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【始話】  御伽噺

 昔々、遠い昔のお話です。


 ある国のある森の中に、一人の若い『魔女』が住んでいました。魔女はいろんな薬草を使ってお薬を作ったり、おまじないや占いをして、その森の中で一人で暮らしていました。

 ある日、その国の『王子様』が、家来をつれて森の魔女を訪ねました。


「魔女さん、どうかぼくと結婚してください」


 そういって、王子様は魔女をお城に連れ去ってしまいました。王子様はある日見かけた魔女がとても好きになって、どうしても結婚して、未来の王妃になってほしかったのです。

 森から離れたくなくて、しかも知らない人と結婚するのも嫌だった魔女は、結婚式で王様になった王子様に『呪い』をかけました。それは魔法をつかう『声』をうばう呪いでした。

 魔法が得意な王子様にとって、それはとても悲しいことだと思ったのです。

 けれど呪いは、王様の声を奪いませんでした。

 まるで最初から何もしなかったかのように、彼の声は魔女に愛を囁きます。


「きっと君が、僕を好きになってくれたからだね」


 そういって王様は笑って、王妃様になってしまった魔女は、恥ずかしそうに頬っぺたを赤くします。そう、本当に王妃様は王様のことが、好きになってしまっていたのです。

 認めたいけど認めたくなくて、必死に嫌いだと叫んでいただけでした。

 自分の想いと向き合って、彼女は夫となった王様に言います。

「だったら、ちゃんと幸せにしてくださいね」

 魔女だった王妃様は、膝に抱いた『使い魔』を撫でながらいいました。お城で寂しかった王妃様がひろった、真っ白い毛並みの可愛らしい子猫です。

 二人とその子供達、そして子猫は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。



   ■  □  ■



 夢溢れる御伽噺の裏側は、実にドロドロとしている。

 確かに魔女は王子憎んでいたが結局は許して――もとい、第一子を身篭ったことをきっかけに絆されて、最終的にはこの国から側室制度を葬り去るほどの、熱々っぷりになるのだが。

 そこに至るまでの経緯は、かなりアレな仕様となっている。

 拉致監禁は当たり前。足に枷をつけて鎖でつなぎ、その鎖がお役目を果たさない行為に励んだ挙句に、未婚のままに一人目を授かって。当時、王子に仕えていた騎士などは、あれだけのことをされたのに、よく彼女は絆されて――いや許してくれたものだとつぶやいたらしい。


 魔女が呪いを使おうとした時、騎士達は一瞬止めるか否か迷ったそうだ。

 そこまでする権利が彼女にはあると、ふと思ってしまったからだ。


 結局呪いは王子にかからず、いろいろあった後に魔女は王子を好きだと認める。こうして二人の物語は、ある程度といえない程度に脚色され、今日も語り継がれる御伽噺になった。

 そんな魔女改め王妃は晩年、己がかけた呪いについてこんな言葉を残した。

 王子にかけられたあの呪いは、彼の中に残されたままだったのだ。

 つまり、王子はその才能ゆえに効果を押さえ込めたけど、完全に消えることは無く。彼の中に取り込まれている状態で、それは血筋を伝って未来へと繋がっていくという。


『あの呪いはいつか、この国の王族に降りかかるでしょう』


 王子のように魔法の才に恵まれた者が、背負うことになる呪い。元は王子一人を狙った呪いだったため、一回限りという少し特殊なものだが、彼女は死ぬまで呪いのことを後悔した。

 けれど一度放ったものを、都合よく回収できるわけではなく。魔女は、いずれ己の子孫が背負わされる重荷の話を、子に孫に、しっかりと語り継がせることしかできなかった。



 ――そんな御伽噺の時代より、約千年。

 主役達の血を引く王家に、後にリュシアンと名付けられる王子が誕生した。しかし先祖に並ぶほどの魔法の才能に恵まれた彼は、声を発することのできない呪いを背負っていた。

 国王夫妻は嘆き悲しみ、国民もまた悲しみにくれる。

 そこに現れたのは一匹の猫。

 御伽噺の時代からずっと城にいる、魔女の使い魔だった白猫だ。

 王子の誕生を祝いに来た彼女に、ある貴族が叫ぶ。


 お前が、王子を呪ったのだ――と。

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