第18話 あなたがいないと無理です
――広がっている。
その一言が、頭の中で反響する。
「……王宮外でも、か」
アルトレインは、低く呟いた。
「はい」
グレンの声は変わらない。
「帰還した貴族家にて、従者の再配置、物資の振り分けに混乱が生じております」
「……」
つまり。
ここだけではない。
すでに、外にも影響が出ている。
「……」
アルトレインは、ゆっくりと息を吐く。
想定外ではない。
だが。
想像以上だ。
「……」
その時。
「……それ、当然です」
ミレイユが、静かに言った。
「……何?」
「王宮だけで完結していたわけではない、ということです」
一歩、前に出る。
「調整は、王宮の中だけではなく、“出入りする全て”に影響していた」
「……」
アルトレインは、何も言わない。
だが。
理解している。
その通りだと。
「……」
ミレイユは続ける。
「来客の流れ、物資の流れ、人の流れ。それらすべてを“接続”していた」
一拍。
「だから、外でも崩れる」
沈黙。
それが、答えだった。
「……」
アルトレインは、視線を落とす。
どこまでだ。
本当に。
「……」
その時だった。
「……殿下」
エルナの声。
だが。
少し違う。
震えている。
「……何だ」
「……私」
一歩、前に出る。
その顔には、迷いがある。
だが。
逃げていない。
「……わかりました」
「……何を」
「……無理です」
はっきりと。
言い切った。
「……」
空気が、止まる。
「……何がだ」
アルトレインは、問い返す。
だが、その答えはもう、わかっている。
「……同じことは」
一拍。
「……できません」
視線が、落ちる。
だが、声は震えない。
「……」
「いくら分解しても、順番を決めても、部分を整えても」
言葉が続く。
「……追いつかない」
「……」
アルトレインは、何も言わない。
否定できないからだ。
「……」
「……だから」
エルナは、顔を上げる。
その目には、涙が滲んでいる。
だが。
それ以上に、何かがある。
「……お願いです」
その言葉に。
全員の視線が集まる。
「……」
「……戻ってきてもらってください」
静かだった。
だが。
確実に、届いた。
「……」
空気が、凍る。
「……何を言っているの」
セレナの声が、低く落ちる。
「……それは」
「……」
エルナは、振り返らない。
ただ、前を見る。
「……必要です」
はっきりと。
「今のままでは、無理です」
「……」
ミレイユが、わずかに息を呑む。
そして。
「……同意します」
その一言で。
流れが変わる。
「……ミレイユ?」
セレナが目を見開く。
「……これは、個人の問題ではありません」
ミレイユは、冷静に言う。
「構造の問題です」
一歩、踏み出す。
「そして、その構造を支えていた人間は――」
言葉を止める。
だが。
言わなくても、わかる。
「……」
「……呼び戻すべきです」
断言だった。
「……」
ざわめきが広がる。
それは、混乱ではない。
“認識の変化”だ。
「……」
アルトレインは、動かない。
だが。
その内側では、すでに答えは出ている。
「……」
だが。
「……それは、できません」
セレナが、はっきりと言った。
「……なぜだ」
アルトレインの声が、わずかに低くなる。
「……」
セレナは、一歩前に出る。
その顔には、微笑みがある。
だが。
冷たい。
「……殿下」
その声は、優しい。
だが。
鋭い。
「それは、“過去に戻る”ということです」
「……」
「一人に依存する構造に戻る」
一拍。
「それが、正しいとお思いですか?」
問いだった。
だが。
同時に、否定でもある。
「……」
アルトレインは、答えない。
答えられない。
「……」
エルナが、拳を握る。
「……でも」
声が震える。
「……今は」
言葉が詰まる。
だが。
止まらない。
「……それしかないじゃないですか!」
その叫びが。
場を揺らす。
「……」
「……人が倒れてるんです!」
「現場が止まってるんです!」
「……」
「……それでも、“正しさ”を優先するんですか!?」
沈黙。
完全な。
「……」
セレナの笑みが、わずかに揺れる。
初めて。
「……」
アルトレインは、目を閉じる。
そして。
ゆっくりと開く。
「……」
視線は、真っ直ぐ前へ。
「……呼び戻す」
その一言で。
すべてが、止まる。
「……殿下!?」
セレナが声を上げる。
「……」
「……ただし」
アルトレインは続ける。
「同じ形では、戻さない」
その言葉に。
空気が変わる。
「……」
「……それでも、必要だ」
静かに。
だが。
はっきりと。
「……」
エルナの肩が、わずかに震える。
安堵か。
それとも。
「……」
その時。
「……殿下」
グレンが、静かに言った。
「……何だ」
「その場合」
一拍。
「“どのように呼び戻すか”が問題となります」
「……」
アルトレインの目が、わずかに細まる。
「……」
そうだ。
簡単ではない。
あの女は。
戻るとは限らない。
「……」
沈黙が、落ちる。
重く。
深く。
「……」
そして。
誰もが、同じことを考えていた。
――どうやって、呼び戻す。
ついに「感情」が爆発しました。
理屈ではなく、“現場の声”がすべてを動かしています。
ここから、物語は次の段階に入ります。
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