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恋するココロの育て方  作者: 虹色
第六章 恋って……。
89/92

89  由良 ◇ そうだったの!?


「みゃー子、いい加減に仲直りしなよ。」


部室に向かいながら、利恵ちゃんが呆れたように言った。


「もう金曜日だよ? 今週ずっと、佐矢原くんのこと無視しっぱなしじゃん。可哀想だよ。」

「そんなこと言ったって、あたしが一方的にやってるわけじゃないもん。佐矢原くんだって、何も言って来ないんだから。」


「言って来ない」どころか、わたしの方を見ようともしない……という事実は口に出せない。悲しすぎて。


「本当は気にしてると思うよ? みゃー子からきっかけをつくってあげたっていいじゃん。」

「佐矢原くんは気にしてなんかいないもん。気にしてたら、もうとっくに何か言って来てるはずだよ。」

「そりゃあ、みゃー子が怖い顔してるから。」

「怖い顔なんかしてないもん!」


利恵ちゃんが「あーあ。」とため息をついた。


「少しは佐矢原くんの気持ち、考えてあげたら?」

「佐矢原くんの気持ちって……、もう嫌いになっちゃったんだよ、あたしのこと。」

「そういうことじゃなくて。」

「じゃあ、何?」


生物室に着いてしまった。でも、部室でこんな話をしたくない。だから、手前の廊下で立ち止まって、利恵ちゃんと向き合った。


「どうしてみゃー子にマネージャーの休部のことを話さなかったのか、考えてみた?」

「え、それは……。」


訊いてみなかった。電話では、ただ「マネージャーさんと話をしたら?」と勧めただけで……。


「みゃー子先輩! ちょうど良かった!」


福ちゃんの声。


振り向くと、福ちゃんの後ろに春野さんと山辺さんがいる。


「こんにちは。」

「この前はどうも……。」


二人がおずおずとわたしに頭を下げた。


「あ……、こんにちは。」


二人の顔を見たらほっとした。これで利恵ちゃんの追求から逃れられると思って。


「どうしたの?」

「この二人が先輩と話したいって言うので……。」


福ちゃんは機嫌が悪そう。でも、二人の態度はこの前と違う。


「あの……、先輩が相談に来てもいいって言ってくれたから……。」

「うん、もちろんいいよ。来てくれてありがとう。」


(良かった。)


わたしがやったことは間違いじゃなかったんだ。わたしでもこの子たちの役に立てるんだ。そしてたぶん、佐矢原くんの役にも……?


「そ、そんな。お礼を言うのはあたしたちの方で。」

「そうです。」


春野さんと山辺さんが驚いて慌ててる。そんなわたしたちに、利恵ちゃんが腹立たしそうな顔を向けた。


「もう! お礼なんか言い合ってる場合じゃないよ。みゃー子は今週、佐矢原くんとずーっと口きいてないんだからね。」

「利恵ちゃん!」


そんなこと言わなくてもいいのに!


「え!? まだ喧嘩中なんですか?」

「そうだよ。ずっと無視。あなたたちのせいじゃないの?」

「あ〜〜〜〜、すみませんでした〜〜〜〜!」

「申し訳ありません!」


ペコペコと頭を下げる二人に、利恵ちゃんがきっぱり言った。


「あたしも一緒に話を聞くからね。そもそもの最初から、ちゃんと説明しなさいよ?」


確かにそうだ。わたしもそこから聞いた方が良さそう。




「休部しようって決めたのは、先週の火曜日の昼休みです。」


西棟と北棟の曲がり角の廊下に、わたしと利恵ちゃん、そしてマネージャーさん二人の合計四人で座って話すことにした。ここなら見通しが良くて誰かが近付いて来たらすぐに分かるから、聞かれたくない話をするにはちょうどいい。


「火曜日っていうと……代休の次の日だよね?」


利恵ちゃんが確認した。


(ああ、あの日か。)


胸がきゅーんとした日。佐矢原くんを好きだって気付いた日。お誕生日を教えてもらおうと思って――。


「あれ?」


思わず声が出た。三人の視線がわたしに集まる。


「お昼休み、佐矢原くんのところに来てたよね? 廊下で楽しそうに話してたでしょ?」


今でもはっきり覚えてる。親しげな雰囲気が……ちょっとショックだったから。見たくないと思うほどに。


でも、わたしの言葉に、たちまち春野さんたちが視線を伏せた。


「佐矢原先輩は楽しくなかったと思います。本当は迷惑がっていたんです……。」

「えぇっ!?」


驚くわたしを利恵ちゃんがちらりと見て、二人に視線を戻した。


「あたしたちがまとわりつくのを嫌がって、『離れてくれ』って言われました。それと、『昼休みに毎日来なくてもいい』って。」


(うそ……。)


知らなかった、そんなこと。


「昼休みに来なくてもいいっていうのは、前にも言われてたんです。でも、あたしたちが無理に理屈を押し通して……。」

「どうしてそこまでしたかったの?」


利恵ちゃんの冷静な声。


「野球部のために一生懸命やってるって……みんなに見せつけたかったんです。それに……佐矢原先輩の彼女になれたらいいなって……。」


(彼女に……。)


心の中に「やっぱり」という言葉が浮かんだ。


(明るくて元気で可愛い後輩。グズで強情っぱりのあたしなんかダメだ……。)


二人はしょんぼりした様子で話してくれた。


「あたしたち、二人で佐矢原先輩と風間先輩の彼女になれたらいいよねって話してたんです。」

「風間先輩って……?」

「副キャプテンです。野球部の。」

「ええと、つまり、あなたたちマネージャー二人が、野球部のキャプテンと副キャプテンの彼女になるっていうシナリオだったわけ?」

「はい。そういうのって……カッコいい感じがして。」

「なんとも短絡的。」


利恵ちゃんが呆れたように天を仰ぐ。


「あの怖い先輩にも言われました……。」

「怖い先輩?」


(あ。)


