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最強魔王の異世界農業生活  作者: 猫壱 凪
2/9

2 退屈のち異世界





<魔王>



「―――北西部迷宮( ダンジョン)<不死者の回廊>にて、今代の<勇者>の討伐に成功。達成したのは不死( アンデッド)部隊の一つだそうです」



鳥と人が混じったような魔物の部下の報告に、思わず嘆息が零れそうになった。


……<勇者>が私の元どころか、<魔界>に入ることすら無くなったのはいつからだったか。


部下たちが無闇矢鱈に討ち取られないのは確かに喜ばしい。

後で私が復活させてやれるからといっても、そう何度とは倒れたくないだろうしな。



だが、些か<勇者>が倒され過ぎやしないだろうか。



今代の<勇者>が討たれた迷宮( ダンジョン)は、中級程度のレベルでしかない物の一つ。

配備していた部下たちとて、ゾンビやスケルトンがほとんどを占めているのだ。

<魔王>たる私を倒したいのであれば、木の棒一本で突破出来なくてはならんと言うのに………




きりりと引き締めた顔の部下が<勇者>討伐の報告をする中、そんな益体の無いことを考える。



―――だからだろうか。

中々に懐かしいことを思い出した。

たった今報告をしている部下、鳥人<フーヴ>が新人だった頃の一幕。

<勇者>来襲の報告を大慌てで伝えにきた時のことを。




(……<勇者>か。)




あまりに弱くなり過ぎた、本来であれば<魔王>たる私の不倶戴天の敵を思う。

私が<魔王>となってから、幾星霜の時が経った。

……これ以上の期待はすべきではないのだろう。



それに、部下たちも強くなり過ぎた。


剣技を極めることに目覚めた動く骨( スケルトン)が、とある代の<勇者>を一閃で斬り捨てたことがあった。

己の拳の一撃に全てを懸けた自動人形( ゴーレム)が、<勇者>の仲間である僧侶が張った障壁を、僧侶共々粉砕したことがあった。

粘体《 スライム》が屈強な戦士の攻撃を正面突発したのも見たし、【反射】の魔法以外の全てを捨てて魔法使いに勝ってた悪魔( デーモン)も居たな………

<魔王>直属の精鋭として結成された<四天王>に至っては、理由は忘れたが一国丸々を一人で一晩で落としていた。


何だか、聞くだけでお腹一杯になる部下たちである。



「―――報告の方は以上となります。……………<魔王>様、あの…私の顔に何か……?」



―――鳥人……フーヴの顔を見つめたままに、物思いに耽ってしまったらしい。


「いや、お前もすっかり上官が板についたと思ってな」


軽く手を振り、誤魔化す。

部下の話という意味では合っているのかもしれないが。


「初めてここに来た時分のことですか?……あの時はまだ尻の青いガキだったんですよ、忘れて下さい」


フーヴは嫌々と頭を抱えると、そそくさと礼を正した。


「………では、失礼致します」


ぶすくれた雰囲気を纏ってフーヴは部屋を辞していく。

どうやら若い頃の話は思い出したくない性分なのだろう。

とはいえ、かえって若い頃を意識してしまっているようなので、早々には忘れられないだろうが。



―――パタンともバタンとも取れる音が響く。

重厚感溢れる見た目とは違い、軽やかな音と共に扉が閉められたのだ。



(さて、また暇になったな)



正直に言うと、<魔王>という物にこれと言った仕事は無い。

強いて言うのであれば、人間族からの畏怖を集めて<勇者>をホイホイすることと、討伐された魔物たちが一定数以上になったら復活させるくらいだろうか。

身も蓋もない話になるが、ぶっちゃけ<魔王>という地位は<魔界>で一番強い魔物が就く一種の名誉職である。

―――まあ、大分前からはこの<魔王>自身のことを指す代名詞ではあるのだが。



話し相手替わりだったフーヴは、恐らくまだ仕事に追われているだろうから引き止められない。

かと言って、この自室に隠した植物は簡単な手入れで世話できる物なので、もう既に世話を終えてしまった。

他の誰かを巻き込むのも悪いだろう……



(―――ああ、世間一般の目を気にしなくてもいい土地が欲しい……植物の種だけを集めて蓄えるのはさすがにもう飽きた。育てたい……)



そんな都合の良いことをとりとめもなく思い浮かべる。

最近はこんなことばかり考えている気がして、噛み殺していた嘆息がとうとう溢れた。



<魔王>が鍬持って畑を耕したっていいじゃない……



前例が無いなら作ってしまおうか、と最近考えるようになった。



―――しかし、この世界における魔物の王たるこの身は、どこに行ってもVIP扱い。

鍬なぞ握ろうものなら、城に仕える部下から辺りを巡回している魔物までがすっ飛んで来るだろう。





















(この世界……?)


先の自分の独白にあった一つの言葉が引っかかった。









―――そうだ 、この世界だ。


(私はこの世界の<魔王>なだけだ)







「この世界じゃない世界、つまりは異世界へ行けば」








立場を気にすることも、周囲の目を気にすることも無く、思い切り【農業( すきなこと)が出来る】のでは無いか?




……どうしてこんな簡単なことを、もっと早くに見つけられなかったというのか。

思わず呆れ返るほどには、長い時間を暇していたようだった。







―――私は早速準備に取り掛かった。




異世界への門を開くのは容易い。


大変なのは、持って行く物の選別である。






―――部下たちの心配はしないことにした。


はっきり言って、現状の<魔界>は<魔王>が居なくても回せる部下が十全に揃い、討伐された魔物の復活であれば異世界にいようと何とかなるからだ。








―――久々に振るった<魔王>としての強大な力は、容易く世界に穴を開けた。


そして私は一枚の置き手紙を残して、故郷たるこの世界を去った。


別にこれといった感傷も無い。

帰って来ようと思えば、帰って来れる程度の距離だからだ。

とはいえ、部下たちは追っては来れないだろうが。







さぁ新天地にて、夢見たくらいの農業生活を送ろうじゃないか―――






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



【異世界へ行く。留守は頼んだ】



―――この<魔王>の置き手紙が部下の間でひと騒動起こす原因となったのだが、ここで語るべきことでは無いだろう。


まだまだ書き始めたばかりなのに、番外編作成の雰囲気が漂う最後……!

書けませんけれども。

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