風の塔
エルフの里長老宅
エルフの里の中央区画の縦にも横にも大きな建物があった。エルフの長老、アスローさんの邸宅は、その高層階にあった。
私「でっかー。」
プリム「行くわよ、へカテリーナ。」
母のクリニック同様、昇降機を使って目的の階に上がる。そのフロア全部が長老家族の住んでいる場所だと言う。
応接室に通された私達は長老に軽く挨拶を済ますと形成外科クリニック開業を伝えた。
アスロー「……では、プリム先生、明日からよろしくお願いします。」
プリム「はい。」
母とのやりとりが一通り済んだタイミングを見計らって、私はソファから身を乗り出した。
私「所で、お尋ねなんですが、長老はエルフの里に伝わる伝説の武器について知ってますか?」
アスロー「伝説の武器?あ、ジャイアントハンターですな。」
私「巨人狩?」
アスロー「えぇ、よく知ってます。エルフの里の最奥に“風の塔”と呼ばれる巨大なダンジョンがあり、そこの屋上にあるそうです。」
長老のアスローは目を細め、はるか昔の記憶をたどっているようにツルツルの頭をゆっくり撫でている。
アスロー「神代の時代の終わり、大きなオオカミのフェンリルが月を飲み込みんだ。
それを取り返そうと戦乙女たちがこの地に降臨なされ、フェンリルに味方する巨人たちと戦ったそうです。それはそれは熾烈な戦いであったとか、」
私「はぁ。」
長くなりそうなので、相槌を打って長老の話を区切った。
アスロー「ジャイアントハンターはその時使われていた武器の一つ。巨大な光の矢を放つ弓。巨人の頑丈な体躯に容易く大穴を穿ったとか。」
私『弓かぁ、使えなさそう。アストレイアに任せるかな?』
長老の話そっちのけで、私はシステムをどう構築するか思案し始めた。
プリム『こら、へカテリーナ!めっ!』
ペシ
あいた!
母に右手の甲を叩かれる。ホムンクルスの腕、ちゃんと痛覚の神経までつながれている。流石、母だ。細かい。
アスロー「……長い年月、風の塔に封印されていて、その強大な力に引き寄せられるように機械たちが集まり、時空も歪み、いつしかあそこはダンジョンになってしまいました。
しかも、ジャイアントハンターは大型の機械のモンスターが使うようになっているとか、何とか、」
な、なげぇ……
そこへ、バタバタと細身の少女が勢いよく部屋に入ってきた。
バン!
???「フライト?!」
アスロー「これ、ラシーヌ!ノックぐらいせんか!お客様と対応中だぞ!」
ラシーヌ「プリム様の所にハーフエルフの青年が来ませんでした?一緒かと思いました。」
アスロー「また、其奴の話か!卑しい者の話など、ここでするな!」
私「卑しい?」
プリム『ハーフエルフ、人間とエルフの混血児。エルフはお高く止まってる人が多いから、差別的なのよ』(ヒソヒソ)
ふーん。
そう言えば、彼の耳は長老やこのラシーヌとか言う子とは少し短かったような?
私と母が耳打ちしている間にも長老とその子の激しいやりとりが続いていた。エルフの差別意識は根深いものがあるのかもしれない。
バタン!
ひぇ。
激昂しているその娘は
「もういい!」
と言って部屋を出ていった。
アスロー「全く、うちの孫娘がお騒がせしてすみません。」
プリム「いえ。それでは私はこれで失礼します。行くわよ、へカテリーナ。」
あー、まだちょっと話を聞きたいが、藪蛇になりそうだしやめとくか。どんな人種、どんな地域でも老人の話は長い。
私「分かった。アスローさん、お忙しい中、今日はどうもありがとうございました。」
社交辞令。
長老も軽く会釈をした。
その時、応接室の窓の外で何かが揺らめくのが見えた。おやおや?
プリム「どうしたの、へカテリーナ?」
私「ううん。なんにも。」『変ね?ここ高層階よ?』
アーニャ『建物外壁を登ってくるのは至難の業です。見間違いでは?』
アスロー「あ、そうそう。風の塔の現状を探索に行ったもののが言うには、大型ロボットは宙に浮いていて歯が立たなかったと言っておりました。」
ほーん、それなら、どこまでも飛んでいく光の矢の出番か?巨体を飛ばしているのだ無理をしているに違いない。
私「その人は?」
アスロー「魔王討伐隊に参加しました。名前はアニヤ。今はどうしているのやら?」
プリム「アナタ、知ってるんじゃないの?」
あぁ、彼女か。心の底がじんわり温かくなる。
私は目を閉じ、鍵がかかって開かない宝箱をなぞった。大切な記憶達の入った私の宝物。
私は早速、件の風の塔とやらに足を運んだ。
私「うわぁ~、たっかいわねー。」
アーニャ「上の方は雲に届いてますね?」
私はエルフの里からでも見えたそれを見上げて思った。
私『中に動く箱があると信じたい。登るとか無理だろ?』
私は山登りはあまりしたことがない。体力には自信はない。
アーニャ「飛べる魔法が欲しいです。」
私「ほんと、ほんと。」
風の塔に着くと苔むしたガラスの回転扉から暗い中に入った。
昔は、どんなテナントが入っていたのだろう?
