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鬼蝶  作者: 小鳥 歌唄
鬼蝶~赤き蝶~
15/16

再会

 夏休みも終わり、学校が始まってから一ヶ月半が過ぎた。もうすっかり夏の空は過ぎ去り、秋の風が吹く。日が沈むのも早くなり、あれだけ暑かった外の気温も、過ごしやすく涼しくなっていた。

 休み開け試験も終え、いつも通りの学校生活が訪れると、休み呆けもすっかり無くなる。それでもまだ夜更かしをついついしてしまい、ミカゲは眠そうに、大きな欠伸をした。

 教室の窓辺から、眠そうな顔をして、外をボーっと眺めていると、教室内へと入って来た東志が側に来る。

「また夜更かしかぁー?テメェーはいつまで夏休み気分だよ。」

 窓辺で眠そうに目を擦るミカゲに、東志は呆れた顔をさせて言う。

「仕方ないだろ。凛の馬鹿がやたらと長電話で・・・ふあっ!」

 言いながら、又一つ大きな欠伸をしてしまうと、東志は軽く溜息を吐いた。

「また電話してたのか?お前等、何だかんだ言って、結構仲良しじゃねーか。」

「違うよ。凛の馬鹿が馬鹿みたいに長々と、紅葉との話をするんだよ。殆ど自慢話。」

 ミカゲはうんざりとした顔をさせると、東志同様、溜息を吐いてしまう。

 あれから銀治からミカゲに連絡が入り、紅葉は無事に体の中へと入った知らせを受けた。だが突然の身体の回復で、検査等が行われる為、当面退院は出来ないとの事。その原因は紅葉の妖力だったが、医師達に言える筈も無く、毎日検査三昧との事だ。松里はお見舞いに行こうと提案をしたが、面会謝絶の為、お見舞いにも行けなかった。

 凛は大学で医学部だったと言う事も有り、花火の常で、しょっちゅうお見舞いに行っていた。その度に、ミカゲは凛から電話で、紅葉と過ごした時間の事を、長々と聞かされている。お陰でその日は寝不足だ。

「ちぃ~ッスッス!お二人さんに朗報だよぉ~!」

 松里も元気よく挨拶をしながら、教室へと入り、二人の元へと掛けて来ると、嬉しそうに顔をニヤニヤとさせてくる。「何?」不思議そうにミカゲが尋ねると、松里は「じゃじゃぁ~ん!」っと、ディズニーのチラシを見せた。ミカゲと東志は、チラシをマジマジと見つめ出す。

「何何?ディズニーハロウィーン特別パック。ディズニーキャラに仮装をして、ハロウィーンを楽しもう・・・って。あのねぇ・・・。」

 呆れた顔をさせるミカゲだったが、東志は興味津津で見つめた。

「おぉー!そう言えばもうそんな時期かぁー!俺一回、ハロウィンのイベント行ってみたかったんだよなぁー!」

「でしょでしょ?私も仮装してぇ~って思ってさぁ~!駅に有ったチラシを、つい拝借して来ちゃったんだぁ~!」

 東志と一緒に、松里もハシャギ始めると、ミカゲは更に呆れた顔をさせてしまう。「あのねぇ、だから・・・。」二人に言おうとするも、二人のテンションは更に上がって、入り込む隙が無い。

「やっぱ花火も誘う~?花火は始めて会うかぁ。いいねぇ~二人が並んだ姿っ!今から楽しみぃ~!」

「ミカゲの鬼蝶使えば、交通費いらねーしなー!こう言う時便利だよなぁー!ま、一回ミカゲの部屋入らねーと行けねーけど。森の変わりがミカゲの部屋ん中だからなぁー。でもそん位ならいいし!」

 ワイワイと楽しそうに話す二人に、ミカゲはいい加減痺れを切らし、「あのねぇ!だからっ!」と、大声で叫んだ。二人は顔をビックリさせると、「何・・・?」と、恐る恐るミカゲに尋ねる。

