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恋するココロの育て方  作者: 虹色
第四章 二人の距離
40/92

40  由良 ◇ 好きになるとしたら…?


「このメンバーなら楽しくなりそう♪」


キラキラと輝くような笑顔で聡美が言った。


「確かにそうだよね。」


利恵ちゃんが前に並ぶ男子三人を面白そうに眺めて言った。


「森梨のその顔、怖えよ。」


そう言いながら、富里くんは笑っている。


「まあ、俺たちは汰白さんと利恵りんには逆らえそうにないよね。」


自然科学部に入部した空野くんは利恵ちゃんのことを名字では呼ばなくなり、一年男子に密かに敵視されている。


「鈴宮だって、おとなしそうに見えるけど、結構怖いかもしれないぞ。」


ニヤリと笑う佐矢原くんを思わず睨んでしまった。


「きゃ〜ん、みゃー子♪ そんな顔したら、か、わ、い、い♪」


聡美に隣から抱きしめられた。そのまま頬を合わせてすりすりされる。


梅雨が明けて、日差しが眩しい午後のLHR。呆気にとられる男子三人と苦笑いをしている利恵ちゃん、そして聡美とわたしの総勢6人は、秋の修学旅行で同じグループに決まった。


7月に入ってすぐ、修学旅行のグループ決めをするという話が流れた。その話を聞くと、聡美が利恵ちゃんとわたしに「一緒にいい?」と訊いてきた。聡美がいつも一緒にいる人たちと離れてわたしたちと一緒になると言ったことに、わたしはとても驚いた。けれど彼女は「みゃー子を守るって言ったでしょ。」とにこやかに言い、わたしたちには彼女が来ることには何も異存は無かった。


グループ決めは、男女別に3人組(女子は2人組が1つ)を作り、あとからくじ引きで男女を組ませていく方法でおこなわれるという話も流れていた。聡美は真剣な顔で、「みゃー子はどの男子と組みたいの?」と尋ねた。


そんなことを訊かれても、くじ引きで決まるものに注文なんかできるわけがない。


本当を言えば、一番気楽な男の子は佐矢原くんだ。遠慮しないで何でも言えるし、向こうもわたしのことを女子として扱っていないから。あとは、空野くんと富里くんも慣れているから、一緒になれたらほっとする。


でも、その3人以外は、わたしにとっては誰でも同じ。それに、富里くんと佐矢原くんは交友範囲が同じだけれど、空野くんはほかの男子といることが多い。つまり、慣れた3人の誰かと一緒でも、慣れない男子が必ず混じっているはずなのだ。


答えられないわたしに代わって、「安心っていう点から言えば、空ケンと剛くんと佐矢原くんだよね。」と利恵ちゃんが笑った。すると聡美も、「その3人なら、あたしもOKだな。」とうなずいた。


そんなに都合良く行くはずがないというわたしの予想を裏切って、男子グループの一つは空野くん、富里くん、佐矢原くんだった。さらにくじ引きで、わたしたちと同じ数字を彼らが引いた。こうしてわたしは、クラスの注目の的が男女ともに存在するグループの一員となったというわけ。


ほっとしたのは束の間で、このメンバーで集まってみると、なんだか自分がひどく場違いな感じがした。


華やかな聡美とモデルみたいな空野くんは、並んでいるだけで存在感がある。利恵ちゃんと富里くんはおしゃべりが上手で、二人がいれば楽しく過ごせることは間違いない。そして大きな佐矢原くんは、いるだけで安心感がある。野球部の次期キャプテンに抜擢されたのだから、本当に頼りになるのだろう。球技大会のときもそうだったし。


わたしもちゃんと役に立たなくちゃ…と思っていたら、利恵ちゃんに名指しされて、わたしは班長にあっさり決まってしまった。佐矢原くんや聡美を差し置いて前に出るつもりは無かったけれど、修学旅行の班長くらいしか役に立てそうな場面がないので引き受けた。富里くんが副班長に名乗りをあげてくれたことも心強かった。


「もしかして、この中の誰も、彼氏とか彼女とかいないわけ?」


話題がひと段落したところで、長い三つ編みをひょいと払いながら、利恵ちゃんが声を低めてみんなを見回した。わたしたちはなんとなく顔を見合わせてみたけれど……。


(本当だ。)


わたし以外は、そういう相手がいてもおかしくないのに。


みんなが黙っている中で、聡美がにっこり微笑んだ。


「あたしは、ちょっとだけ興味があるひとがいるけど。」

「そうなのかっ?!」


(おお!)


素早く反応したのは佐矢原くんだった。


(やっぱり佐矢原くん、聡美のことが好きなんだ……。)


こんなに驚くのだから間違いない。でも、聡美は気付いていないようだけど…。


「今は、『どんなひとなんだろう?』って思ってるだけなんだけどね。うふふ♪」

「聡美に興味を持たれるなんて、それだけで自慢できるよね。コクるつもり?」


(利恵ちゃんはもう…。)


佐矢原くんのこと、気付かないのかな。あんなにショック受けてるのに。


「それは未定。だって、まだどんなひとか調査中だもん。」

「そりゃそうか。ねえ?」


利恵ちゃんがまたみんなを見回す。


「みんな、どんな恋がしたい?」

「どんな恋って?」


空野くんが半分笑いながら訊き返した。


「あたしはねえ、やっぱり王子様がいいな。」


夢見るポーズを作る利恵ちゃんの、これは本音だ。前からずっと、こう言っている。


「格好良い王子様があたしに一目惚れして、あたしだけに優しくしてくれるの。」

「王子様顔のひとならいるじゃない、目の前に。」


(王子様<顔>って!)


