表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

第22話 南区の少女

 ――“誰かが指示を出していた”。


 その言葉が、頭から離れない。


「……南区か」


 アルトレインは、静かに呟いた。


「はい。小規模ではありますが、混乱が発生し……その後、短時間で収束したとのことです」


 報告する騎士の声は、まだ半信半疑といった様子だった。


「……」


 グレンが横で口を開く。


「時間帯は?」


「約一刻ほど前です」


「……」


「目撃証言は?」


「詳細は不明ですが、“落ち着いた女性の声で指示が出されていた”と」


 その一言で。


 空気が、変わる。


「……」


 エルナの手が、わずかに震える。


「……殿下」


 小さく、呼ぶ。


 その意味は、言葉にしなくても伝わる。


「……ああ」


 アルトレインは頷いた。


「行く」


「……今から、ですか?」


「今だ」


 迷いはない。


 もう、待つ理由はない。


「……」


 その時だった。


「……殿下」


 ミレイユが、静かに言う。


「……何だ」


「……視点を変えましょう」


「……?」


「王宮から探すのではなく」


 一拍。


「“現場から見る”べきです」


 その言葉に。


 グレンがわずかに目を細めた。


「……なるほど」


「……」


 アルトレインは頷く。


「……案内はあるか」


「はい。南区の商業通り付近とのことです」


「……よし」


 一歩、踏み出す。


「……」


 その瞬間。


 物語は、完全に切り替わった。


 王宮の内側から。


 外の世界へ。


――――――


 南区。


 王都の中でも、比較的雑多な区域。


 商人、職人、そして一般市民が混ざり合う場所。


「早くして! そっち詰まってるって!」


「いや、こっちに流すな! 荷が通れない!」


「水が足りないんだ、誰か持ってこい!」


 混乱は、完全には消えていなかった。


 だが。


 どこか、違う。


「……」


 少女は、息を切らしながら走っていた。


 年は、十歳前後。


 細い体に、大きすぎる荷袋を抱えている。


「……はぁ、はぁ……」


 息が苦しい。


 でも、止まれない。


「こっちよ!」


 声が飛ぶ。


「水は向こうに集めて!」


「……!」


 少女は、顔を上げる。


 誰かの声。


 でも。


 見えない。


「……どこ?」


「そこの子!」


 別の声が重なる。


「あなた、軽いでしょ! あっちに運んで!」


「……うん!」


 言われるままに走る。


 荷を抱えて。


 指示に従って。


「……」


 気づけば。


 人の流れが、変わっていた。


 さっきまで、ぶつかっていた人たちが。


 少しずつ。


 流れている。


「……」


 少女は、立ち止まる。


 息を整える。


 そして。


 周囲を見る。


「……」


 誰だろう。


 指示を出している人。


 見えない。


 でも。


「……」


 確実にいる。


 全体が、少しずつ整っているから。


「……」


 その時。


「そこ、止まらないで」


 すぐ後ろから、声がした。


「……!」


 振り返る。


 そこにいたのは。


 一人の女性だった。


 簡素な服装。


 目立たない。


 だが。


 その目だけが、異様に静かだった。


「……あ」


 少女は、言葉を失う。


 理由はわからない。


 ただ。


「……すごい」


 そう思った。


 何がすごいのかも、わからないのに。


「……荷、こっち」


 女性は短く言う。


 指差す先。


「……うん!」


 少女は、すぐに動く。


 迷いはない。


 なぜなら。


 その指示は、間違っていないと“わかる”から。


「……」


 女性は、周囲を見ている。


 全体を。


 同時に。


「左、少し詰めて」


「そこ、通す」


「水は二列に分けて」


 言葉は少ない。


 だが。


 すべて、正確だ。


「……」


 少女は、走る。


 荷を運び。


 また戻る。


 そのたびに。


 混乱が減っていく。


「……」


 気づけば。


 怒号は消えていた。


 代わりに。


 短い声と、動きだけが残る。


「……」


 整っている。


 ゆっくりと。


 だが。


 確実に。


「……」


 少女は、立ち止まる。


 息を整える。


 そして。


 もう一度、その女性を見る。


「……」


 女性は、相変わらず、淡々としている。


 感情を見せない。


 だが。


「……全部、見てる」


 そう思った。


「……」


 その時。


「……ありがとう」


 少女は、思わず言っていた。


「……」


 女性が、少しだけ視線を向ける。


「……え?」


「……」


 一瞬だけ。


 本当に一瞬だけ。


 その目が、柔らかくなる。


「……」


 そして。


 何も言わずに。


 また、視線を戻す。


「……」


 少女は、なぜか胸が熱くなった。


 理由はわからない。


 でも。


「……」


 その時だった。


 遠くから、別の音が近づいてくる。


 重い足音。


 複数。


「……」


 女性の視線が、わずかに動く。


「……」


 少女も、振り返る。


 そこには――


 王宮の紋章をつけた騎士たちが、こちらへ向かっていた。

ついに“現場側の視点”が出ました。


そして、初めて「体験としての調整」が描かれています。

ここから、ついに“再会”へ進みます。


続きを楽しみにしていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