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2.非日常の始まり

9/2 術の読みを追加

「んー……」


 目が覚めると薄暗い場所にいた。ほのかにカビ臭い匂いがする。


「どこだ、ここ」


 夢でも見ているのかと思ったが、こんな鮮明な夢は見たことがない。ということは、あの穴を通ってどこかに飛ばされたという認識で間違ってはいないだろう。


 辺りを見回すと大小様々な箱が積み上げられていたり、壁際には鍬や鋤といった農具が並べて置いてある。どうやらここはどこかの倉庫のようだ。


 俺の読んでいるファンタジー系の本やラノベだったりすると、ここは異世界で夢の異世界ライフが始まったりするのだが、異世界にしては何かが引っかかる。


 しばらく辺りを見回しながら考えるとやっとその答えがわかった。違和感がなさすぎる・・・・・・・・・のだ。そう、どうやらここは日本のようだった。


 ただ何やらどれもこれも置いてあるものがなんだか古くさかった。倉庫にしてはダンボールらしきものは一個もないし、プラスチック製品も見当たらない。


 木造建築といい置いてある道具といいどれも歴史の教科書で見たことがある。タイムスリップも視野に入れて行動すべきか……?


 まぁここがとんでもなく田舎の町にある古民家という線もまだなくはないが。


 気になるのはさっき棚で見つけた、妙に細長い箱だ。紐を解いて開けてみた所、どこぞの怪盗の相棒が使っていそうな、鞘と柄が白い木の日本刀が収められていた。


「すげぇ。本物かな?」


 好奇心から試しに鞘から抜いてみた。ギラリと妖しげに光る刀身を見ただけでその斬れ味が想像できる。自分を傷つけそうで怖かったのですぐに鞘に収めた。


 蓋の裏をみると『銘、道化 ――作』と書いてある。作者名は残念ながら掠れて読み取れなかった。


 こんな蔵に無造作に置かれているあたり名刀というわけではなさそうだ。別に名刀云々は関係ないが、外に出て何に遭遇するかわから無い以上武器は必要だろう。


 ちょうどいい貰っていくか。心の中で持ち主に謝りながら、持っていくことに決めた。


 そのまま持ち歩くわけにもいか無い。というのは銃刀法が定められている日本人独特の思考だろうか。とりあえずそこらへんにあった反物らしき布で『道化』をグルグル巻きにして、適当に肩掛け紐を付けた。


