孫の顔が見られるやと楽しみにしていた頃、不幸な事故が起こった。


 朝、いつものように職場へ向かうはずがいつもより早く出た源田は、ダンプトラックを運転中どうやら居眠り運転をしてしまったらしく、緩やかな左カーブでセンターラインを割って反対側車線を走行していた乗用車と正面衝突、乗っていたのは40歳ぐらいの男女だったが、病院に搬送後死亡が確認された。


 そんな大事故にも軽症だった源田げんだは病院で軽い処置を受けたあと、その場で現行犯逮捕。業務上過失致死の疑いで取り調べを受けることとなった。



 取り調べ室ではノックも何もなく、担当の刑事が無言でガチャッと扉を開けて入ってくる。

 中では手錠をされたまま、源田げんだが座らされていた。取調室の、ちょっと歪んでいてガタつくパイプ椅子で、ガタガタと貧乏ゆすりのように不快なリズムを刻む。


 刑事は落ち着かない様子で座っている容疑者をチラッと一瞥すると、机の対面に座りノートパソコンを開いた。源田げんだは舐められちゃいけないと刑事に向かって強めの眼力で睨みつけた、しかし源田は険しく睨みつけた表情をすぐに和らげる。


 対面に座った刑事を知っていたのだ。


 そう、そのとき源田哲章げんだてっしょうの取り調べを行ったのが、中学時代憧れた先輩、夛嶋明則たじまあきのりだった。


夛嶋たじま先輩? ですよね……覚えていますか? 俺……」

「覚えてるよ。だけどそれは口に出すなよ、知り合いだということがバレたら担当を外されるかもしれないからな、まったく、俺が外されたらお前、15年は食らうことになるかもしれないからな、捕まってる間ぐらいは大人しくしとけ」


 15年は食らうという言葉に源田げんだは驚いて息をのんだ。業務上過失致死で相手への賠償がすんでいれば、大抵の場合は執行猶予付きの判決が出ると言われていたのだ。しかもまだ結婚して一年もたっていないし、自分の人生を前向きに考えられるようになった矢先の話だから、15年も刑務所に入るなんて絶望は考えたくもない。


「え? それはないんじゃないかと……」


「アホか。事故を起こす前日、300万の借金をぜんぶ返済してるだろうが。しかも事故を起こした朝の行動がいつもと全然違う。会社のダンプを走らせてどこに行くつもりだったんだ? 目的地が大型車の駐車OKなコンビニだと?そんなことで5キロも離れた場所で重大事故起こすなんてどこの警察官が信じるんだ大バカ者め。ここは俺が収めてやるから、お前は大人しく取り調べを受けろ。わかったな」


「え? あの……えっと」


「なあ源田げんだ、おまえら素人の女子大生とかに睡眠薬を飲ませて酷いことしてただろ? それをビデオに撮って販売とか、それでどんだけ稼いだんだ? 儲けは殆ど他人にむしり取られて、捕まるリスクはおまえが引き受けてんのか? まったく、どうしようもないアホだな。警察を舐めんなよ」


 素人ものアダルトDVDは源田げんだにとってカネにならない副業だった。

 若いイケメンの大学生に女をナンパしてもらって、合法的な薬とお酒で正常な判断ができなくなるほど酩酊状態に持ち込み、女たちを連れ帰った後はぶっ飛ぶほどのお楽しみが待っている。


 しかし美味しい思いをするのは男優をやってた男で、源田げんだはというと、いつも撮影係。

 数人がかりの乱交ものを企画したとき、たまにおこぼれが回ってくる程度だった。


 趣味と実益を兼ねたこのアダルトDVDの販売に、一時は夢を見ていたこともあったが、結局リスクばかりでカネは儲かってないと言われ、借金の返済をするまで至らなかった。

 もう足を洗って久しい、こんなことをいまさら持ち出さないで欲しいと思うぐらいに。


 なぜそんな副業をしていたかというと、年下の彼女と結婚が決まったことで、借金が重荷になったからだ。


 300万円という金額は、中卒で収入の安定しない源田げんだにとって、毎月コツコツと返済していたのでは、利子分だけしか払えず元金は永久に減らなかった。何かで一発当てて、借金を帳消しにしないと、せっかく結婚して小さな幸せを掴んでも、愛する嫁を幸せにできないと……、そう考えてのアダルトDVD制作販売だった。


 素人もののアダルトビデオを作ってネットで売ることにも限界を感じていた源田に、女を手配していたナンパ屋の男たちから、ある人物を紹介された。大型免許を持っていて、大型トラックで市内を走行できる人を探していると言うのだ。


 携帯電話でリアルタイムの指示を聞きながら、トラックで事故を装い、一台の車が動けなくなるほどクラッシュさせてほしいという、たったそれだけの依頼だった。


 依頼者の名はお互いに知らないほうが良いだろうという事で聞いていない、だが前金は現金で300万、引き受けると言ったらその場で手渡してくれた。このような美味しい依頼があるなら今後も懇意にしておきたいと思えるほどに、源田げんだにとって、この仕事は喉から手が出るほどありがたいものだった。


