ファーストコンタクト
母の居る階まで上下に動く箱で行く。エレベーターというらしい、神代はさぞ便利だったのだろう。
ウィィィ……
フライト「昔はもっと速かったんだ。暇なら、しりとりでもする?」
いやです。ボキャブラリー少ないもん。
アーニャ「神代のものが、まだ動くんですね?」
フライト「専門のメンテナンス技師のドワーフがいるんだ。定期的に来てるよ。だいぶ高齢で、後継者がどうのこうの言ってたな。」
ふーん。
私「って、アンタたち呑気ねー。うちのお母さんが危篤なのに。」
フライト「いゃ、寝てるだけで危篤ってわけじゃないんだ。」
え?そうなの?
アーニャ「まぁ、プリム様は殺しても死なないお方ですから。」
なにそれ?どういう事?私の母は何者?
チーン
少しの浮遊感の余韻を残して母のクリニックが入っている階に着く。フロア全体がそうらしい。
フライト「部屋の奥に自室があって、そこで寝てるよ。」
私は素早く診察室、カーテンで仕切られた何もいない患者ベッドの間をすり抜けて居住スペースへと向かった。
ズンズンズン……
アーニャ「今は休業中ですか。」
当たり前よね、診る人が寝てるんだし。
フライト「開業してすぐに、お医者さまは原因不明の睡眠病で閉店ガラガラ。ってワケ。みんな期待してたんだけどね。」
ガチャ
私「お母さん!」
スヤスヤ
あらあら、私と同じ顔が気持ちよさそうにベッドで寝ている。違う所と言えば、魔女特有の目の周りのクマがある事だろうか?
魔女は寿命が長い、数世紀生きる。なので、母はとても若く見える。私と姉妹と言われても遜色ないだろう。
フライト「ね?寝てるだけなんだ。起きないってだけで。」
アーニャ「奇妙ですね?」
フライト「だから、みんな、次期に起きるだろうって。」
ムムムム……
寿命の長いエルフらしい捉え方だ。
ユサユサ
揺らしても起きないので、乳首当てゲームをして反応を見る。
スーリ、スーリ……
お山のてっぺんの周囲をなぞる。
ピクッ
あ、感覚はあるのか。起きたら、ぶん殴られるかもと身構えたが、そんな事なかった。
ユラ……
視界の隅で空間が揺らいで見える。メガネの隙間、ぼやけて見えてるとこだから、いつもの見間違いだろう。
???「ぎ。」
ん?
私「なんか言った?」
アーニャ「いえ?」
おかしいな。
(ズ……ム……)
その時、ベッドの向かいのシーツがひとりでにへこむ。
ん?
若干、その辺の空間が人型に揺らいで見える。
アーニャ「はっ!不可視!」
私「え!?」
???「ぎー!」
びしぃ!
オデコに強烈な殴られたような
シ ョ ウ ゲ キ……
ドサ
遠……エ……やア…ニャの……叫ぶ……聞……………
私「ん?ここはどこだ?」
気がついたら濃い霧がかった石畳の上に立っている。街?
灰色がかっているが街のようだ。立ち並ぶ家に近づいてみる。その建物たちには見覚えがある。
私「……王都?」
ずり、ずり……
霧の向こうから得体のしれない者が足を引きずって向かってくる。その息は荒い。
私「何こいつ?!不死者!?」
片方の腕を欠損した異形のバケモノが現れ、(その顔には目がないのに)私を見つけるなり、その手に持っていたナイフを振り回して襲いかかってきた。
ブゥン
私「フッ」
華麗なステップで素早くかわす。
ダンジョン暮らしをなめてもらっちゃ困る。こっちは百戦錬磨、CQCもヤー○ムステップもどんとこい、だ。
ユラ
ドッ
空間から無数の光の矢が放たれ、異形を貫く。
異形は身震いをして倒れて動かなくなった。
やったか?
私「辺津鏡は使えるみたいね……」
右腕も記憶もない。それに加えてヘルメーカーもナイフもないし、電子妖精もいないけど、
私「ま、辺津鏡があるなら余裕。」
にしても、ここはどこだ?とりあえず、王都ならこの先に自宅があるはず。私は大通りに沿って、そこへ向かうことにした。
私「あ、その前に、光の矢!」
向かう先に向かって光の矢を放つ。
ドヒュヒュヒュ……!
ドサ!
ドサドサ!
さっきの異形に襲われても困るので、濃い霧で闇雲だが、
とりま、撃ってみた。
私「大当たり。数撃ちゃ当たる。」
さっさと、死んどけ。めんどくさい。
マフ『荒っぽい……』
辺津鏡の管理人様がなんか、のたまわれているが、私はそれ相応の代償を払った(はず)。こんなものは払った代金の100分1にもならないだろう。
……白壁に
私「赤の十字架、あった。ここね。」
ガチャ
中に入ると
ドッゴォ!
いきなり、大きな音がして
リビングから廊下にゴブリン(?)が背中から壁に叩きつけられた。まるで、殴られて、ふっ飛ばされてきたようだ。
ゴブリン(?)「う、ぶぇ……」
そして、壁にめり込んだまま、絶命した。
私『何これ?ゴブリン?にしては色が違うな。』
普通の奴らは緑なのにコイツラは暗い灰色?