 まだここがどこか、どういう状況なのかもわからない状態で外に出るのは正直怖いが、立ち止まっていても良い方に転ぶことはないだろう。


「よっし準備完了。いざ出陣!」


 景気付けにそう呟いて、蔵の入り口の戸から外に出ようとしたのだが――開かない。どうやら鍵がかかっているようだ。


 よくよく考えてみれば蔵なのだから泥棒が入らないよう常に鍵をかけておくのは当たり前だ。


 どうしようか小一時間散悩んで、入り口の上にある窓から脱出しようとやっと決心した時だった。


「本当にこのような小汚い蔵に彼の刀匠が作った『道化』が?」

「情報によるとな」


 扉の向こう側からなんだかきな臭い会話が会話が聞こえてきた。会話の内容は今まさに俺が持ち去ろうとしているこの刀についてのようだ。


「『道化』さえ手に入れば我らのこの計画も……」

「あぁ。ただ今回は刀を盗むだけだ。さっさと終わらせるぞ」

「はっ」


 カチャカチャと何かで鍵を開けようとする音が聞こえる。幸いなかなか開かないようだった。


「仁殿、この南京錠にはどうやら力素認証の術がかけられているようです」

「となるとやはり当たりということか。止むを得ん錠を壊すか」


 外から開けてくれるとは都合がいい。戸が開いて泥棒たちが『道化』を探しているうちに脱出しよう。そうと決まると素早く入り口の近くに並んでいる甕と甕の間に身を隠した。


「小太郎、頼む」

「御意に。《破遁はとん粉砕ふんさいの術》」


 ガキンッという音が聞こえると、すぐに入り口の戸が開いた。


「今の音を誰かが聞いているかもわからん。急いで探せ」

「はっ」


 遁とか術とか言ってたけどもしかしてこの泥棒たち忍者なのか?まぁ今それは置いておこう。とにかく見つかるとまずいことだけは分かる。


 忍者は小次郎と呼ばれた方が蔵の中を探してもう一人の仁というらしい方が入り口を見張っている。


 見張りの忍者のせいで計画が狂った。どうしよう……。蔵の中をくまなく探している以上、このままだと見つかってしまうだろう。


 何か使えそうなものはないかとポケットを探ると携帯が入っていた。一つ作戦が思いついたのだが成功するかどうかは五分五分といったところだ。


――まぁ、一か八かやってみるか。


 俺は携帯を片手に持ち、入り口の忍者の前に飛び出した。そして、顔の目と鼻の先でライトを付けた。


「何奴! ぐあぁぁ!」


 暗闇に目が慣れていたらしく、なんとか目くらましにはなったようだ。しかし携帯のライトはそこまで強くない。一瞬注意をそらすくらいの効果しか期待できないだろう。


「仁殿、どうされた!」

「敵だ! クソッ、目をやられた!」


 中にいる方が戻ってくる前に、すぐさま見張の横をすり抜けて外へ出る。


「計画を聞かれたかもしれません。追って殺しますか?」

「いや、ここで殺すのは目立ちすぎる。一旦どこか別の場所に移動したい。俺はなんとか『道化』を探して持っていく。お前は小僧を頼む。」

「では捕まえて参りましょう」


 仁と小次郎は何やら手早く相談した後、小次郎の方が俺を追ってくる。


 外はもうすっかり暗くなり闇に包まれていた。一旦携帯の明かり消し敵に見つからないようにする


 暗くてよく見えないがどうやらここはどこかの屋敷の一角ようだった。そうなると誰か住人もいるはず。


「大変だぁ! 泥棒が出たぞ!」


 最悪俺も捕まるが、忍者に見つかるよりましだろう。大声を張り上げられるのはさすがに奴らも困るはずだ。


 闇雲に逃げ続けて前方の壁に勝手口のような扉があるのを見つけた時は心底ホッとした。


 だが人生そんなに甘くはない。扉には鍵がかかっていた。それもなぜか内側からも開かない鍵が。


「クソッ! ついてねぇ」


 必死で開けようとするがビクともしない。


 そうだ、さっきの忍者が忍術っぽいものをやっていたではないか。早速記憶を頼りに試してみる。


「破遁、粉砕の術!」


――シーン


 結果は何も起こらなかった。


「おい、どうなってんだよ! どうして開かないんだ!」

「そう簡単に誰でも使えてたまるか」


 後ろからの声に驚いて振り向くと、もう追いつかれてしまっていた。


 それにいつの間にか蔵を探していたはずの仁も合流している。


「蔵の中には空の箱があるだけで肝心の中身がなかった。」

「ということはこやつが背負っているのがそうですかな?」

「小僧、それは『道化』か?」

「さぁ、どうだろうな」


 緊張のあまり掠れた声しか出なかった。まずい。どうしよう。さすがに殺されはしないよな?


「もしそれが『道化』だとして、まさか抜いてはいまいな?」

「!」


 動揺が顔に出てしまった。抜いていたら何がまずかったのだろうか。


「まぁしかし、殺してしまえば同じこと。」


 小太郎の表情は余りに冷徹だった。人を殺すことを何とも思っていない。そんな感じだ。


 体験したことのない本物の修羅場に手足がガクガクと震えた。


「まぁそんなこと今更聞いても仕方あるまい。覚悟は良いか?」




 月光を浴びてキラリと光る鋭い輝きを見て、今日はとことんついてない日だなと心の中で呪った。

誤字脱字等、文章でおかしなところがありましたら感想などで教えてくださると幸いです。

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