「だから、主役の紅葉さんがまだ居ないんだけど。」

 膨れた顔をさせて言うと、松里は不思議そうに、首を傾げた。

「へ?だって紅葉ちゃん、もう退院だって聞いたから、これ!持って来たんだけど?」

「はぁ?」

 チラシを掲げて言って来る松里に、ミカゲは訳が分からない様子で、顔をキョトンとさせると、今度はミカゲが首を傾げてしまう。

「俺そんな話、凛から聞いてねーし。誰情報な訳?」

「え~!私本人から聞いたよぉ~?メール来たもん。」

「なっ!」

 松里の言葉を聞いた瞬間、ミカゲの顔は思い切り引き攣った。「馬鹿凛の奴!あの糞マザコンっ!」ブツブツと恨めしそうに、凛の文句を言うと、何も聞かされなかった事に腹を立ててしまう。

「何だよ?テメェー紅葉と連絡取ってねーのか?」

 不思議そうに東志が聞くと、ミカゲはハッと我に返り、「あぁ。」と、慌てて頷く。

「せっかくの感動の再会が、電話やメールじゃ味気無いからって。直接会ってから、話をしようって事になってるんだ。銀治さんから言われたんだけど。」

「へぇー。それまでお預けって事かよ。」

 ミカゲは顔をムッとさせると、「犬扱いしてんなよロリコン。」と、東志の足を蹴飛ばした。「んだよぉー!」痛そうにもがいている東志は無視し、松里は改めてチラシを見ると、参加人数を数え始める。

「えっとぉ~。私に、紅葉ちゃんでしょ?九条君と日下部君、それに花火も誘ってぇ~。あっ!後凛君も誘わないとねぇ~!」

「凛はいらなねーし。」

 不貞腐れた顔でミカゲが言うと、「えぇ~!」と、松里は不満気な顔をさせた。

「せっかくだから誘おうよぉ~!仲間外れは可哀想じゃんかぁ~!」

「ってか、人数多過ぎだよ。花火に関しては、あいつ多分来ないだろ?何か夏休み中、ちゃっかり彼氏作ってたし。しかも社会人の歳上。」

「あぁ~、そう言えばそうだったねぇ~・・・。」

 ミカゲに言われ、思い出したかの様に松里が頷くと、未だに痛そうに足を抱えてもがいていた東志が、「はっ?」と驚いた顔をさせる。慌ててミカゲの肩を掴むと、息を荒くさせ、興奮気味に言って来た。

「おいっ!それ本当か?俺初耳だぞっ!どこのロリコンだ?」

「興奮するな変態。そしてお前もロリコンだ。俺も最近知ったから、詳しくは知らないし。」

 白けた顔をさせミカゲが言うと、東志はガックシと首をうな垂れ、ショックを受けてしまう。

「何故だ・・・。何故同じロリコンなのに・・・俺は選ばれなかったんだ・・・。」

 「ついに認めたか・・・。」涙ながらに呟く東志を、ミカゲは冷めた視線で見下す。

「でも一応、聞いてみるだけ聞いてみようよ。花火も彼氏さんと行きたいかもよぉ~。」

 ミカゲは邪魔そうに、肩から東志の手を払い除けると、「まぁ~聞くだけなら。」と頷く。

「じゃ、私早速花火のクラス行って、聞いて来るよぉ~!」

 松里は足早に、教室から出て行こうとすると、「あぁ!俺が!」と、慌ててミカゲは引き止める。

「俺が聞いて来るよ。そう言えば、俺職員室に来る様に先生に言われてたんだよな。ついでに花火のクラス、寄って聞いて来るよ。」

「そなの?なして呼び出し?何かやらかしたぁ~?」

 顔をニヤ付かせて聞いて来る松里に、ミカゲは呆れながらに言った。

「違うよ。何か転校生が来るとかで、案内頼まれてたんだ。一応俺、学級委員だし。」

「あぁー。そう言えばそうだったな。何でテメェーみたいな奴が、学級委員に選ばれたんだか。」

 「黙れロリコン。」不貞腐れた顔で東志に言うと、東志はとっさに両手を前に構えた。又ミカゲから攻撃をされるかと思いきや、ミカゲは東志の事等無視し、「じゃ、行って来る。」と、二人の側から離れて行く。

