8 森の女王の頼み事
会話成分多めです
<魔王>
―――眼前に広がっているのは、90度の直角を維持した完璧な礼。
これは、私が人間族では無いことを伝えてから始まった光景である。
この混沌とした状況を作りだしたのは、無論古樹の精だ。
目も口も丸く開けたと思えば、その顔色は真っ青に早変わりし。
その後、唐突な謝罪と共にこうなったという訳である。
「本っ当にごめんなさい!!よりにもよって人間族と間違えてしまうだなんて……!」
この森の長であるというのに頭を下げてしまうのは良いのだろうか。
確かに人間族以外には十分過ぎるほどの侮辱であるが、一度謝罪を受けたのだからもう構わないというのに。
敢えて言うならば、古樹の精の声は些か大き過ぎるのが気になるが
まあ、割とうるさいのだ。
と言うか、古樹の精は本題を忘れたのだろうか?
森を開墾した件の話であった気がしたが……
取り敢えず、頭を下げ続ける古樹の精に声を掛けることにしよう。
「もう構わない。……それよりも本題は良いのか?そのために訪れたのだろう。」
私の言葉に、古樹の精が訝しげに首を傾げた。
……もしやとは思うが、矢張り―――
「……………あ」
……案の定、古樹の精は忘れていたようだ。
僅かな時間を置いてからハッとしたような声が上がったのがその証拠である。
私と古樹の精《 ドリアード》の間には、何とも言えないような気まずい空気が流れた。
と言うより、あちらが気まずそうな顔になっているのだ。
申し訳ない気分になって来るのでやめて欲しい。
これは、私の方から切り出さないと駄目な状況だろうか。
中々に勇気が必要なのだがな……
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「……農業、ねぇ」
古樹の精の顔からは当初の余裕は消え、何処か困惑したかのような色が浮かんだ。
彼女は唸るような声を上げつつ、顎に添えるように置いた手の指を忙しなく動かした。
「まあ、貴方が拓いた所は特に問題無いのよ。ただ、その……私が知らなかったとなると周りに示しが、ちょっと……」
段々と内容が尻すぼみになっていく古樹の精であったが、言っていたことは分かった。
とは言え、古樹の精の采配がどうなるかにもよるが、現状私が出来ることは無い。
するとなると、目前の古樹の精含めたこの森の住人の抹殺しかないのだ。
……まあ、こちらの世界で問題を起こすつもりは無いのだからしないが。
「―――……うん、そうねぇ。貴方って荒事の覚えはあるみたいだし、良い方法が1つあるわ」
顔を上げた古樹の精は妙案を思いついたらしく、にんまりとした笑みを浮かべた。
何処か上機嫌そうに見える理由は分からないが……
「実はこの森に居座ってる<転生者>っぽい人間が何匹かいるのよ。貴方には私の代わりに、そいつらの排除をして欲しいの。……まあ、つまりは―――」
「殺して欲しいのよね、その<転生者>を」
そう告げる古樹の精は、静かに微笑んだ。
何処か抜けていると思っていたが、案外そうでは無かったらしい。
―――利用できるモノは何でも使う。
これが彼女が女王である理由の1つなのかもしれないな。
私とて、古樹の精が用意したこの好機を逃すつもりは無いのだが。
「―――私に否は無い。その<頼み事>、確かに請け負ったぞ。古き森の女王よ」
おかしいなぁ……
こんなシリアス風味にする予定じゃ無かったのに……