20.妖王戦・激闘
我慢できず、テストそっちのけで1話だけ……
続きは修学旅行から帰ってきて書きます
妖王戦は次回で決着の予定です。
おかしい。俺の見間違いでなければ、この場には大蛇の頭が二体いた。
他のペアはどうしたのだろう。まさかやられたのか。
「茜! 大丈夫か!?」
「ええ、ごめんなさい。ちょっと驚いて叫んじゃった」
幸いにも、不意を突かれて驚いただけで、なんともなかったようだ。
それにしても不味いことになった。数的には一人一体ずつで丁度いいが、戦力的には俺一人だけで相手に出来るか不安が大きい。
そうこう考えているところに突進攻撃をしてきた。覚悟を決める時間も与えてもらえないらしい。
迫り来る巨体を右に転がることでやり過ごす。
避けていて気が付いたが、攻撃後にこちらを振り向くまでの間は背がガラ空きだ。
俺はそのチャンスを逃すまいと、すぐに起き上って斬りかかった。
しかし、刃の入りが悪いのか、固い鱗に弾かれてしまう。
「柊! あんたこそ一人で大丈夫?」
「大丈夫じゃなくたって、やるしかないだろ」
事実、茜にも二頭相手に出来るだけの余裕があるとは思えない。
そこで一瞬、会話に注意を奪われたのが仇となった。再び逆方向から襲ってくる突進を、今度は避けきることが出来ずに吹き飛ばされる。
「ぐぁ!」
無様に地面を転がった。直撃だったら骨と内臓のいくつかが確実に逝っていただろう。かすり傷で済んだのは奇跡ともいえる。
あの巨体は厄介だな……。大蛇の動き自体は、俊敏ではあるが避けられない程でもない。問題なのは一撃の威力だ。まともに一撃喰らったら最後、戦闘不能に追い込まれるだろう。一瞬の油断が命取りとなる。
しかし、熟練の戦士ならそれが可能でも、俺は戦闘初心者と言ってもいい。全ての攻撃を完璧に避けきれる自信は無かった。
とは言っても、大蛇が攻撃の手を休めてくれる訳でもない。次なる攻撃に備えて
何とか立ち上がる。
その時だった。
「柊さーん!」
不意に女の子の呼ぶ声が聞こえて、不覚にもまた相手に隙を見せてしまった。
振り返った時にはもう遅い。大蛇が大きな口を開けて迫っていた。
「空・壁、陰!」
あ、死んだ。
あまりにも一瞬過ぎて、それくらいしか考える余裕がなかった。死にかけ慣れすぎたのかもしれない。 まさか俺の人生の最期がこんなあっさりしたものだったなんてな。はー、あんだけ勢い込んででおいてこれだもんな、みんなに申し訳ない。
……ってあれ。まだ死んでない。
一向にやってこない衝撃。固く瞑った目を開けると、大蛇が何かにぶつかったかのように空中で止められていた。まるでパントマイムでもしているかのようだ。
その不思議な光景に見とれつつ声がした方向を見ると、桜花ちゃんが必死の形相で言った。
「柊さん! 早く避けてください!」
「へ?」
次の瞬間、パリパリッと何もないはずの空間にひびが広がったかと思うと――割れた。
となると当然、止められていた大蛇の突進は再開するわけで、
「ごふっ!」
呑気に眺めていた俺は真正面から突進をもろに喰らった。腹が圧迫されることによって、肺から空気が押し出される。
「あー、だから言わんこっちゃない」
桜花ちゃんの、「やれやれ」という声が聞こえてくるが、必死に空気を吸い込んでいたため、抗議どころではなかった。
桜花ちゃんの障壁――のような物が勢いをいくらか削いでくれたおかげか、骨や内臓は大丈夫そうだ。
「柊さん、茜さん、手短に話すのでそのまま聞いてください」
何が起きたのかを聞く暇もなく、急に真剣な声のトーンに戻った桜花ちゃんの話に、大蛇の攻撃を躱しながら耳を傾ける。
「緊急事態が発生しました。この大蛇はただの大蛇ではなく、“八岐大蛇”だと思われます」
「うそ! そんな化け物が何で……? 大昔に倒されたはずじゃない」
「それってやっぱり、やばいんだよな……」
どうやらこいつは他のチームが逃がしたものではないらしい。
と言うか、それよりもっとまずい事態が起きていたようだ。
“八岐大蛇”――某ドラゴンがたくさん出てくるパズルゲームにも登場する、八つの頭を持つ大蛇だ。
日本の神話に出て来て、確か何ちゃらのミコトみたいな名前の人に倒された、とか言う話だったと思う。
まず間違いなく俺たちでは歯が立たないだろう。瞬殺されてないのが不思議なくらいだ。
でも待てよ、色々とおかしい。
まず、何で神話で倒されたはずのこいつがまだ生きているのか。
それに、いくら強いとは言っても、俺でぎりぎり避けられるレベル。神話クラス……にしては弱すぎるくらいだ。
「ですが、何らかの理由で弱っているようです。よって作戦は続行する。と、お父様が仰ってました」
弱っている。確かにそう考えれば納得だ。でも、一体何故――
そこまで考え、桜花ちゃんに聞こうとしたが、生憎そんな余裕はなかった。
大蛇が今までの攻撃パターンにない、首を使った横からの薙ぎ払いをいきなり使ってきたのだ。
