愛する婚約者に贈ったものが全て奪われていた。盗る妹に。ディアーナを救う為に戦う王子の運命の愛
ハリウスは自分の婚約者ディアーナを王宮の入り口で出迎える為、探していた。
ディアーナ・ブルドス公爵令嬢。
銀の髪に青い瞳のディアーナは、ハリウスの婚約者の令嬢だ。
共に18歳。ハリウスがブルドス公爵家に婿入りすることになっていた。
ハリウスは金の髪に青い瞳で、美男だという自信はある。
王立学園を先日卒業したのだが、婚約者がいるにも関わらずモテた。
だが、ハリウスはディアーナ一筋で、大事にしてきたのだ。
贈り物の花は欠かしたことがない。ことある毎に贈ってきた。
彼女が好きな赤の薔薇の花束だ。
プレゼントだって。綺麗な首飾りや腕輪等、色々と贈った。
しかし、不思議な事に、いつの間にか、自分が贈ったものが、妹のマリーが持っているのだ。
ディアーナに贈った首飾りや腕輪を。
ハリウスは時々、ブルドス公爵家を訪ねる。
いずれは婿入りするのだ、公爵夫妻と仲良くなっておいてもいいだろう。
ディアーナの妹マリーがやたらと接触してくる。ディアーナがいないといって、二人でテラスでお茶をすることもあった。
後妻の公爵夫人との間に出来たマリーの方を、ブルドス公爵も可愛がっているようで。
「本当なら、公爵家をマリーに継がせたいのです。でも、マリーは出来がよくない。仕方なくディアーナに。ディアーナは先妻との娘でしてな。この通り、可愛げがなくて」
ディアーナは凛とした美人だが、マリーは可愛い感じの美人だ。
そして二人はあまり似ていない。
ハリウスはディアーナの事が好きだ。
だって、ディアーナはとても努力家で、真面目で、そして優しい一面を持っている。
そんなディアーナに贈ったプレゼントが、何故かマリーが持っていて。
だから、ハリウスは公爵夫妻に、
「私がディアーナに贈った首飾りや腕輪を何故?マリーが持っているのです?」
ブルドス公爵は笑いながら、
「ディアーナがマリーにあげたんですよ。マリーが欲しがるから。当然でしょう」
「婚約者からのプレゼントを?」
「ええ、マリーのお願いですから、姉として当然ではないかと」
ディアーナを見れば頷いて、
「妹が欲しがるのです。あげるのは当然ですわ」
マリーはにこやかに、
「素敵なプレゼントを有難うございます。ハリウス様」
なんかおかしい。なんか歪んでいる。
夜会に出席する為に、ディアーナにドレスを贈った。
美しいディアーナに似合う紫紺のドレスを。
ハリウスは自分の婚約者ディアーナを王宮の入り口で出迎える為、探していた。
しかし、当日、それを着て現れたのはマリーだった。
「ディアーナはどうした?」
「お姉様は具合が悪いとかいって、わたくしが代わりに。素敵なドレス有難うございます」
そして言うのだ。
「ダンスを一緒に踊りましょう」
ハリウスは断った。
「おかしいではないのか?私の婚約者はディアーナだ。君じゃない」
「でも、わたくしが踊って欲しいといっているのです。ですから、踊って下さいません?当然でしょう」
マリーを無視して、馬車に乗り込む。
「ブルドス公爵家に。途中で花を買っていこう。ディアーナが具合が悪いと言っていてね。見舞いに行く」
本来なら先ぶれを出さなければならない。でも、本当に具合が悪いのか?