 そして依頼当日の朝。




~~~ 2014年11月3日  ~~~~



 前日からの雨がシトシトと降り続いていた。


 雨の日は殆どの工事現場が休みで、砂利の注文がない。だからといって前金の300万円は受け取って、もう街の金融業者に一括返済してしまったし、残りの成功報酬500万も喉から手が出るほど欲しい。


 源田げんだはいつもより早く出社して、ダンプに乗って出た。社長など管理職はいつも出社が遅いおかげで咎められることはなかった。


 そして指示された通り、見通しのいい緩やかな左カーブだった。源田げんだの走行する側はすこし下り坂になっていてスピードを乗せるには条件が揃っている。相手の車にのってるひとを殺せなどとは命じられていなかったにもかかわらず、雨が降っていて見通しが悪かったせいか失敗できないという緊張感が先だったからか制限速度を大幅に超過した時速70キロで、ブレーキもかけず指示どおり白いセダンに正面から突っ込んだ。


 事故の衝撃はすごかった。しかしシートベルトをしっかり締めていたことと、事故を起こすことをあらかじめわかっていたことで現場用のヘルメットをかぶったまま運転していた源田はほぼ無傷、あちこち軽い打撲と首がムチ打ちになった程度で済んだ。そして相手の白いセダンは車種が分からないほど大破し、乗っていた夫婦は命を落とした。依頼者の男は事故現場で人命救助するふりをしながら、事故車両からブリーフケースをひとつ持ち去った。源田げんだの意図しなかったことは、事故を起こした相手の夫婦が揃って二人とも死んでしまったということだ。


 そんなことが明るみに出たら、源田哲章げんだてっしょうの罪は業務上過失致死から嘱託殺人しょくたくさつじんへと代わり、二人を死なせていることから、15年食らうこともあると言う。

 15年だ、15年。

 15年前自分は何をしていたかと言うと、まだ小学生だった。これまで長く生きたと思う源田の、人生の半分以上を占める年数だった。まったく、15年という気の遠くなる時間を刑務所で過ごさなきゃいけないかと思うと目の前が真っ暗になる思いだったし、せっかく幸せを掴みかけていたというのに、嫁も家庭も何もかも失くしてしまうという恐怖に震えた。


 しかし窮地に立たされた源田げんだの迂闊さを嗜めながら、またも夛嶋たじまが助けた。


 夛嶋明則たじまあきのり源田げんだの起こした事故が、あらかじめ仕組まれたものだったことを知りながら、これ以上、源田げんだが追及されることのないよう証拠隠滅など隠蔽工作を行ってくれたのだ。


 夛嶋たじまが作った供述調書は、源田げんだの嘱託殺人などまったく想像もできない、本当によくできた業務上過失致死の調書だった。書類送検後、検察に身柄を移された源田げんだは、国選弁護人をつけてもらって執行猶予という判決を受けると、源田哲章げんだてっしょうの心にくすぶっていた、夛嶋明則たじまあきのりへの憧れはさらに大きく、神を崇める信仰に近いほど強くなった。


 何しろ夛嶋たじま先輩は国家権力を使ってこの国のルールを曲げ、二人殺してしまったのをもみ消してくれたのだ。この人が守ってくれさえすれば、自分は何でも出来ると思った。その力こそ、自分の憧れていたものだと、そう思った。



 源田はそれ以降トラックに乗ることはなかった。約束していた依頼の達成金500万も無事もらえたし、ダンプが入ってた保険のほうからも、ムチ打ちで3か月通院した分の保険金がおり、会社を解雇になったことから失業保険が満額で6か月間おりてきた。


 二人も死なせておきながら源田げんだの懐には大金が転がり込み、保険会社は新しい人生のスタートを応援してくれた。源田は二人を死なせてしまったことで反省したのか、それとも事故を起こしたことで免許が取り消しになってしまったせいか、もう二度とトラックには乗らないと家族に宣言し、それから焼き鳥屋の店主になるという目標を立てて修行しながら真面目に仕事をしていた。


 しかし源田は真面目に暮らすその裏で、トラック事故の件を紹介してくれた男から、様々な困りごとの解決を依頼された。

 たとえば人を殺してしまったという依頼人から、死体の処分に困っているから、どうか絶対に見つからない場所へ遺棄してほしいなどという、いわゆる裏の汚れ仕事を請け負うようになった。


 都会の死角に足を踏み入れた者たちがそういった犯罪行為に手を染めるようになる切っ掛けなんて、ほんの些細なことなのだろう。


 しかし源田げんだは人を死なせてしまった反省があるのか、自分が直接人を殺すような仕事は一切引き受けないと決め、強力なルールを自分に課すことで依頼人との交渉に臨んだ。


 源田は乗用車にトラックをぶつけるだけでよかったものを、やりすぎてしまい、結果的に人を二人も殺してしまった事から、少し達観したような考えを持つに至った。


 人を殺したのなら、殺される覚悟も当然しておくべきだ。なぜなら大切な人を奪われた者は、反省など望まない。いくら反省したところで「反省したなら許してやるよ」とはいかない。

 人の幸せを奪っておいて、自分は幸せな家庭を築こうだなんて許されないのだ。


 人を殺してしまったのならば、もう罪をあがなうすべはない。

 全てを打ち砕く呪いを生んだのは自分自身なのだから。


 そう言って自分の心をだまし、裏の仕事をこなしていた。


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