「転校生かぁ~!雄かな?雌かな?」

 目をキラキラと輝かせながら聞いて来る松里に、東志は「ミカゲみたいな事言うなよ。」と、嫌そうな顔をさせて呟いた。

 ミカゲは教室から出ると、花火の居るクラスへと向かう。二年になって、花火だけ違うクラスになってしまっていた。花火はちょくちょくと、ミカゲ達のクラスに顔を出しているが、今日はまだ来ていない。

 ミカゲは花火のクラス内を覗いて見るが、花火の姿は見当たらなかった。登校は一緒にした筈なのに、クラスにも居ないとなると、やはり花火も、職員室だろうかと思った。花火もミカゲと同じく、何故か学級委員に任命されている。

 仕方なく、花火の事は後回しにし、職員室へと向かう。よくよく考えれば、同じマンションに住んでいる上、連絡先も知っているのだ。焦る必要も無い。

 職員室前へと到着をすると、ノックをして、ドアを開けようとした。するとミカゲがドアを開ける前に、勝手にドアが開く。しかし目の前には、誰も居ない。視線を下へとズラして行くと、顔を引き攣らせている花火の姿が有った。

「あ、花火。丁度よかった。」

 ミカゲは花火に話し掛けるも、花火は全くミカゲに気付かず、ブツブツと小声で何かを言いながら、ゆっくりと職員室から出て行ってしまう。

 「何であいつが・・・。」恨めしそうな声で、ボソボソと言うと、花火は肩を落としながら、重苦しい足取りで、廊下を歩いて行った。

「何だ?あいつ・・・。何か有ったのか?」

 不思議に思いながらも、又後で花火のクラスにでも寄ろうと思うと、ミカゲは職員室へと入って行く。担任の居る元まで歩み寄ると、側に居る、一人の女子生徒の後ろ姿を見付けた。例の転校生か、と思いながら、担任の元へと行くと「先生。」と、声を掛ける。

「あぁ、九条君。遅かったわねぇ。」

 女性担任がミカゲに気が付くと、担任の前に立っていた女子生徒は、ゆっくりとこちらを振り向いた。その姿を見たミカゲは、目を真丸くさせ驚いてしまう。

 「な・・・。」真っ白い肌をし、長い黒髪の女子生徒は、夢の中で見た、眠り姫の顔だ。紅葉とそっくりな顔をしているその髪には、赤い牡丹の形をした、髪飾りが付けられている。牡丹の髪飾りが物語る様に、ミカゲに告げて来る。間違いない。この人物は、紅葉だ。体を手に入れた紅葉が、自分の学校の制服を着ている。

 ミカゲは余りの驚きで、その場に硬直をしてしまう。退院するとは松里から聞いたが、自分の学校に入学して来るまでとは、聞いていない。

 唖然としているミカゲの姿を、担任は不思議に思いながらも、女子生徒をミカゲに紹介した。

「こちら、蒔野紅葉くれはさん。ずっと入院していたから、体が弱いのよ。だから、まず保健室の場所を教えてあげてね。」

「くれは?」

 名前を聞き、更に驚いているミカゲに、紅葉はニッコリと微笑み、柔らかい口調で言った。

「初めまして。よろしくお願いします。」

 軽くミカゲに向かい、頭を下げると、ミカゲも釣られて「あぁ!はいっ!」と、頭を下げる。

「それじゃあ、蒔野さん。分からない事は、何でも九条君に聞いてね。彼学級委員だから。」

「はい。分かりました。」

 紅葉は担任に軽く頭を下げると、ミカゲの顔を見て、又ニッコリと微笑んだ。「九条君も、よろしくね。」担任に言われ、ミカゲは小さく頷くと、二人して軽く会釈をし、職員室から出て行った。職員室のドアを閉めると、しばらくは無言で、二人並んで廊下を歩くと、ミカゲはチラチラと、視線を紅葉の方へとやる。

 確かに紅葉なのだが、どうも雰囲気が違う。潮らしいと言うか、大人しいと言うか、正に絵に描いた様な、病弱な美少女に見える。まさか記憶が無いのでは?と一瞬不安が過ったが、凛の話や松里の話からすれば、それは無いだろう。何より髪に付けた髪飾りは、紅葉のお気に入りの物だ。