ブルドス公爵家に着けば、客間に通されて、公爵が姿を現した。
「娘は会えないと申しております。具合が悪くて」
「だったら、見舞いの花を渡しておいてくれないか?」
「わざわざ、有難うございます。マリーが夜会に行きましたでしょう。どうか、ディアーナの事よりも、夜会に戻ってマリーを相手してやって下さい」
「私の婚約者はディアーナだ。何故?マリーの相手をしなくてはならない」
ブルドス公爵は真顔で、
「可愛いマリーが、ハリウス様を望んでいるのです。可愛いマリーが。当然でしょう」
ブルドス公爵夫人が客間に入って来て、
「わたくしの子、マリーが本来、この家を継ぐはずだったのです。でも、出来が悪いから、国王陛下からの許可が下りなかったのですわ。でも、マリーはハリウス様の事が好きだから。表向きはディアーナと結婚して貰って、マリーと夫婦生活を。ディアーナは優秀ですから、領地経営をやらせればよいと」
ハリウスは立ち上がった。
「ディアーナに会わせて欲しい。これは王族の命令だ」
ブルドス公爵は仕方が無いという風に、
「娘は具合が悪いのです。ですから、どうか、短い時間でお願いします」
やっとディアーナに会う事が出来る。
彼女の私室に通された。
ディアーナはソファに座って、本を読んでいた。
顔を上げて、
「ハリウス様。今日は夜会では?」
「君はいいのか?私の贈ったドレスを着て、マリーが夜会に来た。私は君に贈ったのに。本当に具合が悪いのか?公爵夫妻は君と結婚しても、君には仕事をしてもらってマリーと夫婦生活を送れと言ってきた。私が結婚したいのは君だ。夫婦生活を送りたいのも君だ。君はこのままの生活でいいのか?何もかも妹に盗られる生活で、構わないのか?」
ディアーナは立ち上がって、涙をポロポロと流して、
「わたくしが嫌だと言ったら、叱られます。お父様に。ですから、わたくしは逆らえないの。貴方からのプレゼント、とても嬉しかった。首飾りも腕輪も、薔薇の花も皆、マリーに盗られたわ。貴方から貰ったドレスを着て、夜会で踊りたかった。首飾りも腕輪も着けたかった」
「だったら、ここを出よう。君を王宮で保護する」
「そんな事をしたら、お父様を怒らせたら婿入りの話は無くなりますわ。いかに王家の命とはいえ」
「無くなったって構わない。このまま君が苦しんでいるのを見ている方が辛い」
そう言ってディアーナを抱き締めた。
そして囁く。
「学園では一緒に勉強したね。色々と。君は本当に努力家で。今まで気づいてあげられなくてごめん。これからはずっと君を守ってやりたい」
ディアーナは微笑んで、
「嬉しいですわ。ハリウス様」
そう言ってくれたのに、
「王宮へは明日、こちらから伺いますわ」
そう言ったディアーナ。しかし、彼女は王宮に現れなかったのだ。
ハリウスはディアーナを迎えに行った。
ブルドス公爵が客間で応対して、
「ディアーナは隣国へ留学しました。学びたい事があると。これから国王陛下の元へ参りましょう。マリーと婚約を。マリーは確かに頭が悪い。しかし、これから家庭教師をつけて
勉強をすれば。それにハリウス様は優秀だと聞いております。ハリウス様が領地経営をして下されば」
ディアーナは強引に留学?
ブルドス公爵家の力で?
ハリウスは国王である父から叱られたばかりだ。
なんとしても、ブルドス公爵家に婿入りしろと。
きっと今度はマリーが相手でも許可されるだろう。
自分の無力さに、ハリウスは涙を流した。
ハリウスには兄がいる。
王太子ジェラルドだ。
ジェラルドはハリウスに向かって、
「お前はこのままブルドス公爵家に婿に入っていいのか?ディアーナの事を愛しているのだろう。だったら戦え。私も力になろう」
「兄上。しかしどう戦えと?」
「窃盗で訴えればいい。マリーという女、お前がディアーナに贈った贈り物を横取りしているんだろう。贈り物の中に、ドクランテスサファイアをあしらった首飾りがなかったか?」
「ドクランテスサファイアの首飾りを確かにプレゼントしました。あれは母上から、愛する人が出来た時に差し上げなさいと言われていた大事な首飾り。だからディアーナに贈ったのですが」
「あれには王家の紋章が入っていたはずだ。立派な窃盗だろう?婚約者はディアーナ・ブルドス公爵令嬢と決められている。彼女が持っているはずのドクランテスサファイアの首飾りをその妹が持っていただなんて。窃盗として逮捕しよう。当然だろう」
「しかし、ブルドス公爵家が納得しますか?」
「納得させるしかあるまい。いいなりになってばかりしては足元を見られる。正義はこちらにあり。あの首飾りだけは、あげたという言い訳は通用しない。マリーという女の部屋にドクランテスがあったら、そいつを逮捕だ」