中のモノは劣化していて、ひどく荒れていた。所々に散乱している、私の着ている神代の服のようなものが床で苔に覆われている。
私「一階はまだ、時空の歪みとやらはないみたいね。」
アーニャ「各フロアの地図とかないですかね?あればマッピングも直ぐなんですが……」
電子妖精の光を頼りに探索を進めていると、母のところにもあった昇降機を見つけた。
私「あー、でも、メンテナンスとかしてないわよね?ちゃんと動くかな?」
扉も半開きで中も苔てて、見るからに不安だ……
アーニャ「危なくないですか?」
とりあえず、中に入って行き先ボタンを押してみる。歩いて登るとか地獄すぎる。
ごっ、ウィィィン
私「あ!動いた!」
アーニャ「やりました!」
そのまま最上階まで……と思ったが。
チーン
私「……あれ?」
押してないボタンの階で扉が開く。
いくら“閉じる”ボタンを押しても、ここで降りろと言わんばかりに開いて、昇降機は動かない。
アーニャ「音波探知!」
コーン
アーニャ「……マッピング範囲狭いです。」
私「音を吸収する塗料でも塗られてるのかしら?」
ゴコッ!
昇降機が音を立てて傾き始めたので、急いで降りる。
ドッ
ごおぉぉぉぉ……ギャリギャリギャリギャリ……
(ドォーン!)
私「……落ちちゃった。」
昇降機が無くなった真っ暗な縦に伸びている空洞を覗き見下ろす。
アーニャ「どうします?リナ?」
どうもこうも、前に進むしかない。最上階まであと少しだったのに。やれやれ、ついてない。
私「いや、むしろ、金作出来ると喜ぼう。」
モンスターを狩りまくってやる。バイクを買い戻すくらいに。
暗闇の迷路を電子妖精の光を頼りに進む。
アーニャにはある程度先行してもらい、そのヒゲで敵のサーチをやってもらう。
アーニャ『前方、敵影2。』
曲がり角で猫が止まる。ので、先をのぞき込む。
私『四脚タイプが2匹か……』
ンクルルッ!
変な掛け声とともにヒョイッと電子妖精が肩に飛び乗ってくる。
アーニャ『狭い通路、背の低い的、どう攻めます?』
私『そうね、ヘルメーカーとアストレイアでいきましょう。』
アーニャ『了解、静音!』
静かにヘルメーカーだけを通路の曲がり角から出して一匹の四脚ロボットに狙いを定める。
シュゥゥゥ……ン
私『チャージショット!』
プシュ!
ドグァッ!
ロボットモンスターが激しい音と共に爆発する。装甲の硬さが分からなかったから、チャージショットにしたけどオーバーキルだったか?
すぐさま、けたたましい警報がなる。天井近くにあった。テールランプが一斉に点灯し、赤い光を回転させている。
ビービー!
館内アナウンス『侵入者、感知。制圧機、起動!』
遠くで、自動扉の開く音がする。
私「ヤバい!なんか来る!アストレイア!」
ズヒュン!
アストレイア「オラァ!」
グッシャァ!
アストレイアの高速の拳が残っていた四脚を破壊する。
私「グッ」『あれ?結構、魔力が持ってかれる?』
ズヒュン!
アストレイアの具現化を解いて体に戻ってもらう。
私「辺津鏡!」
倒したロボットモンスターの残骸をインベントリに素早く収納しその場を離れる。
タッタッタッ
ン?魔力はある程度、戻ったか?
アストレイアが体にいる分、中の魔力の水位が上昇した?
昔、母と晩御飯をかけてやった、水を入れたコップの水を溢れるまでコインを入れてくゲーム、アレに似ている。
私『最後までお母さんの(水を含ませた)脱脂綿のトリックには気づかなかったけど……』
ヌッ
うぅ!
四辻の出会い頭に大きな人型、重量級のロボットモンスターに出くわす。
アーニャ「しまった。浮遊タイプ!」
私「アストレイア!」
人型ロボットの質量パンチをアストレイアで受ける。
ドゴォ!
強い衝撃と共に彼女の足が少し床にめり込む。
私「辺津鏡!」
グォン
人型ロボットの側面の空間が揺らぐ。
私「くらえ!ゼロ距離!光の矢スプラッシュ!」
ドドッ
カーン!
私「ええ!」
うっそ!装甲を抜けない?!
アーニャ「対魔法コーティング?!」
アストレイア「オラァ!」
ゴッ!
人型ロボットが僅かに後退する。頑丈なやつ。
幸い飛び道具は持ってない。狭い通路で味方にも当たるからか?
ガチャガチャ、ガチャガチャ!
その間にも後ろから四脚タイプが刃の付いた腕を掲げてわらわらと迫ってくる。
暗闇からユラユラと光に反射し、近づいてくる機械モンスターの無数の腕。
ブルッ!
その姿に恐怖を覚える。ホラーか?
アーニャ「包囲される!逃走推奨!」
私「ひぇぇ!」『アレか?昔、お寿司屋で見たマグロの解体ショー!アレみたいにされるのはゴメンだ!』
ダバダバ!
人型ロボットの大振りなパンチをステップですり抜けてその場を全力で走って逃げる。
逆関節ロボットのレーザー攻撃!
ビー!ビー!
私「ひぇー!」
頭を押さえながら通路をひた走る。デカイ人型ロボットがいるから標準が定まらないのか、赤い光線は横をかすめていく。
続く