「あの・・・。」

 恐る恐る口を開くと、無言で隣を歩いていた紅葉から、クスクスと小さな笑い声が聞こえて来た。よくよく見ると、肩も微かに震えている。ミカゲはすぐに悟ると、一気に白けた顔をさせる。

「お前・・・笑ってるだろ。」

 冷めた口調で言うと、それまで必死に笑いを堪えていた紅葉は、可笑しそうにお腹を抱え始め、大笑いをし出す。

「ホッホッホッホッ!実に愉快!愉快じゃのうっ!見たか?ミカゲよ!わしのあの演技力をっ!素晴らしかったじゃろう?しゃっ喋り方がっ!こそばゆくてのうっ!」

「やはり・・・笑いを堪えていただけか・・・。」

 ミカゲは一気に呆れ返ってしまうと、可笑しそうに笑っている紅葉に、「人に見られるぞ。」と透かさず突っ込む。「ホヨッ!」慌てて紅葉は、両手で口を塞ぐも、やはりまだ可笑しくて、肩で笑った。

 ミカゲは仕方なさそうに、大きな溜息を吐くと、キョロキョロと周りを見渡す。紅葉の手を引き、人が来なさそうな場所へと移動をすると、呆れながらに言った。

「お前なぁ・・・何が初めましてだ。妙なキャラ設定とかするなよ。後で面倒臭くなるぞ。」

「いやはや・・・仕方有るまい。この体が病院帰りなのは、事実じゃからのう。」

 楽しそうに笑いながら言って来る紅葉に、ミカゲは又溜息を吐くと、ふと、握った紅葉の手の体温に気が付いた。

 紅葉の手は、とても温かい。洞窟に居る時に握った時は、ヒンヤリととても冷たかったのに、今の紅葉の手は、温かく人の温もりを感じる。魂の固まり等と言う、不確かな物では無く、ちゃんと生きた人の体なのだと、実感が湧く。そう思うと、自然とミカゲの表情は、穏やかになった。

 ミカゲは握った手を、ギュッと強く握り締めると、クスクスと笑っている紅葉の頭を、そっと優しく撫でた。

 紅葉は頭を撫でられると、ピタリと笑い声が止まり、穏やかな表情を浮かべるミカゲの顔に気付き、柔らかい笑顔を浮かべ見つめた。

「お帰り、紅葉。」

「ただいま、ミカゲよ。」

 二人は愛おしそうに、互いに見つめ合うと、握った手をしっかりと繋いだ。

「くれは・・・って言うんだ。綺麗な名前だね。」

 優しい声でミカゲが言うと、紅葉は照れ臭そうに顔を俯け、頬を赤く染めながら言う。

「体の名じゃ。しかし、漢字は同じ。読み方が違うだけじゃ。くれはは、嘗てわしが人として産まれた時、名付けられた名。お主は今まで通り、紅葉と呼んでくれて構わぬ。いや・・・呼んで欲しい。」

