13.浮島
遅くなりました第13話です!
※大和鹿は~の文を追加
「なぁ、これなら最初から大和鹿使えばよかったんじゃないか?」
余りの速さに、今まで歩いてきたのが馬鹿らしくなってしまう。馬みたいな鹿 だけに。
「大和鹿はあの辺りにしか生息していないの。それに性格上、捕まえた人の言うことしか聞かないし」
「まあそれなら仕方ないか」
大和鹿は警戒心が高く、そうそう捕まえられないらしい。つまり俺たちは相当ラッキーだったということだ。
俺たちが今歩いているのは浮島の商業区とも言える場所だ。魚屋、八百屋、金物屋などの普通の商店から食事処や甘味処まであらゆる店が揃っている。
ここ浮島は湖の畔に位置するため漁業が盛んである。さらに大量に湧き出る温泉のおかげもあって大和でも最大の町の一つとなっているそうだ。
「えーと、次は保存食ね。それが済んだらひとまず買い物は終わりよ」
俺たちは食料や雑貨の補給の為にここを訪れていた。なんでも、この先はしばらく町がなく、一日か二日野宿しなくてはいけないらしい。
「そもそも大和鹿が捕まったから良いものの、捕まんなかったらどうしてたんだよ」
「もちろん歩きに決まってるでしょ」
「ほんとありがとうな、武蔵」
どこかで「キュェェ!」という返事が聞こえた気がした。
俺は自分の乗っている大和鹿を“武蔵”と名付けた。この名前が気に入ったらしく、武蔵は名前を呼ばれると嬉しそうにしている。(ちなみに茜のほうは“桜”と付けていた)
武蔵と桜は町の入り口にある公営の鹿小屋(馬もいるが)に置いてきている。
茜が買い物を先に済まそうと言ったせいで、もう空腹が限界だった。早いところ済ませて飯にありつきたかったので急ぎ足で商店へ向った。
――ドンッ
その途中、誰かが俺にぶつかって来た。俺は鍛えた体幹のおかげでなんともなかったけど、相手が転んだのでとっさに謝った。
「すみません! 大丈夫で――大丈夫?」
「気をつけろ! 余――俺を誰だと思ってる」
ぶつかってきたその子に手を差し伸べて起こしてあげようとしたが、なんだか偉そうな態度で振り払われてしまった。
「何よあんた、ぶつかっといてごめんなさいも言えないの?」
「いいよ、子供なんだし許してやろうよ」
茜が子供相手にしては強めに当たっていたので、まぁまぁとなだめる。
中学二年の俺も子供ではあるのだが、この子はどう見ても小学三、四年生くらいだった。小綺麗な格好をしていて、そこら辺を走り回っているちびっ子たちとは違った雰囲気がある。
「ぐっ、子供では無い! 俺にはしかと授かった竹――」
「若様! こんなところにいらっしゃったのですか」
その子に逆ギレされて困っているところに、俺と同じように困り顔をした年若い青年が走ってきた。
「おお、秋吉! 良いところに来た。こやつが余――俺に無礼を働いたのだ」
「状況を見るに若様がよく前を見ずに走ってこの方にぶつかったように思われますが?」
秋吉と呼ばれた青年はこの子の扱いに慣れているのか、一瞬で状況を把握したようだ。
話の流れからして、この子は身分が高いのだろう。だって若様とか呼ばれてるし。
とにかく、あらぬ罪を着せられることはなさそうでホッとした。
「でもなぜ俺が……」
「若様、悪いことをしたら詫びる。これも立派な大和人――いや武士としての心得です。さあ」
「……すまなかった」
秋吉さんに促されて、ふてくされた感じながらも謝られた。
まさかこんな大ごとになるとは思わなかったので多少焦った。
「いえいえ、自分の不注意もありましたから申し訳ございません」
こちらにも非があるのは確かなのでそこはしっかりと謝罪した。
「それでは」
丸く収まったところで秋吉さんは若様の手を引いて去っていった。
「なんでいきなり大人しくなったんだよ」
「あの子どこかで見たことある気がするのよね……。」
大人しくなったと言うより、ずっとそれについて考えていたようだ。
「まぁ、もう会うことも無いだろ。そんなことより腹減ったー。飯にしようぜ!」
「そうね……。駄目よ。先に買い物を済ませないと」
いまの一件で忘れてくれないかなーと思ったがやっぱり駄目だった。
なにせ茜の買い物は長い。俺が「これは?」と聞いても、ああだこうだと言って選び直すのだ。
文句を言ったところで飯の時間は近づいてこなさそうなので、しぶしぶと先を行く茜に従った。
その後は結局、保存食と焚き木用の油を買った。焚き木は火創造系の力法で良いのではないかと思ったが、媒体となる木や油を用いた方が連続行使しなくて良い分、負担を減らせるらしい。
俺たちが町に着いたのが大体昼の二時ごろで、買い物が終わった頃には四時を過ぎていたと思う。
「これじゃあもう夕飯だな」
「早めの夕食もいいじゃ無い。昨日あまり寝れてない分今日は早めに寝ましょ」
「ふぁ〜あ、そうだな」
確かに昨日はなかなか寝付けなかった。そう考えると途端に眠気がしてきた。
「ここは魚が旨いんだよな? じゃあ今日は豪華に海鮮といこうぜ」
「あまり無駄遣いは出来ないけど、今日くらいは奮発しても良いわね」
二人とも疲れていて美味しいものが食べたいということで、海鮮に一致した。
湖なのだが浮島湖は海水で、何故か海魚が普通に取れるという。
こういう些細なところで異世界補正がちょいちょい入るなぁ。
海鮮系のお店は湖の方の漁港がオススメだと食料品店のおばちゃんが教えてくれた。
浮島は入り組んでいるので、ついでに漁港への抜け道なんかも聞いておいた。
おばちゃんに聞いた通りに裏路地やら大通りやら色んな道を歩いていく。
もちろん厄介ごとには巻き込まれたくないので細心の注意を払ってだ。
ところがこういう時に限って事件は起きるものだ。
「うわぁぁぁ――」
突如として聞こえた叫び声は、一瞬で途絶えてしまったが、聞こえてしまったからには放っておく訳にはいかないだろう。
それに、
「いまの声って……。」
「あぁ、さっきの若様の声と似てたな」
ここ最近俺はよっぽど運が無いな。
何やら面倒ごとの予感がする。




