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7.伊津の町(1)

遅くなってすみません。

「でも、そうだとしたら昨日助けてくれたのは……?」


 混乱する俺に対して、呼吸を整え終えた茜の態度は落ち着いていた。


「昨日あなたを助けたのは間違いなく私よ。でも、今はもう(・・・・)“紅鬼”じゃない」

「“今は”ってどういうこと?」

「“紅鬼”はもともと私のもつ力眼、『鬼眼』を畏れて付けられた異名よ。その能力は……言うなればずば抜けた動体視力ね。敵のどんな動きも私には止まって見えた」


 確かにどんな高威力の攻撃も当たらなければ意味がない。反則級の強さを持つ能力だろう。


「でも今は何かしらの理由でその力を失った。そういうこと?」

「ええ、大体は合ってる。だから今の私だと毛長猿を1体相手取るので精一杯」


 きっと、1体1なら十分に余裕を持って倒せるのだろう。しかし今は俺というお荷物を庇いながら戦っている。そう考えるとさっきの戦闘は危ないところだった。


「じゃあこれから敵が2体以上の時は俺も1体引き受けられるようにしないと」

「まぁ、毛長猿級の魔物と遭遇するのはかなり珍しいことだから、そんなに心配しなくていいわ」


 幸いというか、ここら一帯であの毛長猿は一番強いクラスらしく、滅多に出会うことはないそうだ。


 だからと言って何もしなくていい訳も無い。万が一に備えて道中、稽古を付けてもらうことにした。


 滅多に出会わないと言ってももう一度出会わない保証は無いので、しばらくは十分に警戒しながら山の中を歩いた。


 山を抜けると、見晴らしのいい街道に出た。すっかり日も高く昇っており――何よりお腹が空いたので、ここでお昼休憩をとることにする。


「そういえば雪村さんが『道化』を使いこなすとかそういう話をしてたけど、具体的にはどういう風に使いこなせるんだ?」


 歩いている時は辺りを警戒したり、不審な物音を素早く察知するために会話らしい会話などしていられなかった。


「前の所有者はその刀身に炎を纏わせて戦ったと聞いているわ。50年くらい前の話だから私も話にしか聞いたことが無いわ」


 炎を纏うのか。なんだか急にかっこいい能力が出てきたな。中学二年生というお年頃の俺のモチベーションは少し上がった。


「それは強そうだな。うまく使いこなせれば、俺でもかなり戦るようになるんじゃ?」

「どんなに強い能力があっても刀を振れなきゃ宝の持ち腐れよ……」

「え?」

「なんでもないわ! まずは基礎から始めましょう」


 聞き返した後、茜は明るく振舞おうとしていたが握り締められた拳に俺は気付いていた。


 その後、弱めのモンスターと遭遇エンカウントした時は、茜にサポートされながら俺が相手をした。まぁ大抵の場合、すぐに対処しきれなくなって、止めを刺すのは茜だが……。


 そんなこんなで何回か魔物と交戦したももの旅路は順調に進んだ。


 その結果、太陽が山の向こうへと沈みきる前になんとか最初の町にたどり着くことができた。



 * * *



「あそこが伊津いつの町か……」


 前方に小さな宿場町の門が見えると思わず足を止めて見とれてしまった。


「なーに突っ立ってんの。置いてくわよ?」


 初めて徒歩で旅をし、町にたどり着いた感動に浸っている俺のことなどお構い無しに茜はスタスタと門の方に歩いていく。


「待ってくれよ!」


 俺はこの世界での勝手が分からないので、置いて行かれたらたまったものではない。慌てて茜についていった。


 町へ入るには審査が必要なようで、門の前では行列が出来ていた。俺たちと同じく旅人が多く立ち寄るのだろう。結構な人数が並んでいる。


 やはり日本と似ているだけあって並んでいる人はきちんと整列していた。俺たちもその最後尾に加わり、順番がくるのを待った。


――数十分後


「かなり長いな。そんなに入念に調べるものなのか?」


 後少しなのだが、さっきから行列は少しずつしか進んでおらず、待つのが苦手な俺は我慢しきれなくなっていた。


「私も旅は初めてだからよく分からないけど、天京はもう少し早かった気がするわ」

「都よりも入るのが遅いってどういうことだよ……」


 太陽は完全に山の向こうに消え、だんだんと暗くなってきた。後1時間もすればすっかり闇に包まれるだろう。


「兄ちゃん達も旅の人かい?」


 そんな時、後ろから突然話しかけてきたのは、がっしりとした筋肉がついた体格のいい(180㎝は軽く越えるだろう)大男だった。


「まぁ……はい」


 突然のことで俺と茜が顔を見合わせて困惑していると


「悪い悪い。俺ぁ連れがいねぇもんで退屈しちまってよ。夫婦水入らずのとこすまねぇな」


――本当に悪いと思っていたらそんな爆弾をぶち込んでくれるなよ。


 と俺は心の中で盛大なため息と共にツッコミ、一方で茜は


「なっ! 違いますからっ!」


 一瞬の間の後、意味が分かると赤面しながら物凄い勢いで否定した。


「なんだちげぇのか」


 大男は「がははは」っと大きな口を開けて笑った。


「それはそうとおめぇさん達。さっきこの町の審査が遅いって話してたろ? 俺、その訳知ってるぜ」

「何かあったんですか?」

「いやな、最近この町と周辺で盗賊の被害が多くてよ、怪しい奴が出入りしてねぇか審査が厳しくなってるって訳だ」

「へー、そうなんですか」

「おう、だから兄ちゃん達も気を付けな」


 この大男、見かけによらず案外いい人なのかもしれない。


 それにしても盗賊か。魔物が出没する町の外を縄張りにするってことは、それなりの実力はありそうだよな。


「わざわざ、ありがとうございます」

「いいってことよ!」


 大男は「へへっ」と照れ臭いそうに鼻のあたまをこすった。


 そうこうしている内にようやく俺たちの順番が来た。町へ来た目的や住所、性別、生年月日(これを聞かれた時はまさか2000年などと言える訳がなく、焦って茜の年を参考にした)などを事細かに聞かれた。さらには手荷物検査や簡単なボディーチェックなどもあり、かなり厳重に調べられた。


 やっとの事で審査が通り、大男に別れを告げて町へ入った。


 その頃にはすっかり夜になっていたが、そこかしこの店先に灯された提灯の灯りで町は明るかった。


「早速だけど宿を探しましょう」


 通りに並ぶ店の中から漂う肉や魚の香ばしい匂いが空っぽの胃を刺激するが、まずは宿を探すのが先だ。早くしなければ他の客に取られてしまうかもしれない。


 お腹がグ〜となるのを必死で耐えながら通りを歩いていると、『旅籠:露葉屋』という看板を見つけた。


 旅籠=宿らしい。宿のグレード的にもちょうど良かったので、ここに決めた。


 この宿には朝食は付いているものの夕食は付いていなかったため、やむなく俺たちは部屋に荷物を置き、外出した。


 ちなみに言っておくと、宿の部屋は鍵が無いが、旅の必需力法の中に『御法:施錠』というなんとも便利な力法があった。

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