第23話 静かに整う場所
王宮の紋章。
それが、雑多な南区の空気に、不自然に浮かび上がっていた。
「……」
少女は、思わず一歩下がる。
怖いわけではない。
ただ――
ここに、似合わない。
「道を開けろ!」
騎士の声が響く。
周囲の人間がざわめく。
流れが、乱れる。
「……」
その瞬間だった。
「そのままでいい」
静かな声が落ちた。
さっきの女性だ。
「止まらないで」
短い指示。
それだけで。
動きが止まらない。
「……」
騎士たちが、わずかに戸惑う。
本来なら。
彼らが来た瞬間に、すべてが止まるはずだった。
だが。
誰も止まらない。
流れが、維持されている。
「……」
先頭の騎士が、足を止める。
そして、周囲を見回す。
「……何だ、これは」
混乱ではない。
秩序だ。
しかも。
指揮官が見えない。
「……」
少女は、思わずその女性を見る。
さっきと変わらない。
目立たない場所に立ち。
全体を見ている。
「……」
その視線が、一瞬だけ騎士に向いた。
「……」
そして、すぐに戻る。
関心がないかのように。
「……」
「……殿下」
騎士の一人が、小さく呟く。
「……あの方では」
「……」
その時。
さらに別の足音が近づく。
重い。
だが、迷いがない。
「……」
少女は振り返る。
そこにいたのは。
王宮の人間。
だが、騎士ではない。
もっと、上の。
「……」
アルトレインだった。
「……」
空気が、変わる。
一瞬だけ。
だが。
確実に。
「……」
少女は、息を呑む。
理由はわからない。
ただ。
場の重さが、変わった。
「……」
アルトレインは、何も言わない。
ただ。
視線を巡らせる。
全体を。
「……」
そして。
見つける。
「……」
あの女を。
「……」
距離は、ある。
だが。
間違いない。
「……」
彼女も、気づいている。
視線が、わずかに交わる。
ほんの一瞬。
それだけで。
「……」
理解する。
すべて。
「……」
少女は、息を止める。
何かが起きる。
そう、直感した。
「……」
だが。
何も起きない。
女性は、視線を外す。
そして。
「左、少し下げて」
いつも通りに、指示を出す。
「……」
アルトレインは、動かない。
ただ、見ている。
「……」
その様子に。
騎士たちが戸惑う。
「……殿下?」
「……」
返事はない。
「……」
少女は、混乱する。
何が起きているのか、わからない。
でも。
ただ一つ。
わかることがある。
「……」
この人たち。
同じものを見ている。
同じ“全体”を。
「……」
その時だった。
女性の声が、止まる。
ほんの一瞬。
「……」
全体の流れが、わずかに揺れる。
「……!」
少女が、息を呑む。
さっきまで、止まらなかった流れが。
ほんの少しだけ。
遅れる。
「……」
女性は、すぐに修正する。
「そのまま、進めて」
流れが戻る。
だが。
さっきの一瞬。
確かに、揺れた。
「……」
アルトレインの目が、わずかに細まる。
見逃さない。
「……」
その時。
女性が、ゆっくりと歩き出す。
こちらへ。
「……」
少女の心臓が、大きく跳ねる。
「……」
一歩。
また一歩。
近づいてくる。
「……」
そして。
アルトレインの前で、止まる。
「……」
沈黙。
長くはない。
だが、重い。
「……」
先に口を開いたのは。
アルトレインだった。
「……久しいな」
それだけ。
それ以上でも、それ以下でもない。
「……」
女性は、わずかに首を傾ける。
そして。
「……そうでもありません」
静かに、返す。
「……」
その一言で。
場の空気が、完全に変わった。
「……」
少女は、理解できない。
でも。
わかる。
「……」
この二人。
ただの再会じゃない。
「……」
アルトレインは、一歩踏み出す。
「……話がある」
「……」
女性は、少しだけ考えるように目を伏せる。
そして。
「……今は、無理です」
即答だった。
「……」
騎士たちがざわめく。
ありえない。
だが。
「……」
アルトレインは、動かない。
怒らない。
否定もしない。
「……」
「……見ての通りです」
女性が、淡々と続ける。
「今、手を止めるわけにはいかない」
「……」
その言葉は。
完全に、正しい。
「……」
アルトレインは、ゆっくりと息を吐く。
そして。
「……わかった」
短く答える。
「……」
そのまま。
一歩、下がる。
「……」
騎士たちが、驚く。
だが。
誰も止められない。
「……」
少女は、息を止めたまま。
その光景を見ていた。
「……」
王宮の人間が。
この場所で。
何も命じない。
何も止めない。
ただ。
待っている。
「……」
女性は、何も言わない。
ただ。
再び、視線を全体へ向ける。
「右、通して」
「水、足りてない」
流れが、戻る。
完全に。
「……」
アルトレインは、それを見ていた。
そして。
確信する。
「……」
やはり。
この女は――
“必要だ”と。
ついに「再会」が描かれました。
ただし、主導権はまだ主人公側にあります。
ここから“どう動かすか”が勝負になります。
続きを楽しみにしていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。




