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21.妖王戦・決着

大変長らくお待たせしました。ついに妖王戦決着です。


あと一話で終わるとか言わなければよかった……。今回かなり長いです笑

「なっ!!」

「そんな!!」

「うそでしょ!?」


 俺はもちろんのこと、桜花ちゃんも唖然としている。その様子を横目で見ていた茜も驚きを隠せないでいる。


 いつの間にか、大蛇の攻撃は止んでいたが、俺たちはただ立ち尽くしていることしかできなかった。

 俺の場合、その攻撃のための武器を飲み込まれてしまったのだから、仕方ないと言えばそれまでだが。


 そうこうしている内に、ダメージを負っていたはずの大蛇の体が徐々に回復を始めた。


「なんで!? 本体は回復しないって話じゃなかったの?」

「それについては分かりませんが、とにかく不味い状況なことだけは分かりますね……」


 ここまで来て敵に完全復活されたら、いままでの苦労が全て水の泡だ。


 だが、悪いことはこれだけでは終わらなかった。

 

「フシャァァァァア!!!」


 大蛇が「よくもやってくれたな」と言わんばかりの怒りの咆哮を轟かせると、周りの茂みがガサガサと揺れ始めた。


「おいおい……冗談だろ」


 そこから現れたのは計六つの頭。今度こそ間違いなく、他のチームが担当していた頭が俺たちのところに集まった。


「柊殿、無事か!」


 頭を追いかけるようにして、安倍さんを先頭に続々と討伐隊の面々が姿を現した。


「無事です。けれど、大変なことになりました」

「うむ、いきなり移動を始め、追いかけてきたらこれだ。私には何が起こっているのか、さっぱりだ」


「ジャァァァ!!?」


 大蛇は何やら苦しんでいるようだった。刀を、それも炎を纏っているものを飲み込めば、当然といえばそうだろう。


 その隙に、全員でひとまず安全な場所まで避難した。

 そして、とりあえず自分が見たものと起こったことを簡単に安倍さんに伝える。


「刀を飲み込んだ……か」

「安倍様、これはさすがに我々では対処しきれません」


 唐突に話に入ってきたのは、傷だらけな陰陽師の一人だった。俺の手前、気を遣ってか言外に撤退を促す。


「だが、ここで退けば柊殿の命が……」

「気にしないで下さい、これで皆さんに危険が及んだら元も子もないですから」


 確かにこの機会を逃せば魔臓を手に入れることは限りなく不可能になり、それによって俺は死ぬだろう。

 しかし、ここで何人もの犠牲を出してまで生き永らえるくらいだったら、その方が断然良い。

 それに、俺たちは上手く回避していたから重傷は免れているものの、他の人たちはそうではなかった。皆、満身創痍で疲れ切っている。


「ですから、今の全員が無事な状況で、撤退の指示を出して下さい」

「柊殿、完全に我々の力不足だ。すまない……」


 安倍さんは、自分の欲求と反対の事を言うしかない俺を見透かすかのように、沈痛な表情をした。 


「柊さん、そんな……」


 そのやりとりを見ていた桜花ちゃんは、いつもの元気をなくし、今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「皆の者! 撤――」

「待ちなさいよ! 柊、あなた本当にそれでいいの? 簡単にあきらめるんじゃないわよ!」


 茜は泣いていた。そして決意に満ちたような表情もしていた。


「俺は最後まで足掻く。どうせ死ぬんだったらここで戦い抜いて死ぬつもりだ。でも、他の皆はそうじゃない。まだ生きられる。だから茜、君も逃げてくれ」

 

 俺は最後まで諦めはしないって決めたんだ。あの世界に帰るまでは。ここで死ぬようならそれもまた運命として受け入れよう。


「安倍さん、刀が呑み込まれてしまったので代えの刀を貰えますか?」

「それはいいが、本当に残るのか? まだほんの少しとは言え、他の魔臓が見つかる可能性も――」

「いいえ、この機会を逃したら次はありません。どうか気にしないで早く逃げてください」

「ではこれを使いなさい。前に話していた秘策だ」


 そう言って安倍さんが差し出したのは、一振りの剣だった。日本刀ではなく、なんて言えば良いのだろう、弥生時代のものみたいな剣だ。かなり古いものらしく、刃こぼれはもちろん、錆まくっている。