「じゃあ、紅葉。紅葉は人として、また生きるの?」

 紅葉はそっと顔を上げると、ニコリと微笑み、小さく頷いた。

蒔野紅葉くれはとして、生きよう。鬼の魂は封じ・・・。」

 ミカゲはそっと、紅葉の体を抱き寄せると、しっかりのその温もりを確認する様に、強く抱き締めた。

「人として・・・生きているんだね。紅葉。」

 紅葉もミカゲの体に腕を回し、ギュッと強く抱き締めると、薄らと瞳に涙を滲ませる。

「うむ・・・。今一度・・・貴方様と共に、人として・・・生きる。」

 二人は強く、強く抱き締め会うと、お互いの温もりを噛み締めた。

 とても温かい。トクトクと鳴る鼓動の音が聞こえる。これが人の温もりだ。生きていると言う、感触だ。今ここに、二人は人として生きている。

 ミカゲはそっと紅葉の体を離すと、瞳に滲む紅葉の涙を、優しく指先で拭った。紅葉は嬉しそうに微笑むと、ミカゲの頬に手を添えながら、柔らかい声で尋ねる。

「して、ミカゲよ。どこから案内をしてくれるのじゃ?」

 ミカゲはニッコリと、満遍無い笑みを浮かべると、元気よく答えた。

「当然!ディズニーからっ!」

 紅葉も満遍無い笑みを浮かべると、嬉しそうに大きく頷いた。


 教室で担任が紅葉を紹介すると、東志と松里は、その姿を見て驚いてしまう。松里は驚くと言うよりも、喜んでいた。

 早速松里は、紅葉に駅から拝借して来た、ディズニーのチラシを見せる。するとチラシを見るなり、嬉しそうにハシャギ出す紅葉を、ミカゲは慌てて落ち着かせようとした。焦るミカゲを不思議に思い、二人が尋ねると、一応病弱な少女と言う設定だと言う事を説明した。すると、東志は大笑いをし始めてしまう。

 しかし、最初から知り合いの様な雰囲気の四人に、他の生徒は既に疑問に思い、不思議そうな顔をしている。そんな事にも気付かずに、四人は楽しそうに、ディズニーに行く計画を立てていた。

 結局メンバーは、この四人プラス、凛の五人だ。ミカゲは最後まで凛の参加を拒み、駄々を捏ねていたが、勝手に紅葉が誘ってしまった為、強制的に決定してしまう。花火は行くならば、彼氏と二人きりが良いとの事で、不参加だ。それ以外にも、理由が有った様だが。

 花火は、今は滋賀に住む社会人の男性と、遠距離恋愛中だ。だが高校を卒業したら、滋賀へと移り住み、その男性と結婚をする予定らしい。その事に一番ショックを受けたのは、当然東志だった。

 凛はすぐに、紅葉の魂に会いに行ける様にする為、長野に住んでいたが、今はわざわざ大学を移籍し、ミカゲ達の住む愛知へと引っ越して来た。やはり紅葉に、すぐに会いに行ける為にだ。どこまでもマザコンだと、ミカゲは呆れ返ってしまっていた。

 銀治は紅葉が退院をすると共に、長野へと帰って行った。短い一時だったが、体へと入った紅葉に付き添い、大丈夫だと確信をし、紅葉の退院と共に役目を終えたのだ。

 紅葉は体の中へと入ってからは、自身の黒き鬼蝶を、余り使わなくなった。紅葉が鬼蝶を使う時は、夢の中でミカゲと会う時だけだ。

 対するミカゲは、青き鬼蝶をよく活用する様になった。その殆どが、松里や東志に頼まれ、迎えに行ったりと、誰かの為に使う事が多い。それでも自分自身の為の使う時は、夢の中で紅葉と会う時だけだった。

 斯くしてミカゲの周りは、以前に比べ大分変わった。変わらない友人に加え、余分な友人が増えた。それは紅葉と出会わなければ、出会う事が無かったかもしれない友人達。

 結婚もしているのに、ロックバンドを趣味でやっている、何故かスキンヘッドの平維茂の末裔、銀治。紅葉の子、経若丸の生まれ変わり、ロシア人とのハーフの凛。そして、嘗ては酒吞童子が有していた、青き鬼蝶。ミカゲからすれば、鬱陶しいかもしれないが、以前にも増して賑やかになった。

 全ては太陽が燦々と照り付ける、あの夏の日に、紅葉へと森に免れた時から始まった。そこで出会った鬼姫に依り、始まったのだ。何よりも一番変わった事は、紅葉と出会った事だろう。ミカゲにとって、今や紅葉は、誰よりも掛け替えの無い存在になったのだ。紅葉の持つ鬼蝶が、無意識にか、気付いてか、ミカゲを森へと誘ったのかは定かでは無いが。

 紅葉は結局、ミカゲが嘗ての愛した人で有り、凛の父でも有ると言う事を、誰にも明かさなかった。自分の心の内に秘め、今の九条ミカゲと言う人物と共に、愛する事にしたのだ。

 そして今は、五人のパーティーを組み、紅葉はディズニーへとやって来ている。可愛らしいアリスの衣装に、身を包みながら。ディズニーハロウィーンイベントを、ミカゲ達と共に満喫をしていた。夏に始まり、再び秋に始まった、ミカゲとの出会いを、噛み締める様に。

 全てはあの暑い日差しが照り付ける、夏から始まった。そう、ミカゲが東志の家へと、幼女物エロアニメDVDを届けに言った、あの日から―――――。


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