3 称号<跳躍の達人>
<魔王>
―――まず私の視界に飛び込んだのは、鬱蒼とした木々の群れ。
それらの見かけ自体は、元いた世界のものとそう変わらないようだ。
この新しい世界に渡る際に人間族のいない所を狙ったのもあり、当然ながら人気は無い。
わざわざ人間と関わるのは不必要と踏んだためである。
……今いるここは、森だろうか?
薄暗いが、力強さを感じる不思議な所だ。
空気中の魔素もやけに濃い。
人間族が居ないからか、魔素を生み出す何かでもあるのか。
また他の理由でも在るのかもしれないが、今の私には関係ない事だろう。
どうも理屈っぽく考えがちな思考を切り上げると、次は剥き出しの地面へと手を置いた。
私の持つ植物の種に合った土かを調べるためだ。
私が持っている植物やその種は、その殆どが<魔界>原産の物。
ある程度の魔素が地中にあった方がよく育つのだ。
例を挙げるならば、農業初級レベルの泣き叫ぶ人根花。
引き抜くと泣き叫び、その声を聞いた者を殺す<魔界>植物の一つで、危険度の割にはあちこちに生えている雑草みたいなものだ。
使いようによってはある程度のメリットがあるが………。
育て方は簡単だ。
隣の植物と30cmくらい離して植え、水を与えるだけのお手軽さが売りである。
―――私も昔はコレを引き抜いたりして遊んでいたな。
さて、今から行うのは、置いた手から軽く魔力を流し土の状態を反響させ把握する、鑑定の派生型魔法のような物だ。
大地に水を染み込ませるように、ゆっくりと魔力を流し込む。
(―――土の状態は……良好だな。こちらにしても魔素がかなり―――――
【―――ステータスを更新します】
―――頭の中に直接響く声。
それを知覚した瞬間、私の体は空の高所にあった。
<魔王>としての経験が、咄嗟にその場から立ち退かせたのだ。
とは言っても、久々に慌てたがために空間移動は使えず、その場からほぼ垂直に跳躍するだけに終わったが。
そのためか、雲と同じくらいの高さに到達した辺りで、私はふと冷静になった。
立っていた地面からこそ飛び退いたが、頭に響くこの声は、魔法使いの魔法では無かったことに気付いたのだ。
この声は、言わばこの世界のシステムというべき物であろう。
とりあえず私は、まだ続いている声を聞くことにした。
【対象のステータス表記を<ジルヴェニア>の物へ変換、最適化します】
【オールクリア】
【称号<異世界からの訪問者><リーンフォルミアの魔王><跳躍の達人>を手に入れました】
【以上の更新項目は、ステータスにて確認して下さい】
―――始まった時と同じように、声は唐突に止んだ。
―――次いで、私も地上に帰還した。
………私のことについては、何も言うまい。
だが、この声によって分かったこともある。
ここは<ジルヴェニア>という世界らしい。
しかも称号なる物を聞くに、私が異世界から訪れた者であり、その異世界の<魔王>であることも把握されているらしかった。
ただ―――
(―――<跳躍の達人>は無いだろう………!)
……私とて、アレは失敗したと理解している。
なのに何故、達人とすら言われるほどに高評価を受けているのか!
いっそ笑われた方が楽だった………
………何故異世界へ来て早々に心に傷を負わねばならん………
―――もう忘れよう。
次だ次。
そもそも世界のシステムが違うのだ。
称号なぞは元いた世界には無かったのだから。
この世界のシステムは確か……
(確か、<ステータス>と言ったか―――)
ただ、その単語を思い浮かべた。
だがシステムにとってはそれで良かったらしい。
【承認】
【ステータスを開きます】
魔王の農業は農業()
次話はステータス回(多分)