11.眠れない夜
展開が遅くてすみません(汗
これでやっと伊津の町が終わりです
※11/23 閑話と入れ替えを行いました
暗くてよく分からないが、弁慶は背負っていた刀達を放り捨てたように見えた。
突然自分の背中が燃えだしたのだから当然の行動だろう。
俺は弁慶が刀に近づけないようにそのまま火を纏わせるイメージをし続ける。
暗闇の中、突如として出現した謎の出火現象にはさすがに門番たちも気付いたらしい。
バタバタと何人かの門番が走って行くのが見えた。
俺は、いつまでも倒れていても仕方ないので痛む体に鞭打ってよろよろと立ち上がった。
「茜、大丈夫か?」
「逆にこれで大丈夫に見えるの?」
言い返してくる元気があるなら大丈夫ということだろう。
「とりあえず、確認しに行ってみるか」
「そうね、早くしないと野次馬が集まってきて面倒そうだし」
事実、いくら夜とはいえ門の周りの異常に気付いた人がちらほらとこちらの様子を伺っている。
満身創痍の体を二人で支え合って何とか門までたどり着くと、当然の如く止められた。
「今燃えているのは俺の刀なんです!」
「ダメだ! どういう事情かは分からないが外へ出るのは許可できない」
そうは言っても、俺たちの様子を見てただごとでは無いと思ったのか、一応話を聞く姿勢はとっている。
「今、あたしの仲間らが調査中よ。もう少しで帰ってくると思うからちょっと待ってなさい。誰か! この子達の手当てをしてあげて」
門番の中には数名の女性もいて、俺らの対応をしてくれているのもそのうちの一人だ。
俺は特にひどかった腕の打撲を氷で冷やしてもらった。
手当てを受けながらしばらく待つと外に出ていた門番たちが帰ってきた。
彼らの手には真っ黒な煤にまみれた刀たちがある。肝心の『道化』はというと、さっき手当てを受けた際に炎を解いたので普通の姿で帰ってきた。
「あの、その燃えていたの俺の刀です」
一応申し出てみたものの、やはりというか、
「って言っても、それを証明出来る物とかが無いとなぁ」
と、持っていた男の門番に言われた。そう簡単には返して貰えないようだ。
さっき聞いたのだが門番のお姉さんは志織さんというらしい。
「まずは話を聞かせてちょうだい」
それか志織さんによって事情聴取が行われた。俺たちは知っている限りのことを話した。
「なるほどね、あの“鬼若”が来ていたなんて……。もしかして最近の盗賊騒動も同一犯なの?」
「いや、盗賊と弁慶は関係無いと思います。最初から俺の刀だけが狙いみたいだったし」
なにせ話によると盗賊被害は金品が主だということで、武器収集をしていた弁慶だとは考えにくい。
「ということはまだ盗賊の件は解決しないままになりそうか。それはそうと空間の力法なんて本当に実在するのね」
ちなみに門番たちが駆けつけた時には二人の姿はどこにもなかったという。
さすがに人数的にも部が悪いと思って逃げたのだろうか。
「それで、どうしたら刀を返してもらますか?」
「良いわよ、もう事情は分かったから返してあげる」
「へ?」
余りにあっさり返してもらったので思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
「これでも眼には自信があるのよ。さ、もう遅いから宿に戻りなさい」
と、意味深に微笑んで去っていった。
「さっき志織さんも驚いていたけど、そんなに珍しいものなのか?」
「珍しいなんてもんじゃ無いわよ! それこそ伝説とか言い伝えくらいの話だわ」
現在、俺たちは予想外に早く釈放されて宿に戻る最中だ。
「昔、とある国の領主に清和元次という人がいて、どんな戦でも無類の強さを誇ったそうよ。空間の力法を使ってね」
茜は若干興奮気味に説明してくれる。
「ただ瞬間移動が出来るだけで何が強いんだ?」
「考えても見なさい。敵陣の真ん中にいる大将の所に突然現れて、奇襲をかければどんな相手も一撃よ」
なるほど、そういう使い方もあるのか。
茜の話によると、この世界の人々にはその血筋ごとに力法で扱える“対象”が決まっているらしい。例えば静の“空間”のように。
ただ、“火”や“水”といった基本の元素は訓練すれば誰でもある程度は使えるという。
「じゃあ、三つの系統はどういう役割?」
「それは人ごとに使える系統があるの。私の例で言うと、秋月家は“風”の血統で、私は制御系しか使えない」
「系統は一人一つしか使えないのか?」
「本当に少しなら他も使えるけど、普通は一つよ。でも稀に二つ完璧に扱う天才もいるわ」
これで大体、この世界の魔法事情がわかった。血統で決まった“対象”と個人の使える“系統”の組み合わせで使える力法が決まる。そして得意系統は基本一つということだ。
「そうなると、血筋で随分と強さに差が出るな」
「そうでも無いわ。強力な力法ほど消費する力も多くなるから」
力、というのは空気中に存在する力素を練ったもので、RPG風に言うMPだそうだ。
強力な力にはそれ相応の代償が必要だということらしい。
「それにしても、さっきの『道化』が炎を纏ったやつ。あれは茜が言ってた能力かな?」
「多分そうだと思う。まさかこんなに早く使いこなすなんて驚いたわ」
「いや、さっきからもう一度やろうとしてるけど出来ない」
俺は手にした『道化』を見やる。その拵には焦げ目すらも無く、燃えた痕跡が一切残っていない。
他の刀は鞘が燃え、柄の糸も焦げていたのに。
「そうなんだ。でも、まずは第一歩よ」
「そうだな。これから使えるようにしていこう」
話しながら歩いていたので宿に戻るのに時間がかかってしまった。
さすがに今晩は色々ありすぎた。
俺と茜は烏の行水で風呂を済まして、すぐに寝ようとしたのだが――
「なんで布団が一つしか無いのよ!」
与えられた部屋には中央に布団が一つ敷かれているだけで、部屋中探してももう一つの布団は無い。
「俺が宿の人に聞いてくるよ」
茜を部屋に残して宿の人を探すが、かなり遅い時間なので誰もいない。
帰ってきた俺の返事を聞いた茜は「はぁ」と大きくため息をついた。
「仕方ないわ。これで寝るしかないんだもの」
「じゃあ、俺はそこらへんの壁に寄り掛かって寝るよ」
さすがに女の子に恥ずかしい思いはさせられないと、申し出る。
「一緒でいいわよ。それじゃあ疲れも取れないでしょ」
茜が顔を赤くしながらそう言うので、これ以上言っても茜に悪いと思い、お言葉に甘えることにした。
「でも、向こう向いてるのよ!」
「わ、分かってる」
俺だって初めての経験で恥ずかしい。赤くなった顔を見られたくないので反対を向いて寝た。
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
その日の晩、なかなか寝付けなかったのは言うまでもない。




