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15.覚悟と意志

お待たせしました

そろそろ物語が動き出します笑

 昨日の夜は一昨日とはまた違った理由で眠れなかった。

 茜がならず者たちを斬り捨てた際の態度についてずっと考えていたのだ。

 自分か自分の知る人物が戦いの中で人を傷つけ、傷つけられる。戦いがあるこの世界でいつかそういう場面に遭うだろうとは前から思っていた。


 最初にそれに気付いたのはこの世界に来てすぐ、小太郎に命を狙われて死を間近に感じてからだ。しかし、その前に元の世界に戻ってしまえば問題ないと今まで目を背けてきた。

 そして昨日、ついに現実を突きつけられた。


 思えばあの時、もし俺一人だったらどうしていただろう。勝ち負けは抜きにしても、本気で相手に斬りかかることができただろうか。


――今回はたまたま茜だったが、次はきっと俺の番だ。


 そんなもやもやした気持ちを抱えながら朝を迎えた。


 割り当てられた部屋を出ると、ちょうど茜も出てきた。

 さすがに余程の事情がない限り同じ部屋で寝こともなく、茜の部屋は俺の隣だった。


「おはよう。なんだか冴えない顔ね」

「生まれつきだ」

「違う。気分が冴えないって方よ」


 顔を合わせてすぐにそんなことを言われたので、悪口を言われたのかと思いむっとしたが、単純に心配してくれているだけのようだ。

 昨日の秋吉さんの話によると、客間で朝食もごちそうしてくれるということだったので、二人で向かった。


「昨日のことを考えてたら眠れなくてな」

「竹千代の誘拐事件のこと? それだったら無事に解決したじゃない」


 本人に直接、「なぜ人を斬って平気でいられるのか」などという意味合いのことを聞くのはかなり勇気が必要だった。


 気まずい沈黙を作りながら悩んでいるうちに、客間の前に着いてしまった。


 いずれは強制的に答えを出さなくてはならない時が来る。そう考えると心の準備をしておくためにも、やはり聞いておくべきだと思った。


「なぁ茜――」

「おお、早いな二人とも! 朝食の支度はできてるぞ」


 茜が襖を開ける前に聞こうと思ったのだが、向こう側から開いてしまった。


――竹千代め、お前からは翔馬と同じ才能を感じるぞ。


「おはよう。なにからなにまで悪いな」

「昨日の恩に比べればこのようなこと、なんでもない」


 あの無邪気な笑顔を思い出しながら、心の中でチッと舌打ちをした。


 朝食は将軍家の屋敷だけあって、かなり豪華だった。今朝獲れたばかりの魚の刺身や蟹を贅沢に使った味噌汁など、新鮮な魚介類がメインだ。この屋敷は港の近くにあるので、新鮮な魚をすぐに仕入れることができるのだそう。

 昨日食べ損ねた俺たちにとっては有難い。


「すごく美味しいですね! これ全部秋吉さんが?」

「ええ、この屋敷の使用人の中で僕以外に料理できる者がいませんから」

「と言っても、秋吉ともう二人しかいないのだがな」


 後で秋吉さんが教えてくれたところによると、これも例の甘やかさない教育の一環らしい。他の二人は掃除やら洗濯やらで忙しくて、顔を見ることがなかったらしい。


「ごちそう様でした。ふー、美味しかったわね」

「もう食べれないな」

 

 あまりに美味しくてついつい食べ過ぎてしまった。こんなことを言うと怒られるが、茜もなかなかの食べっぷりだった。


 徒歩でなくなった関係で、俺たちはそこまで朝早く出発しなくても良くなった。とは言え、先を急ぐ身としては早く発つに越したことはない。

 名残惜しいが竹千代たちとはここでお別れだ。


 さすがに悪いので、門の前まで送ってくれると言ってくれたのを断り、屋敷の前で別れることにした。


「いろいろとお世話になりました。本当にありがとう」

「こちらこそ若様を助けていただいて、ありがとうございました」

「旅の帰りにも寄ると良い。また会おう!」


 竹千代はそう言って別れの挨拶をしてくれたが、元の世界に帰ってしまえばもう会うこともないだろう。

 結局、俺の事情は最後まで伝えなかった。

 

「あぁ、また会えると良いな!」


 俺のその妙な表現に竹千代は首をかしげるも、茜がそれを察してフォローしてくれた。


「きっと寄るわ。じゃあまたね」


 そうして二人に見送られながら屋敷を後にした。


 まずは鹿小屋に向かい、武蔵と桜を迎えに行った。二匹は一日放置したのに大人しく待っていてくれた。


「ほったらかしてごめんな」

「キャァ!」


 武蔵は全く問題ないと言わんばかりに凛々しい佇まいでいた。

 こんな俺に忠誠心を持ってくれていることに改めて感謝しつつ、次の町を目指して旅立った。


 それからの旅路は特にこれといった出来事もなく、順調に進んでいった。道中、何回か避け損ねた魔物に遭遇して交戦したが、俺一人でもなんとか倒せるほどだった。

 

