第二話 運命があるもの
「今月二万円……飛んだ」
一也は求人情報誌を無料で配布しているところに向かうために身支度をしながら、幸せを逃がす。
幸せを幾つも逃がす息をついてから、これ以上考えていても仕方がないと身支度をとっととすませて、外へと出る。
外に出て、一也は鍵をかけるなり、一つうなり声を上げた。
一也は、オカルトなどの類を信じていて、一也自身お札を自分で作るということが出来る。
一也はお守り代わりに自作のお札を持っていて、ある日それがポケットの中で燃えかすになっていておかしいなと思い、アパートのドアにお札を貼り付けてみたら、それも燃えかすになる毎日をここ数日送っていた。
今は実験となっている。
また今日も燃えてしまうか、それともただの偶然で偶然だとしたら一体どんな偶然だったのか。
べり、と燃えかすの上のほうを少し手にしてみるが、見事に粉となり、それは地面へと崩れ去る。
ため息をついて、一也は新しいお札を取り出して、セロハンテープで貼ってみる。
昨日はガムテープだったから燃えたのかも知れない、と不可解な理由をつけてみてから、ふと相談した友人を思い出す。
相談した友人は、何やら己には理解出来ない世界に深く関わっているようだったので、こういうことに詳しいのではないだろうか、と相談してみた。
実際、友人自身、悪魔祓いとしての名は中々に有名だ。
否、正確には妖怪退治だろうか? どっちみち友人にしてみればどれも化け物の一言で済まされるので、専門家の一言で此方も済ませている。
そいつは安酒一杯で調査を引き受け、それから二週間姿を消している。
『――お札の他に不思議なことは?』
(あるよぅ。あのねぇ、とある日から一切俺に悪い事ってふりかからないんだぁ。最近どんなに危険な目にあっても命だけは免れているんだよぅ)
『運命が何かしてるのかもな』
運命。
運命だと。
一也は内心馬鹿にされたような思いだった。
(運命が何なのさ。俺は信じてないよー)
『運命があるものは運命が守って補佐してくれる。運命がないものは宿命が動かし勝手に人生を決める。運命を味方につけた奴は、強いんだぜ』
運命があるのだとすれば、己は随分と皮肉な運命を辿ってきたものだ。
己の過去を思い出せば皮肉る一也の気持ちが分かるのか、その友人はそれ以上は言っては来なかったが、己に暫く外には出るなと言い残し、去っていった。
(もう一回、実験をしてみようじゃあないか)