「聡美だよ、利恵ちゃん。」


あのとき確かに言っていた。呆れた顔で「お子様!」って。あれは聡美の想像だと思ったけど、図星だったのか……。


利恵ちゃんは納得した様子でうなずくと、二人に先を促した。


「でも、夏休み中に、風間先輩には彼女ができちゃって……。」

「佐矢原先輩だけは絶対にとられたくないって思って……。」

「チャンスは全部使おうって相談して……。」

「二人してしつこくつきまとったわけね?」


利恵ちゃんの言葉は容赦がない。


「はい。」


二人がしょんぼりと答えた。


「佐矢原先輩はやさしいから、あたしたちのこと追い払いきれないって分かってたんです……。」


佐矢原くんはやさしい。そのとおり。


「だから、文化祭の日に、みゃー子に意地悪なことを言ったんだね?」

「え、利恵ちゃん、そのことはもういいよ。あれは誤解されてもしょうがなかったんだから。それに、あたしが悪いんだもん。」


もう終わったことだ。今は関係ない。


「あのことも、悪かったと思ってます。」

「体育祭で、鈴宮先輩が佐矢原先輩と二人三脚に出たから悔しくて……。」

「え?」


(二人三脚?)


「だから鈴宮先輩に意地悪したり、佐矢原先輩と一緒にいるところをわざと邪魔したりしたんです。」

「そうだったの……?」

「みゃー子、気付きなよ、それくらい。」


利恵ちゃんはさっきから呆れてばっかりいる。申し訳ない。


「それでも効果が無くて、あの日、佐矢原先輩に、お昼休みに来なくていいって言われてカッとなって……。」

「鈴宮先輩のことでも嫌味を言ったりして……。」


(え? 佐矢原くんに?)


「佐矢原先輩は、『部活のことと鈴宮先輩のことは話が別だ』って言ったんですけど……。」

「あたしたち、もうただ悔しくて、ほかにも意地の悪いこといろいろ言って……。」

「みんながあたしたちを邪魔者扱いしてるって……。」

「そんな! 佐矢原くんにお昼休みのことを言われたからって、みんなが邪魔者扱いしてるなんて、考えすぎでしょう?」


思わず言うと、二人は気まずい顔をした。


「あたしたち、一年部員にはあんまり評判が良くなくて……。」

「風間先輩には彼女ができちゃったし……。」

「クラスの女子にもあんまり好かれてないし……。」


やっぱり気付いていたんだ……。


「要するに」と、利恵ちゃんが少し厳しい顔で二人を見た。


「あなたたちは、佐矢原くんを自分たちの後ろ盾にしたかった。でも、そうはならないことが分かって、佐矢原くんにひどいことを言った。」

「はい……。」

「それでも佐矢原くんが引かなかったから、仕返しに休部をした。そういうことだよね?」


さすが利恵ちゃんだ。はっきり言う。


「はい……。」


背の高い二人が小さくなっている。


(それにしても……。)


仕返しに休部をするなんて。佐矢原くんを……、野球部のみんなを困らせるために? 自分たちの価値を認識させるために?


「みゃー子。」

「え、は、はい。」


利恵ちゃんがわたしにも厳しい表情を向けた。


「みゃー子は佐矢原くんの何を怒ってるの?」

「それは……」


(最初は……、あれは……。)


「佐矢原くんがこの子たちに、休部の理由をちゃんと聞いてあげないから……。」


(そうだ。あの日、電話で。)


「佐矢原くんはこの子たちと仲が良かったと思っていたから……、話を聞いてあげないのは冷たいって……。」


(ああ、ごめんなさい、佐矢原くん。)


休部の理由は分かっていたんだ。


「みゃー子だって、話をちゃんと聞いてあげてないじゃん。」

「うん……。」

「それにさあ、佐矢原くんはマネージャーの休部のことをみゃー子に言わなかったんでしょ? それって、みゃー子のことを考えたからじゃないの?」

「え……?」


(あたしのこと?)


「この二人がみゃー子のことで当てこすりを言ったから。文化祭のいざこざもあるし、みゃー子がこの子たちの休部を自分のせいだって思ったら可哀想だと思って、隠してたんじゃないの?」

「それは……。」


あるかも知れない。佐矢原くんなら。


「だから、みゃー子、意地を張ってないで仲直りしなよ。」

「だけど……。」

「なによ?」

「佐矢原くん、もうあたしのこと嫌いかも……。」


利恵ちゃんがため息をついている。その横で春野さんたちが慌てだした。


「せ、先輩! それじゃあ困ります!」

「そうです! あたしたちのせいで先輩たちが別れちゃったりしたら。」

「申し訳なくて、もう野球部に戻れません!」

「え? 戻りたいの?」


それは良い知らせかも。


「はい!」

「そのことで、鈴宮先輩に相談に乗ってもらいに来たんです。」

「ただ戻るだけじゃなくて、あたしたちが反省してるって分かってもらう方法を何か。」


二人の熱心な態度には救われる気がする。


「ちょうど良かったじゃない、みゃー子。」

「え?」


利恵ちゃんがやっと微笑んでくれた。


「この子たちと一緒に佐矢原くんと仲直りしておいでよ。」

「あ……。」


仲直り……。


(そうだな。)


わたしの方が悪かったのは間違いない。だから、謝らなくちゃ。


許してくれないかも知れないけれど、悪かったという気持ちは伝えたい。







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