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第12話 代替不能

 “人一人でどうにかなる問題ではない”。


 その言葉は、正しい。


 正しすぎるほどに。


「……」


 だが、その場にいた全員が理解していた。


 それでも――どうにかなっていた、という事実を。


「……レオルド」


 アルトレインが静かに呼ぶ。


「は、はい」


 先ほどまでの自信は消えていた。


 レオルドの声は、わずかに揺れている。


「一度、指揮を下げろ」


「……ですが」


「いい」


 短く切る。


「もう、見えた」


 何が。


 とは言わない。


 言わなくても、伝わる。


「……承知しました」


 レオルドは一歩下がる。


 その動きは、わずかに遅い。


 認めたくない。


 だが、認めざるを得ない。


 その葛藤が、見えていた。


「……」


 広間は、再びざわつく。


 だが、先ほどとは違う。


 これは混乱ではない。


 “理解の手前”のざわめきだ。


「……殿下」


 ミレイユが口を開く。


「先ほどの判断ですが」


「何だ」


「間違っていません」


 はっきりとした言葉だった。


「帳簿優先の判断は、合理的でした」


「……だが、崩れた」


「はい」


 ミレイユは頷く。


「帳簿は整いました。ですが、他が崩れた」


「……」


「それは」


 一拍。


「“一つずつでは足りない”という証明です」


 静かな言葉。


 だが、確実に核心を突いている。


「……」


 アルトレインは、何も言わない。


 その通りだからだ。


「……では、どうする」


 問いは、重い。


 だが、逃げない。


 ミレイユは、少しだけ目を伏せた。


「……同時に処理するしかありません」


「……できるのか」


「……」


 沈黙。


 それが答えだ。


「……」


 アルトレインは、ゆっくりと息を吐く。


 わかっている。


 できない。


 今の自分たちには。


「……宰相」


「はい」


「方法は」


 グレンは、ほんのわずかだけ間を置いた。


 そして。


「あります」


 そう言った。


 広間が、止まる。


「……あるのか」


「はい」


 淡々とした声。


 だが、その内容は重い。


「ただし」


「ただし?」


「現状では、実行できません」


「……なぜだ」


「人が足りません」


 短い答え。


 だが、それがすべてだ。


「……人」


「はい」


 グレンは続ける。


「各部署を横断して、すべてを同時に把握し、調整できる人材が必要です」


「……」


 アルトレインは、言葉を失う。


 その条件に当てはまる人間を、知っているからだ。


「……それは」


 言いかけて、止まる。


「……」


 誰も、続きを言わない。


 言えない。


「……」


 沈黙が、答えになる。


「……殿下」


 エルナが、小さく言う。


「……もし」


「何だ」


「その役割を、分割することはできませんか」


 新しい提案だった。


「複数人で分担して……」


「……できるか」


 アルトレインは、グレンを見る。


 グレンは、わずかに目を伏せ。


「理論上は可能です」


 そう答えた。


「ただし」


「またか」


「はい」


 淡々と続ける。


「各人が“全体を理解している”ことが前提になります」


「……」


 無理だ。


 それは。


「部分最適では、同じことが起きます」


 今と同じ。


 いや、もっと悪くなる。


「……」


 エルナは、言葉を失う。


 提案が否定されたわけではない。


 だが、成立しない。


「……」


 アルトレインは、ゆっくりと視線を落とす。


 理解している。


 完全に。


「……」


 この構造は。


 “誰か一人”を前提にしている。


 それがいなければ、成立しない。


「……」


 そして、その“誰か”は。


 もう、いない。


「……」


 その時だった。


「殿下!」


 新たな声が飛び込む。


「何だ」


「東棟で、来客の一部が退出を拒否しています!」


「……拒否?」


「はい! 配車の遅延と席順の混乱により、不満が爆発して――」


 ざわめきが広がる。


「……」


 アルトレインは、目を閉じる。


 ついに来た。


 “外”に出る。


 この歪みが。


「……対応は」


「現在、説得を試みていますが……」


「無理か」


「……はい」


 短い答え。


 だが、重い。


「……」


 アルトレインは、ゆっくりと目を開く。


 決断の時間だ。


「……宰相」


「はい」


「これ以上の混乱を防ぐ方法は」


「……一つです」


「言え」


「全体を、一度停止することです」


 空気が、凍る。


「……停止」


「はい」


「すべてを止め、再構築する。それ以外に、現状を収束させる方法はありません」


「……」


 それは。


 敗北だ。


 完全な。


「……」


 アルトレインは、動かない。


 だが。


 理解している。


 ここで選ばなければ。


 もっと大きく崩れる。


「……」


 ゆっくりと、息を吸う。


 そして。


 口を開く。


「……――」


 だが。


 その言葉は、最後まで出なかった。


 なぜなら。


「殿下!」


 さらに別の声が、割り込んだからだ。


「……何だ」


「門前に、馬車が到着しています!」


「……?」


「その……」


 侍従は、明らかに戸惑っている。


「誰だ」


「……ヴァルシュタイン家の紋章です」


 その一言で。


 空気が、完全に止まった。

ついに「外」から動きが入りました。


ここから物語は一段階、次のフェーズに入ります。

この先がどうなるのか、ぜひ見届けてください。


面白いと感じていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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