1 プロローグ
「―――<魔王>様っ!!火急の知らせでございます!!」
鳥と人が混じったような醜悪な魔物が、細やかな装飾が美しい豪奢な扉を破るかの如くに開け放った。
扉の先は、これまた芸術の粋を凝らした家具がそれなりに置かれた一室である。
<魔王>と呼ばれたその部屋の主は、中央に据え置かれた寝台に腰掛けていた。
―――左側の一房だけを伸ばしたアシンメトリーの髪は、夜空のような黒。
深謀が窺える瞳は、鮮血の如き深紅。
新雪を想起させる肌は、黒と赤を引き立てるアクセントか―――
……まだ16、17程度の人間族の少年に酷似した、歴代最強と謳われる<魔王>の姿。
<魔王>と呼ぶには似合わない、少女のようにも見える美貌を持った部屋の主はようやっと、その視線を部屋の入り口―――鳥人の方へと向けた。
「―――騒々しい。何の用だ」
容貌を裏切るような、何処か甘くも低い声。
けれど、主の声に含まれた僅かな苛立ちは、その風貌に魅入られていた鳥人を震撼させるには容易かった。
「~~っは、申し上げます!今代の<勇者>がこの城へと向かって来ていることを雑種竜らが確認!!3日経たずとして到達するとの事ですっ!」
主の不興を買ったと震える体を叱咤し、鳥人は一息で報告を行った。
たかが雑種竜とて部下であり、彼らが疲弊した体に鞭打って持ち帰って来た情報である。
我らが王に伝えずしては死に切れない。
報告を伝えきった仕官して間も無い鳥人は、悲壮ともいえる覚悟を決めて主の沙汰を待った。
「―――ご苦労。その雑種竜らにも【良くやった】と伝えておけ」
しかし、覚悟した衝撃は襲っては来なかった。
代わりに降り掛かったのは、雑種竜すら含めた労いの言葉。
鳥人は咄嗟に、不敬ということを忘れて仕える主の顔を見上げ
そして、思わず息を飲んだ。
―――主たる<魔王>が、まるで親が子を見守るように、美しい微笑を浮かべていたからだ。
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「―――………行ったか?」
鳥人が去った絢爛なる<魔王>の居城の一室。
再度訪れた静謐さは、部屋の主自身が零した呟きによって破られた。
相も変わらず寝台に腰掛けた<魔王>は、不意にその下から小さな植木鉢を取り出した。
それは紛うことなき―――――
―――――サボテンである。
もう一度言おう。
―――――サボテンである。
………まあ、<魔王>の居城がある<魔界>の植物であるため、ただのサボテンでは無いのだが……
「―――危なかった、本当に………」
<魔王>は取り出したサボテンを大事そうに眺めた。
鳥人がこの部屋を訪れた際に苛立っていた理由がコレである。
つまりは、サボテンの世話を邪魔されたから。
(<魔王>が植物を育てているというのは、外聞的に表に出せないからな………)
この<魔王>、何を隠そう植物やら動物やらが好きで、その世話も好きなのだ。
周りが知れば、何とも言えない顔になること間違い無しだろう。
<魔王>とは何だろうか、と。
(それにしても苛々していたとはいえ、あの部下には申し訳ないことをしたな………)
………部下たる鳥人もそうであるが、<勇者>もまた気の毒なものであった。
―――この<魔王>の敵とすら思われていないのだから。
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