それから
それから、半年経った。私は、澪子と晶にずっと会っていない。それでも、私は何度か懲りずに、みんなで集まる提案をしていたが、二人から断られてしまった。
晶からは、短いメールが送られてきた。あのときの女の子と仲良くやっているから、心配しないで欲しいと。私は少しだけ肩の荷が下りた気がした。
詩織とは、何回か食事に出かけたけれど、箱根でのできごとは、何度話しても、解決策が見いだせなかった。あんなに仲の良かったのに、もう修復は無理なのだろうか。
心に二本の棘をさしたまま、私は仕事に没頭した。一本は、澪子と晶のこと。もう一本は普通の恋愛ができない自分に対するいら立ちだ。
私は、仕事帰りや休日は、仕事の役に立ちそうな金融の資格を取ろうと、勉強に没頭した。男の人と知り合いになったら、また傷つくかもしれない。そう思うと、飲み会や合コンにも行けなくなった。
ある日、私は、澪子に呼び出された。あの一件以来、服装もメイクも落ち着いたものを好むようになった私は、シンプルなパンツ姿で待ち合わせに向かう。勉強の邪魔にならないように、髪の毛は結んでいることが多くなった。
澪子は、あのときよりも落ち着いているように見えた。私が感じた華やかなきらきらしたオーラはないが、落ち着いて凛とした気品を感じた。
「真由、久しぶり」
手を上げた澪子の指に指輪は、はまっていない。私はすぐに気がついたが、何も聞かなかった。
食事をしようと、この前も入ったパスタ専門店に入ると、澪子は、和風のパスタを頼んだ。
「クリームパスタってしつこいよね」
メニューを見ていた澪子は眉をひそめた。
「あれ?」
目を丸くする私に澪子が言った。
「私、結婚するのやめたの」
私は水をひっくり返しそうになった。
「あのことが原因って訳じゃないの。でも、色々考えて、私、彼に気に入られるように無理してんだって思えてきて」
澪子が晴れ晴れとした顔で、言う。
「あのときの私、変だったもん。結婚するって優越感持っておかしくなってた。真由たちのこと、うらやましいって言うくらいなら、私も頑張ってみようって思ったの」
私はきっぱりとした澪子の口調にいらいらしたと同時に、なんとなくうれしい気持ちになった。
また、駅の改札で別れて、ホームに向かった。ホームに着くと、反対側のホームに澪子が見えたので、手を振って笑い合った。すぐに私のいるホームに電車が滑りこんできて、乗りこむ。反対側のホームの澪子がこちらを見ていた。
澪子は嫉妬する自分を受け入れて、自分の進む道を切り開いてみせた。次は、私が切り開く番だろうか。
次に知り合った男の人なら、気持ち悪いと思わないかもしれない。もしかしたら、どこかに、私に身体的な繋がりよりも、精神的な繋がりを求める男の人がいるかもしれない。
普通の恋愛ができなくても、人を好きになってもいいのだろうか。私の悩みは誰にも言えなかったけれど、その答えは私自身で出そうと決めた。私は自分で恋愛をする資格がないと決めつけていた。でも、本当は、恋する資格なんて、はじめから存在しないのかもしれない。
動き出した電車の中で、私も動き出そう。そう思えた。