第2話α節 絵本の英雄
私の名前はシオン・アステリオ。家もなくて裏路地で暮らしていたところを貴族一家のアステリオ家の前当主、シュエバルツ・アステリオおじ様に拾われて、貴族としてアステリオの館に住み始めたの。おじ様は私を家族の一員のように可愛がってくれて、私も幸せに暮らしていた。でも、おじ様以外の家の人たちにはどうやら良く思われなかったみたいです。
先月の終わりにおじ様が病気で死んでからすぐに、私は家を追い出された。それどころか、彼らは兵士を送り込んで私を殺そうとし始めたの。おじ様がくださった遺産を使って家を転々としても、兵士は何度でも襲ってきた。そう、まさしく今みたいに・・・
おじ様、あの優しかったおじ様は死んでしまった。でもね、あの人は私に大切な物を残してくれたの。絵本なんだけどね。女の子がいたの。花屋になるのが夢の女の子が。でもその世界では戦争が酷くてね。女の子が住んでる街も襲われたの。街は炎の渦に包まれて、女の子の親も友達も殺されてしまったの。女の子も必死に逃げた逃げたけどついに二人の敵の兵に見つかってしまった。「もう終わりかな。死んじゃうのかな?」って思った時、突然その子と兵の間に青く輝く人影を閉じ込めた光の奔流が現れたの。光が収縮するとともに壁は削れ、レンガ畳の地面は抉られ、そして、光は霧のように青い人影だけを残して消える。人影は何も言わず、に女の子と兵士たちの間に居たけど、次の瞬間溶けるように夜の空と混じって消えていった。驚きのあまり動けないでいる彼らを他所に、彼は音も無く片方の兵の喉を一撃でかき切り、もう一人の兵も軽々と真っ二つに切り裂いたの。2人の死体が転がる静寂の中、佇むその男、いや、少年に女の子は聞いたわ。「私を助けてくれたの?」と。彼は振り向きもせず、「・・・・・君を戦争の無い場所へ」とだけ答えた。すると女の子は唐突に強い眠気に襲われ、彼女の記憶はそこまで。起きた時に彼はいなかったらしいわ。
話はここで終わり、女の子がこの後どうなったは知らないけど幸せな人生を送って欲しいと思う。私はこの絵本が大好きだった。でもこれは物語の話、夢の話なの。でも本当にそんなことが起きるとしたら・・・ううん。今私の前で巻き起こっているこれが夢でないのなら、この瞬間、私の中に恐怖と同居している感情はきっと、恋心というものなのでしょう。
暗闇から染み出すように現れたその少年は、突撃槍を手に私を追いかけていた騎士数人を瞬く間になぎ倒した。倒れ臥す2人を他所にきょろきょろと辺りを見回す彼に声をかけてみた。
「貴方は?」
「わたしは・・・わたしは誰だ?お前は誰なんだ!ここは何処だ。分からない分からいんだ。」
その人は困惑していた。急に現れたのだからびっくりしたけど、きっとこの人は望んでここに来たわけではない、そう思った。
私はそっと触れようもした。
「触らないでくれ。僕は、いや俺は困ってるんだ悩んでるんだ!放っておいてくれないか!?」
その人は立ち上がり去ろうとした。が、突如倒れた。彼に駆け寄り腕に肩をまわす。さっきまで凄まじい勢いで兵士を倒したのに今は脆く触れれば壊れそうだ。
髪は長く濃い目のブラウンでそれに似た黒い目凛とした顔立ち。先ほどまでは高圧的な印象だったが近くで見ると全体的な線の細さも相まってか弱い少女の様だった。取り敢えず私は町の中心外にある家に運んのであった。
目覚めてからの意識はあった。
取り敢えず女が鎧を着た男たちに捕まりそうだったから助けたが、その後体に力が入らなくなり、朦朧とした意識の中なされるがままにその女に運ばれて、少し寝てしまった。
起きてからはシオン・アステリオと名乗るこの女にここは何処なのかを教えてもらった。
ここは人間の住まう王国、エスナ王国の端の街リヴィアと言うらしい。このリヴィアはもとは他国だったのだが、10年前に占領してエスナ王国の最前線基地になっている。だか最前線の基地とは思えないほどの活気があるうえに、年に一度、王国の腕自慢たちが集まるコロシアムという大会も催されているそうだ。
俺はあまりにもこの世界、いや自分の事を・・・何も思い出せない、「ナガミ」という自身の名前しか知らない状態だった。
行く当て、目的のない俺にシオンは「行く当てないなら、ここにいたら?」と言ってくれた。「あ、もちろんタダじゃないけど、1ヶ月後にコロッセオで大会があるの!そこの賞金が欲しいの!ほら、ナガミって強いでしょ、だから勝って優雅ライフにLet's Goよ!」とも言われた。
後もう一つこの世界には潜在的な<能力>と言われるものがあるらしい。
まぁ、何もない俺に目的を決めてくれるのはありがたいし、何よりその能力というのも教えてくれるらしい。
少し不安もあるが記憶を失った俺にはこれから送る生活がとても楽しくなりそうな気がした。