恐る恐る、
リビングを覗き込むと、テーブルで寝ている母と、
その傍らで母を守るように筋骨隆々の大男が立っている。
その周りを刃物を持った色違いのゴブリン達が取り囲んでいた。
私『まだ気づかれてないなら。』
辺津鏡の出現ポイントを奴らの立ってる床に設定してっと。
スポッ
色違いゴブリン「わー!」
足元に開いた辺津鏡の空間に落ちていく。
ゴリ、
と頭の中で音がする。多分、何かに挟まれる音だろう。私の辺津鏡にのみ込まれた生物は必ず損壊する。
ボトボト……
残った数匹のゴブリン(?)頭上に返してやる。
色違いゴブリンA「ひいぃ!もうゴメンだ!割に合わねえ!」
色違いゴブリンB「見せしめの嫌がらせは、もう十分だ!」
まばたきの間に、ゴブリン(?)達はどこかへ行く方をくらました。
ははぁ、魔王に味方せずに逃げたから嫌がらせに来たのかコイツラ。
私「つか、アイツラ話せたっけ?ウホウホ言ってたような。」
色違いだからか?
私に気がついた大男に軽く会釈をされる。
大男『助かりました。』
お?この人、頭に直接?電子妖精の類なのか?
アストリクス『私はアストリクス。プリム様の魄神です。』
要は、守護霊。
私のアーニャみたいなものかしら。
私はテーブルで寝ている母を起こした。
プリム「ふわー。あー、よく寝た。」
呑気ー。
フッ
私「アレ?」
母が起きたと思ったら急に当たりが真っ暗になった。
夢が終わったのか?
サァァァ……
どこからともなく、川の流れる音が聞こえてくる。
そして、
こちらに向かってくるボブカットの女性のシルエット。また、逆まつ毛か?目から涙が。
???「ようやく来たわね、リナ。」
その声に鼓動が激しく高鳴る。誰?
???「これがあると向こうに渡れないの。あなたに渡そうと思って。」
その人は光る何かを私に手渡した。
何これ?いや、要らない。くれなくていい。
固まる私のそばで声がする。
カロン「渡せたか?行くぞ。」
ギシッ
それと。舟のような、水に軋む木の音。
あ!どっかで聞いた声!
私「待って!行っちゃダメ!」
???「ありがとうリナ、もういいのよ。」
その人に抱きしめられる。あぁ、間に合わなかった。
なぜかそう思えた。行かないで。
???「さようなら、リナ。アナタはまだこっちに来てはダメよ?」
スルリ
その人の感覚が体をすり抜ける。
私は目の前が真っ暗になった。
夢の世界から現実世界に戻ると、ベッドの上には今さっき見たゴブリンの色違いが伸びていた。
ちょうど、私の目の前にソイツの粗チンとふぐりが見える。
私『汚っ!』「お母さん起きた?」
プリム「えぇ、緊急時は自動で守るように設定しといた魄神が正常に起動してたみたいね。」
アーニャ「コイツはゴブリンの亜種ですか?」
フライト「ふぅ、不可視を使うゴブリンとなんて初めて戦ったなぁ。」
プリム「多分そんなとこ、後で、物理的に脳みそに直接聞いてみましょう。そんなことより、リナ。その右腕どうしたの?」
私はチョロっと残ってた右の上腕部分を上げた。神代の上着がペラペラしている。
私「そうなの。お母さんに見てもらおうと思って。」
ホムンクルスの魔法技術で四肢を作る母なら何とかできるはず。ついでに、私の忘れた過去の記憶も聞き出そう。
母の戦略魔法、生玉は簡単にホムンクルスを精製できる。母はすぐに虚空から右腕を精製した。
プリム「後は、これをちょうどいい、長さに調整してっと……」
ホムンクルスの腕を縫合する為に麻酔を用意する。
私は大きな手術台に寝かされていて、忙しなく動いていた母にいろいろと尋ねることにした。
私「私が飼ってた猫はどこ?」
プリム「え?アナタが辺津鏡の実験でバラバラにしたじゃない。」
おう?そうだったのか……
アーニャ「その子の魂を元に作られたのが私です。」
なるほど、それで猫なのか。
傍らにちょこんと座る電子妖精が答える。猫吸いができないのは残念である。
プリム「その子にはあなたが好きだった人のデータを入れてたけど、役に立った?スニーキング魔法とか。」
私「もちろん。ん?好きだった人?」
プリム「え?アニヤさん。アナタ、一目ぼれしたとかでその人についていくーって言ってたじゃない。」
あー。私は左腕で目を覆った。
そうだったんだ。
私が魔王討伐の旅に同行したのは。ニートの私が外に出たのって、恋が動機だったのか。
ズキ
さっきの人の別れの言葉が心に突き刺さっているようだ。
プリム「アストリクス。」
ズヒュン
アストリクス『お呼びですか、プリム様。』
母に目を向けると、にじむ視界に夢の世界で見た大男が傍らに立っていて口を動かすことなく話している。
いや、彫刻のような端正な顔から声を発している、といったほうがいいかもしれない。
プリム「久しぶりにオペるから用意して。」
アストリクス『術補助看護師ですね、頑張ります。』
私「その人、私も欲しい。お母さん、ちょうだい?」
プリム「えー?魄神はあげられないわよ。」
ちぇっ
プリム「代わりに、アナタの魄神を後で作りましょう。」
私「やった!私、女の人がいい!」
プリム「同性愛者は難儀ねぇ。まあいいわ。オペを開始するわよ。」
はーい。
グワーン
麻酔が効いてきて、意識が遠のく。
ぐぅ……