地面すれすれに迫る巨体を、跳躍力を生かし、上方向に跳ぶことで避けようとする。
だが、相手は直径160センチはあろうかという胴体を持っている。避けきるにはあと少し跳躍力が足りなかった。
足が薙ぎ払いに引っかかり、天地がひっくり返る。
そのまま空中で一、二回転して地面に背中から打ち付けられた。
「ぐっ!」
「えっと、弱い方は……柊さん、援護します!」
おい、今ボソッと弱い方って言ったの聞こえたぞ。
可愛らしい見た目をしてるのに、中身は案外――どころか、かなり腹黒そうだ。
まぁしかし、段々と疲労やダメージが積み重なって危ないところだったので、正直なところありがたかった。
茜の方ははさっきから、避けては攻撃しての繰り返しでまだ一度も攻撃を受けていないので、しばらくは大丈夫そうだ。
鬼眼がないとは言え、十分に強い。
大蛇に攻撃されている事などお構いなしに、桜花ちゃんは俺の近くに来て懐から、何かが書かれた紙切れのような物を取り出した。
「桜花ちゃん、何やって――うぉ!」
薙ぎ払いが頭上を掠めたものの、間一髪のところで頭を下げた。
「一瞬だけでいいので、その火を最大まで大きくにして下さい!」
「出来るけど――ォラッ、これで……くっ……いい?」
突然、最大火力を出せと言われて困惑したが、桜花ちゃんの顔があまりにも真剣だったので、言われた通りにした。
それは例えるなら、今まで持久走をやっていたのに、いきなり全力ダッシュするようなものだ。かなりきつかった。
「この焔を依代として、此に御身を顕現せよ。式神召喚、“朱雀”」
桜花ちゃんは、取り出した紙切れを燃え上がる道化の炎の中に入れて燃やした。そして、片手で印を結ぶと素早く呪文を唱えた。
次の瞬間、急に勢いを増した炎がゴウッと吹き荒れ、それが鳥の姿を形作った。
「うおっ! なんだこれ!」
「お願い、力を貸して! 朱雀」
『対価の分だけ。今回もそれは変わらぬぞ?』
「チッ!」
炎の鳥は桜花ちゃんの呼び掛けに対し、どこか素っ気なく答えた。
この世界に来てから色々なもの見たけど、喋る動物は初めてで衝撃的だった。
てか、頼んでおいて舌打ちとか、この子とこいつの関係どうなってるんだ。
やっぱり陰陽師は戦いで式神を使うのか。
『ほう、汝なかなか良い刀を持っているな。では、この刀の能力に合わせた力を授けるとしよう』
朱雀はそう言うと、ただの炎に戻り刀の中に吸い込まれるようにして消えた。それと同時に炎を吸い込んだ部分から峰の黒い部分が緋色に染め上げられていく。それは刀身だけに留まらず、鍔や柄までにも拡がった。
『“緋刀・朱雀”。さあ、存分に闘え』
よく分からないが、何となくこの刀からあふれ出る力が、ひしひしと伝わって来る。
朱雀を纏った……と言うことで良いのだろうか。
「ありがとう、桜花ちゃん」
これなら大蛇にも通じるかもしれない。そんな根拠のない自信が沸いてきた。
「空・壁、陰!」
今度は上から噛み付こうとしてきた大蛇の攻撃を、桜花ちゃんが謎のバリアで防いでくれた。
いくら俺でも同じミスを繰り返しはしない。
バリアが割れると同時に横に避け、地面に突き刺さった頭に斬撃を浴びせる。
今度はしっかりと斬った手ごたえがあった。
「シャオォ!!」
切り傷からは煙が上がり、余程効いたのか大蛇は痛そうな鳴き声を上げた。
良し。確実に効いてるぞ。
「ん? あれって――」
「傷が塞がらない! あれが本体ですね。案外役に立つじゃないですか、柊さん」
案外……それに役に立たないと思われてたのかよ。
そんな桜花ちゃんの毒舌評価にがっかりしつつ、本体が分かったことで勝利への希望が見えてきた。
その後も、桜花ちゃんのバリアで安全に避けつつ、攻撃を重ね、少しずつだが確実にダメージを与えていった。
「はぁはぁ。すみません、もう力が……」
「は、っはぁ?」
何度目か分からない攻撃を受ける時だった。
ついに桜花ちゃんの力が尽き、大蛇の攻撃が俺に向かってくる。相手も疲れているので戦闘の序盤に比べればスピードも威力もかなり落ちていたが、それでも喰らえば致命的だ。
かろうじて、噛み付いてきた牙を刀で受け止めた。
一瞬、大蛇の目が光った気がした。まるでこの状況を狙ったとでも言うように。
俺はすさまじい力で弾き飛ばされ、握っていた刀を離してしまった。
「しまっ――」
刀を失えば攻撃の手段を失うことになる。桜花ちゃんのガードもない状態で、それだけは避けなければならなかった。
そんな俺の思いは大蛇の予想外の行動によって完全に掻き消されることとなる。
宙に舞った刀を大蛇はその大きな口で丸呑みにした。
※刃物を口に含むことは危険です。絶対にお止め下さい。
オロチ君の場合はたぶん奇跡的に水平だったんですよ……
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