9 玉ねぎ
前との間が開いていまいました。
<魔王>
「―――じゃ、早速行ってもらおうかしら。あの<転生者>、丁度日が落ちた当たりに13人全員揃うらしいからね」
それにしても【らしい】とは、幾分曖昧だが…
私の思考を察したのか、古樹の精は慌てて説明を付け加えた。
「……あー、って言うのも、この森に住んでる蜥蜴人が偵察しに行ってくれたのよ。……怪我してるから今は休ませてるけど」
古樹の精は、何処か苦々しさを漂わせた表情で言葉を締めた。
恐らく、その蜥蜴人達は<転生者>にやられたのだろう。
「…<転生者>の所までは誰かに案内させるつもりだったけど、そうね………私の端末の木霊を持って行って頂戴」
彼女はそう言いながら胸の谷間に手を差し込むと、拳大の何かを取り出した。
それは、何処と無く見覚えがある形状をしている。
誤魔化さずに描写するならば、黒い穴が目代わりに空けられた玉ねぎであった。
紛うことなき玉ねぎであった。
「これは本体である私と同調出来る、言わば端末みたいな物なの。……なんだけど貴方、今失礼なこと考えなかったかしら?
…例えば、玉ねぎとか。」
……さて、森を荒らす<転生者>をどうにかしようか。
古樹の精から目を逸らしたのは、別段気まずいからでは無い……はずだ、多分。
玉ねぎ、もとい古樹の精の端末を肩に乗せると、根の様な足が絡み付いた。
一応は落ちないようにはなっているらしい。
皮を剥きたい気もするが、やったら最後、気色が悪い見た目になる雰囲気である。
…自重しよう。
ともかく、肩上の端末へと改めて目を向ける。
口やそれに値する器官は見当らないが、どう案内すると言うのか。
古樹の精に尋ねるべく、そちらの方向へと視線を---
『ギゴェルガジラァァァ…』
---玉ねぎの方からド低音な声が聞こえて来た。
肩上に視線を戻すと、『ァァァ…』の余韻が目代わりの穴から零れる玉ねぎが鎮座していた。
(これ、喋るのか)
私はぼんやりとそんな事を考えていた。
自慢気な古樹の精は一発叩いておくことにしよう。
---敢えて結果を述べるならば、古樹の精は頭を押さえて悶絶していた。
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……端末の案内によって、<転生者>の拠点が目視出来る程度の距離まで来ることが出来た。
とは言え、わざわざこんな森の中に建てておきながら、外見は見映えにこだわったせいか目立って仕方無い。
図らずしも私の頭には、もしやこの人間達は馬鹿なのかもしれないと思い浮かんでいたほどである。
評価出来る点は夜警がいることくらいだろう。
まあ、その夜警は一人のみであり、まだこちらに気付いてはいない。
その上、持ち込んだらしい酒を煽っているのだが…
---いや、都合が良いかも知れない。
一人である故に捕らえやすく、この夜警はこちらの世界の、さらに言えば戦闘職の人間だ。
であるならば、【ステータス】中のLvや称号と対象の因果関係が如何なる物なのか、ただの人間の調査よりは知ることができるだろう。
何せ戦闘職の人間は、多少なりとも頑丈であるのだから。
私はこの世界においては無知に過ぎる。
知識を得る機会は多いに越したことは無い。
「古樹の精、済まないが幾つか確認したいことが出来た。……あの人間、少し使わせて貰うぞ」
まずは<転生者>らの耐久性を知るだけで良いから、手早く終わらせよう。
どの程度で死ぬのかが分かれば幸いだ。
まだまだ使えるモノはある。
最終的に鏖殺するのだから問題無いだろう。
鑑定で【ステータス】が覗けるならば良いのだが……
数十分も経つ前に、断末魔を上げることも無く、仲間にその行方を知られることも無く、一人の<転生者>が死んだ。
頑丈であったことは悲劇であるが、最初に<魔王>に見つかったことも殺されたことも、或る意味運が良かったのかも知れない。
残りは12人となった。
今の所終わったらちょっと番外編書いて完結させるつもりです。