「これを使うんですか? さすがにこれは……」


 ボロボロっていうレベルを超えてるし、ましてやこれで戦うとかは論外だ。一瞬、安倍さんがこんな時に冗談を言っているのかも疑ったが、どうも大まじめのようだった。 


「貴殿が生き残る運命にあるというならば、それをこの剣が証明してくれよう」

「それは……『天羽々斬あまのはばきり』?」


 桜花ちゃんはこの刀の正体を知っているようだった。


「我が家に伝わる剣です。確かに伝承では、これを使って須佐之男命が八岐大蛇を倒したとされていますが……まさかこの剣で倒せということではありませんよね」

「いや、可能性があるとすれば、そのまさかに頼る他ない。とにかく、柊殿が力を流してみれば分かる」


 要するに、これは伝説の剣的なもので、最後の希望でもあるということらしい。

 一応これでダメだったとき用に、もう一振り普通の日本刀も受け取った。

 しかし、ダメだったときは則ち死を意味する。ここで俺の運命は決まるだろう。

 あー、緊張する……。


 そのときだった。今までの苦痛に満ちた大蛇の鳴き声が、止んだ。


「シャァァァァ!!!」


 代わりに、ゴゥと音を立てながら炎の柱が大蛇のいる地点から天高く上がった。

 

 どうやら時間切れらしい。迷っている暇はなかった。


「さぁ、みんな逃げて! ここまで本当にありがとうございました。絶対に生きて帰ります!」


 俺がそう言うと安倍さんは申し訳なさそうな顔をして、


「総員、撤退!」


 と、指示を出した。だが、その総員には自分を入れていなかった。

 

「私はこの国で最高位の陰陽師。ここで退いて逃げ帰るわけにはいかぬ」

「私も最後まで一緒に戦うわ。それが仕事だもの。もう誰も私の前で死なせはしない」

「知り合いになったばかりで死なれても夢見が悪そうですし」

「もちろん私も最後までお付き合いしますよ」


 結局、安倍さん、茜、桜花ちゃん、神父さんの四人は残ってくれた。

 それならばと他にも残ると言ってくれた人もいたが、もしもの時に即時撤退が出来る実力者だけにさせてもらった。


 もう時間もないので、危なくなったらすぐに逃げてくれと頼み、大蛇の元まで向かう。


 向かっている間、神父さんが来ずの手当てをしてくれた。


 その場所に着くと、大蛇の一つの頭の体色が若干赤くなっていた。そして、息をするたびに、燻った煙のようなものが鼻から漏れ出す。

 おそらく火を吐いたのはこいつだろう。


 炎を纏わせたりする過程で、力を刀に流すことはできるようになっていた。

 なぜか失敗はしないという自信だけはあった。


 天羽々斬に力を注ぐ。

 すると突然、剣の表面がポロポロと剥がれ、中から青白く輝く剣身が現れた。その輝きは、なんというか神々しい。

 剣の中ほどに欠けた跡があり、それが記憶を刺激するが、思い出せない。

 

「私も見たのは初めてだが、おそらく成功だろう」

 

 「これは?」という視線を安倍さんに送ったところ、成功のようだ。


 さて、ここからは八対五の戦いとなる。傷は回復したが、一つ一つの頭を相手にしている余裕はもうない。勝てるとすれば、短期決戦で本体を倒す以外にないだろう。

 多分、本体は刀を飲み込んだ、あの赤い頭だ。


 となれば、一気にこちらの最大火力をぶつけて倒す。

 いくら再生するとはいえ、向こうもさっきまでのダメージは確実に残っているはずだ。上手く他の頭を避けながらやれば、倒せないはずがない。


「行くぞ!」


 俺の掛け声と同時に全員が一斉に動いた。


 まずは神父さんが「目を閉じてください」と言った直後に、閃光を炸裂させる。

 まぶたの裏からでも、一瞬のその明るさが分かった。


「ジャァァァ!」


 前衛の俺と茜は、大蛇が怯んだ隙に他の頭を避けながら本体を目指す。

 その間、桜花ちゃんと安倍さんは少し下がった場所に移動し、詠唱を始めた。


 すぐに大蛇の前に到着し、攻撃を開始する。天羽々斬は魔力を注ぐほどに切れ味を増し、深く相手の体を切り裂いた。


「雪村護心流真の型:氷柱峰」


 茜は、五メートル近く跳び上がり、氷柱刺しの時と同じモーションから五連の突きを放った。その突き一つ一つから鋭い氷柱が生まれ、大蛇の体を貫く。


「なんだそれ!?」

「力の消費量が馬鹿にならないから、とっておきよ」


 無駄話をしていると、大蛇が口を大きく開け、炎の息を吐いてきた。飲み込んだ刀の影響だろうか。


「うおっ!」


 正確にこちらを狙ってきた炎を、避けることが出来ず、反射的に自分の前に剣を持ってきた。

 その咄嗟の行動が今回は役に立った。


 天羽々斬は襲い来る炎を俺の前で真っ二つに両断し、そのおかげで助かった。


 もともと蛇は獲物を狩るとき目をあまり使わず、他の感覚器官を使う種が多いと何かの本で読んだことがある。それは大蛇も同じようで、目を潰されてもこちらの位置は掴めるらしい。