聡美がさらっと言った言葉に焦ってしまった。そんな言い方をしたら、空野くんは顔だけしか王子様じゃないと言っているみたいに聞こえる。


「え〜、空ケンはダメ。小さい頃のヘタレなイメージで、王子様扱いできないもん。」


(扱かうんだ?! 王子様を!)


利恵ちゃんの方が王子様よりも格が上らしい。そこまでは知らなかった。


でも、利恵ちゃんの…聡美もだけど、空野くんの扱いが雑すぎる気がする。富里くんと佐矢原くんにもくすくす笑われて、空野くんは傷ついた顔をしているし。


「あたしはドキドキするような恋がしたいなあ。」


空野くんに構わず、聡美が理想の恋を語り始めた。


「近くにいるだけでドキドキして、失敗ばっかりしちゃったりね。自分からは話しかけられなくて、ちょっと優しくしてもらえただけで何日もふわふわした気分になれたり。」

「え、そうなのか?」


富里くんが驚いている。


「汰白って、もっと一直線かと思った。好きになったら、“即、告白!” みたいな。」


確かに。


「でしょう? でも、あたしだって可愛い女の子に憧れてるんだから。」

「だからみゃー子が好きなんだよね?」

「そうなの! みゃー子って本当に守ってあげたくて♪」

「え、いや、そんな! べつに、あたし、大丈夫だよ。今まで無事に過ごしてきたし。」


聡美は極端に考えすぎだと思う…。


「ねえ、由良ちゃんは?」

「え……?」


富里くんの一言で5人の視線が一度にわたしに向けられる。絶対に何かを言わないといけない雰囲気だけど……。


「あんまり考えたこと無いんだけど……。」

「無いの? 高校生なのに?」


聡美が心底驚いたという顔をする。


「現実味がなくて……。」

「みゃー子はいっつもこう言うんだよ。」


利恵ちゃんの言葉に、聡美が顔をしかめる。


「やだな、みゃー子。高校時代に恋をしないでどうするのよ?」


男の子たちが一斉にうなずいた。その勢いに、少しばかり気圧されてしまう。


「でも、でもね、ドラマとかマンガみたいなことが起こるとか、考えられないんだもん。王子様みたいなひとなんて実際には見たことないし――」


そこで空野くんが目に入った。


(そうだ! 見たことあるよ!)


「あ、でも、空野くんは格好良いけど。」


みんながバッと空野くんを見た。すると、見る間に空野くんは真っ赤になってしまった。


(やだ。悪いことしちゃった!)


「ああ、あの、見た目は王子さまっぽいけど、ほら、気障なところとか無いところがいいよね?」


弁解すると、みんなの視線がこちらに戻ってきた。なんだか落ち着かなくて、頭が混乱してきた。


「え、あの、それに、やさしい、よね? 違う……かな?」


首まで真っ赤になった空野くんが、小さな声で「ありがとう」と言って目を逸らした。ますます恥ずかしい思いをさせてしまった!


(や〜ん、申し訳ないよ〜。)


早く話をそらさなくては!


「ええとその、だ、だから、だって、そんな、すごい、その、ドラマティックなことって……あたしには起きないと思うの、うん。」


あまりにも注目されて上手く話せない。顔が熱くなってきたし。


「じゃあ、みゃー子は誰も好きにならないつもり?」


聡美がおだやかに微笑んで尋ねた。少しゆっくりした口調にほっとする。


「そんなことは無いと思うけど……。」


(あたしが好きになるとしたら……?)


「理想のひと…ってよく分からない。たぶん……、普通に…いつの間にか?」

「いつの間にか?」

「うん。」


言葉が見つかって、少し落ち着いた。ふと見回すと、みんなが真剣な顔でわたしの言葉を待っている。


(どうしてこんなに熱心に聞いてるの〜?!)


やっぱり恥ずかしい!


「あのね、いつも近くにいるひととか……、気が付いたら好きになってる…っていうのが一番有りそう。」

「ああ、『お友だちから恋人に』ってやつね。みゃー子っぽいなあ。」

「うん。でも、みゃー子のことだから、気が付くまでに3、4年かかるのかもよ。」


聡美と利恵ちゃんが顔を見合わせて笑った。「3、4年かかる」という予想に、自分でもそんな気がしてくる。


「ねえ? ってことは、ここにいる3人は可能性が高いってこと?」

「え?!」


聡美の急な指摘にびっくりした。


「だって、みゃー子が普段から話す男子って、このメンバーくらいでしょ?」


慌てて目の前の男の子たちを見ると、3人とも呆然とした顔をしている。


「この中で長く待てそうなひとは誰かな〜♪」


調子に乗った聡美が男の子たちをじっくりと眺めまわす。その視線を受けて、3人は気まずそうに視線をさまよわせた。


「ごめんね、ごめんね! そんなこと無いから!」


必死で謝るわたしを利恵ちゃんは笑い、聡美はわたしを説得しようとする。


「だって、間違いなくこの3人が一番の有力候補じゃない?」

「ちが、違うもん。部活の男子もいるもん。」

「そうだよ、聡美。」


やっと利恵ちゃんが助け舟を出してくれた。


「部活の男子はもう2年目なんだよ。ここにいる3人よりも長い付き合いなの。」

「利恵ちゃん?」

「知り合ってる長さで言ったら、そっちの方が断然リードしてるよ。」

「利恵ちゃん!」

「なるほど、そうだね。」


ちっとも助け舟じゃなかった。どうしても今の知り合いの中から彼氏を決めさせるつもりなのだろうか。


(まあ、それでも…。)


空野くんたちから話題が離れてほっとした。だって、わたしが相手じゃ、本当に申し訳ないもの。




(あ。)


その日の部活の途中で、ふと、自分がへまをしたことに気付いた。


(どうしようかな…。)


放っておいたら面倒なことになっちゃうかな……。







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