 ルートとして言えば湖に沿って迂回する道のりで、途中で一日野宿した後、ちょうど浮島の対岸に位置する一碧という町に寄った。

 ここでは幸い、何事も起ることなく補給に専念できた。


 この町からは、この先にある山の麓までで一日、そこから山を越えもう一日で加茂まで着く。

 

 想定外の出来事というのは決まって、そういった油断の隙を突いて起こるものだ。



 * * *



 武蔵たちの休憩の為、俺たちは小休憩を取っていた。



「あー、尻が痛ぇ」


 一応クッションのようなものは敷いているものの、ずっと座りっぱなしだとそんなの関係なしに痛くなってくる。


「あと一日の辛抱よ。男なんだから我慢しなさい」

「んなこと言ったって……」


 女子なのに平然としている茜に言われては、何も言い返しようがなかった。


「あのさ柊、私ちょっと見回りしてくるね」

「おう、分かった。気を付けろよ」


 急に言い出したので何かと思ったが、もじもじした態度で分かった。俗に言うお花摘みというやつだろう。

 女子にそれを尋ねるほど無神経な男をやってはいないので、そのまま話を合わせておいた。


 茜が行ってしまうと、そこには俺と武蔵と桜の一人と二匹しかいなくなった。

 しばらく待っていると草むらががさがさと揺れた。


 俺はてっきり茜が帰ってきたのかと思い、「おかえり」と声をかけようとした。


 現れた人物は茜ではなく男だった。歳は俺と同じくらいで、ギラギラとした目つきが恐い。そして着ているものはボロボロで、はっきり言って汚かった。唯一綺麗なのはそんな格好に不似合な、腰に差した刀だけだ。


 それもそのはず。その刀はいつも茜が大事にしている刀(・・・・・・・・・・)だったのだから。


 そいつは俺を見るなり、いきなり襲いかかってきた。


「うわっ!」


 咄嗟にしゃがんで避けると、頭の上を刀がブンッと通過した。

 躱せたのは本当に運が良かったのだと思う。一歩間違えば確実に首が飛んでいた。

 隙を見て俺も抜刀する。


「おい、やめろ! いきなりなんだよ! てかその刀、どうしたんだ」


 俺が必死に対話での解決を求めるも、そいつは聞く耳を持たない。

 続け様に片手で持った刀でがむしゃらに斬りつけてきた。


 刀の扱いに慣れていないのか、太刀筋はでたらめで、辛うじて受け止めることができた。


 何回か刀を打ち合わせた後、なんとか鍔迫り合いに持ち込んだ。


「どうして、いきなり襲ってくる?」

「……」


 物凄い力で押し込んできながら、なおも口をつぐむ少年に、


「なにが目的だ?」


 こちらも負けじと押し返して、聞き返す。


「お前らは持っていて、俺は持っていない。だから奪う。それだけだ」


 少年は、その顔と同じく感情の無い声で呟くようにして言った。

 

「持ってるって何を? 例えどんな理由でも人を傷つけて良い訳無いだろ」

 

 俺がそう言い返した途端、少年の表情に変化が現れた。

 今までの無感情な顔に、怒りとも取れるような険しい形相が広がったのだ。


 それから少年は、まさに鬼気迫る勢いで攻め込んできた。相変わらず技の綺麗さは無いが、キレはかなり増している。


 数度、刀を交わしてから遂にその時は訪れた。

 

 それまでの攻撃は単調な斬り付けだったのに、いきなり突きを入れてきたのだ。


 突然の変化に対応しきれず、脇腹に焼けるような激痛が走った。


「ぐぁぁあ!」


 痛みの余り、刀を取り落とし地面を転がり回った。


 少年はそんな俺のことを冷めた目で一瞥すると荷物のところまで行き、食糧が入った包みに手をかけた。


「ちょっとあんた、何やってんのよ」


 声がした方には茜が立っていた。顔は冷静を装っているも、抑えきれない殺気が漏れ出ている。


 茜のその様子から実力差を察してやばいと思ったのか、少年は一目散に逃げ出した。

 なお、逃げるのに重たいと思ったのだろう。茜の愛刀『蜻蜓せいてい』は置いていってくれた。




 痛みでぼんやりとした意識の中で、そこまでは分かった。

 しかし、茜が来てくれた安心からか、そのまま気絶してしまった。


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