 炎のブレスは避けたが、すぐに他の頭が一斉に俺たちをロックオンした。


 まずい。と思ったが丁度、桜花ちゃんと安倍さんの術が完成した。


「「――陣・雷・滅、おん!」」


 何もなかった俺たちの真上にパチパチッと弾ける電気が現れ、次の瞬間、八つの頭目掛け幾筋もの電撃が走った。


 さすが陰陽頭とその娘というべきか、凄まじいまでの威力だった。しかし、ボロボロになりながらもまだ大蛇は倒れない。

 雷で痺れている内に、最後の猛攻をかける。


「雪村護心流改:氷冷」


 茜の愛刀、蜻蜓は冷気を帯びており、舞うような連続攻撃による傷は斬られたそばから凍りついた。

 

 俺も負けじと天羽々斬にありったけの力を注いで切り掛かった。

 驚くほどの切れ味で深手を負わせる。


「これでとどめだ!」


 最後の一撃を叩きこもうとした時、猛烈な目眩とともに「ガハッ」と大量の血を吐いた。

 なるべく力を練るのは避けるように言われていたが、思ったより使えたので調子に乗りすぎたようだ。


「柊! きゃ!」 

 

 俺の様子を見て、茜がすぐに俺に近寄ろうとしたところを横からの薙ぎ払いで吹き飛ばされた。


 大蛇の頭はすでに五つが戦闘不能になっており、本体と他二つが残っている。

 今茜を攻撃したのは本体ではない内の一つだ。

 

 攻撃の途中で倒れた俺は、本体のすぐ近くにいた。

 そんな俺に向かって大蛇がただではやられるまいと、最後の抵抗に突進してきた。


 普通だったら避けられる単純な突進。だが、それでも今の俺では避けられるかどうか五分五分だ。

 そんな極限状態の中で時間の進みがゆっくりになり、思考が引き伸ばされる感覚がした。


 横に思い切り跳んで回避しながら考えるそして思い出した。

 天羽々斬が欠けている理由。それは、須佐之男命が八岐大蛇を倒す際、尻尾を斬ったときに中の草薙の剣に当たったから。


 この前三種の神器について調べていたらそんな伝説を見かけた。


 そしてこれによって全ての謎が解けた。


 まず、須佐之男命が倒したはずの八岐大蛇が弱っていながらも生きていたこと。そして、俺の刀を飲み込み、その途端に元気になったこと。

 

 つまりこういうことだ。

 須佐之男命は尻尾から剣を取り出すことは出来たものの、何らかの理由で大蛇を討ち漏らした。そして、体内の剣がなくなって弱体化していたところに、丁度良さそうな刀があったのでパクリ。刀が纏っていた炎を自分に取り込み、炎を吐けるようになったと。


 何とかギリギリで突進を避けきると、目の前に大蛇の胴体があった。


 俺はすぐ先にある尻尾を目指して動かない体を無理に動かしながら走った。

 俺の魔臓はまだ僅かだが働いている。次、何かをすれば確実に使い物にならなくなるだろうが、こいつを倒せればそんなのは構わない。


 激痛に耐えながら最後の力を振り絞って剣に与える。


「オラァ!!」


――ガキィン!


 尻尾を斬ると、甲高い金属音と共に道化が出てきた。


 俺が道化を取り出すのと同時に大蛇の体色は元に戻った。

 供給される力を失った天羽々斬も元のボロい剣に戻ってしまった。


「今度こそ本当に最後だ」


 この四日間で唯一習得できた雪村護心流の技。取り返した道化を上段に構え、一気に斬り下ろす。


「雪村護心流基本の型:袈裟懸け」


 宣言通りそれがとどめの一撃となった。

 腹に一番大きな斬り傷を作った大蛇は後ろ向きに倒れ、絶命した。


 それを見届けた後、俺もその場にバタリと倒れこんだ。


 長い長い激戦の末、ボロボロになりながらもようやく大蛇を討伐したのだった。


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