表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋するココロの育て方  作者: 虹色
第六章 恋って……。
85/92

85  由良 ◇ 気になるうわさ


「佐矢原先輩とみゃー子先輩ならお似合いだと思ってましたよ。」


月曜日の放課後の生物室。シャーレに入ったプラナリアを観察しながら、自然科学部後輩の福ちゃんが言った。


利恵ちゃんがわざわざ部活の女子に、わたしがきのう、佐矢原くんと出かけたことを報告してしまった。そのことでさっきまで散々冷やかされていた。それがやっと終わって、ほっとしていたところだったのに……。


「え、そう、かな?」


こういう話題はどうしてもおろおろしてしまう。どんな態度で答えたら良いのか、ちっとも分からないから。利恵ちゃんや聡美みたいに堂々としていられれば良いのだけれど、わたしにはそれが難しい。だって、自分が佐矢原くんを好きだということを、態度や言葉にあらわすのが恥ずかしいから。


「そうですよ。自然科学教室のときからずっと思ってました。佐矢原先輩、みゃー子先輩にとってもやさしかったし。」

「え、あたし、あのときは佐矢原くんとそんなに一緒にいなかったと思うけど。瀬上先輩がほとんど付きっきりで写真の特訓をしてくれてたから。」

「そう言えばそうでしたっけ? でも、佐矢原先輩と一緒にいたときもありましたよね?」


(え? まさか、あの夜のこと……?)


二人でいたといえば、一緒に星を見た夜のことしか思いつかない。見られていたのかと思うと、冷や汗が出る思いがする。


(いやいや、あれを見られてたら、今まで言われなかったはずがないよ。うん、絶対に違う。)


シャーレに集中しているふりをして黙っていると、福ちゃんが続けた。


「時間は短かったかも知れないけど、そっちの方が印象に残ってるんです。みゃー子先輩が瀬上先輩と一緒にいるのは見慣れた光景でしたから、佐矢原先輩と一緒のときの方が新鮮に映ったんですね、きっと。」

「あはは、佐矢原くん、大きくて目立つしね。」

「ああ、そのせいかも知れません。」


やっぱり夜のことじゃなかったみたい。二人で星を見たことは、今は甘い思い出だ。いつかまた行けたらいいけれど……。


「春野たちも、佐矢原先輩に付きまとうのやめたみたいですし、良かったですね。」

「え?」


(春野たちって……野球部のマネージャーさんのこと?)


「そうなの?」


そう言えば、最近はお昼休みに見ない気がする。


「あれ? 知りませんでした? 二人とも休部してますよ。」

「休部?」

「はい。」

「二人とも?」

「ええ。」


二人とも休部なんて、なんだか変だ。もちろん、女子だと「何でも一緒」的な考えで行動することも有り得るけれど……。


「何か都合があるのかな? 塾とか体調不良とか。」

「さあ。あたしは単なるわがままだと思ってますけど。」

「わがままだなんて……。」

「言い過ぎじゃないですよ。クラスの女子のあいだでも、ちょっと浮き気味だったんです。自慢話ばっかりするから。みんな、口には出さないから本人は気付いてないけど、『ふうん、それが?』みたいな雰囲気なんですよね。」


中学からの知り合いで、もともとあの二人に良い印象を持っていない福ちゃんの口調は厳しい。


「そうだったんだ……。」


言われてみると、あの二人がほかの女の子と一緒のところを見た記憶が無い。体育祭のときは、春野さんが一人で佐矢原くんのところに来た。文化祭で佐矢原くんを誘いに現れたときも、違うクラスのあの二人で一緒だった。わたしから見れば「野球部のマネージャー」というくくりだから、それは普通に思っていたけれど。


(でも……。)


二人とも、佐矢原くんのところに来るときは、とても楽しそうだった。


(もしかしたら、あの子たちは気付いていたんじゃないのかな。)


クラスの女子に馴染めていないことに。だから、お昼休みに佐矢原くんのところに来ていたんじゃないだろうか。


(だって。)


自分が浮いていることって、なんとなく分かるものだもの。人見知りのわたしには経験があるからよく分かる。


浮いていることに気付いても、気付かないふりをするしかないのだ。浮いていることをクラスメイトの前で認めたくないし、そのことで自分が落ち込んだり劣等感を持っていたりすることを知られたくないから。それはプライドでもあるし、自衛のためでもある。


「みゃー子先輩が気にすることないですよ。」

「え?」

「春野と山辺の休部。」

「あ、ああ……うん。」

「あの二人が野球部で何かトラブったとしても、悪いのはあの二人だと思います。いくら佐矢原先輩が部長でも、春野たちの休部の責任なんか無いですよ。」

「うん……。そうかもね。ありがとう。」


福ちゃんはわたしが佐矢原くんの心配をしていると思ったみたい。でも、わたしが心配しているのは二人のマネージャーさんのことだ。二人とも、あんなに嬉しそうに佐矢原くんのところに来ていたのに。それに、退部じゃなくて「休部」ということも気になる。


(何があったんだろう?)


クラスで浮いていたというなら、野球部はほっとできる場所だったはずだ。だって、佐矢原くんとは仲が良かったんだし、富里くんは楽しいひとだし――。


(あ! もしかして!?)


文化祭の日、颯介くんのことであの子たちに責められて、そのわたしを富里くんがかばってくれた。あのときは富里くんがあの子たちを叱ったみたいになっちゃって、二人ともびっくりしていたっけ。二人とも、富里くんは自分たちの味方だと思っていたのに……。


(あのことが原因なの……?)


そう言えば、佐矢原くんは知っているのかな。あれからあの日のことは話していないけど、もしかしたら、富里くんか聡美が話したかも知れない。だとしたら、佐矢原くんは……?


(どうするだろう?)


わたしには何も言って来ていない。もう過ぎてしまったことだから、気にしていないならいいんだけど。


でも、富里くんみたいにあの子たちを責めたりしていたら? 聡美か富里くんから話を聞いたとしたら、あの子たちの方が悪いような印象を持ったかも知れない。二人とも佐矢原くんのことが大好きみたいだったのに、佐矢原くんがわたしのことを優先にして、あの子たちを責めていたとしたらどうだろう?


(きっとショックだよね……。)


部活の仲間って……、特にチームでやるスポーツだと、クラスメイトよりも仲間意識が強くなるんじゃないかな。だからあの子たちは、あんなに楽しそうに佐矢原くんのところに来ていたっていう気がする。それに、だからこそ、あのときに佐矢原くんをだました形になったわたしをあんなに責めたんだと思う。


(あれが原因だって決まったわけじゃないけど……。)


あんなに楽しそうだったのに休部だなんて、本当に何があったんだろう。とっても気になるし、なんだか可哀想な気がする。


あとで、佐矢原くんに訊いてみようかな。


そう言えば、きのうも今日も、心配事があるようには全然見えなかった。ってことは、休部の理由は深刻なものじゃないのかも知れない。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