握り屁
屁をこくとはとても恥ずかしい事である。
同席していた同僚の田中も音に気付いたらしく、私を見て少し笑うのだ。
しかし、私は屁をこいてはいない。
違うのだと田中に言いながら、このホテルのロビーで取引先の人を待っている。
屁で思い出したことがある。
もう二十年前のことになるのか。
私がかつて高校生であった頃。
美術の時間であった。付き合っていた彼女が隣でローマの賢人の彫刻を模写している最中であった。
いきなり突き出してきた握りこぶし。じゃんけんでもするのかと疑って、自分はパーをだす。
違うと否定されながら、その握りこぶしを開いた彼女。
芳ばしい匂いがそこから溢れだす。
臭いと言えば、彼女は笑いながらもう一度しようとする。
そんなこともあったなと、考えながらクスッと笑うと、隣に居た田中がまた笑いだす。
違うのだと否定しているのだが、それでも私が屁をこいたのだと笑っている