「解りました。マリーを油断させてドクランテスを見つけます」
ハリウスは、改めてブルドス公爵家を訪ねた。
公爵夫妻とマリーが嬉しそうに出迎える。
ハリウスはマリーに向かって、
「君の部屋で二人きりで過ごしたい。構わないか?」
「嬉しいわ。わたくしと二人きりで過ごして下さるなんて」
マリーが部屋に案内してくれた。
部屋は広く、桃色の物で溢れかえっていた。
ハリウスは思った。
目がチカチカする。桃色の部屋だなんて。
ハリウスは嫌だったが、優しくマリーに向かって、
「そういえば、ドクランテスサファイアの首飾りを君が持っているって聞いたんだけど」
「ああ、あの綺麗なブルーの首飾りですね。わたくし、お気に入りですのよ」
首飾りを引き出しから出して来た。
やはり、この首飾りもディアーナから奪い取っていたのか。
「おかしいな。この首飾りは私の婚約者の女性に贈ったはずだが。この首飾りは王族と婚姻を結ぶ相手に贈るものだ。ディアーナも知っていたはずだが?貰ったとか言う言い訳は通用しないぞ」
「お姉様は隣国へ行ってしまいましたから、これからはわたくしが婚約者ですわ。それを見越してお姉様は下さったのですわ」
「でも、まだ正式に決まっていないし、ディアーナからこの首飾りを奪ったのだとしたら窃盗だ。この首飾りは王家の特別な首飾り。婚約した女性に贈る首飾りだからだ。それを婚約者でない君が持っていること自体、窃盗だ」
マリーの手首を取って、部屋から引きずりだす。
マリーが悲鳴をあげた。
「きゃぁっーーー。痛いっ。痛いわっ」
慌てて使用人達が駆け寄ってくる。
ハリウスは睨みつけて、
「外で待たせてある私の供の者達を呼んで来て貰おう。マリー・ブルドスは窃盗の容疑で逮捕することになった」
使用人が知らせたのか、ブルドス公爵夫妻が慌てた様子で駆け寄って来た。
「我が娘が何を」
ハリウスは叫ぶ。
「窃盗の容疑だ。ドクランテスサファイアの首飾りを盗んだ。だから逮捕する」
公爵夫人が顔を歪めながら、
「ディアーナがマリーにあげたのです。気に入らないからって」
「ディアーナはドクランテスサファイアの価値を知っていたはずだ。王家の秘宝の一つだとな。そんな大事な物を強請られたからって妹にやるか?盗んだに決まっている」
マリーは叫ぶ。
「わたくしに相応しいから貰ってやったのよ。お姉様だってそう思っているわ。ハリウス様だってわたくしにふさわしいから。わたくしと結婚してっ。わたくしと結婚するのが当然よ」
「誰がお前となんか結婚するか。お前は罪を犯した。ドクランテスを盗んだ。だから、牢に入って貰う。そうだな。北の牢獄なんてどうだ?マディニア王国へお前を送ろう。北の果ての王国だ。そこの北の牢獄に入ったら生きて帰れないぞ。お前に相応しい場所だろう?」
「嫌よ。そんなところへ入ったら死んでしまうわっ。わたくしはお姉様から貰ったの。首飾りも腕輪も。お姉様よりわたくしの方がふさわしいから」
「私はディアーナを愛している。盗人のお前なんか誰が結婚するか。お前の心根は腐っている。どこが相応しい?ドクランテスはディアーナこそふさわしい首飾りだ。お前が盗ったものは返して貰う。私は隣国へディアーナを迎えに行く」
ブルドス公爵が叫ぶ。
「何を勝手な事を」
「ブルドス公爵は盗人を私の婚約者に押し付けるつもりか?」
「い、いえ。それに娘は盗人では‥‥‥」
「盗人だろう?ドクランテスを持っていたのだから。マリーは逮捕する。ディアーナを連れ戻して私と結婚する。異議を申し立てるなら、王国裁判にかけて決着しよう。北の牢獄行きは避けられないがな」
マリーは泣きながら、
「そんなところへ行くのは嫌っーー。わたくしが悪かったわ。貰ったものは全て返すから」
「何が貰った物だ。お前が盗ったのだろう」
本当になんて女だ。
ハリウスは頭に来た。
連れてきた騎士団の者達が中に入って来て、マリーを拘束し連れて行った。
まぁ北の牢獄行きは脅しだが、厳しい修道院行きは確実になるだろう。
なんせ、ドクランテスを盗んだのだから。
兄ジェラルド王太子に感謝した。
隣国へ行く船に乗っているハリウス。
マリーが逮捕されて、ブルドス公爵夫妻もおとなしくなり、ディアーナを連れ戻すことに納得した。
ディアーナを連れ戻したら、出来るだけ早く彼女と結婚しよう。
ディアーナ。待っていてくれ。
ドクランテスサファイアの首飾りを握り締めて、ディアーナに会いに行った。
秋も近い空が限りなく青く晴れた日の朝である。
ディアーナが滞在している、彼女の叔母の屋敷の門番に面会を頼んだ。
庭のテラスに通される。
ディアーナが出迎えた。
彼女に向かって、
「マリーを逮捕した。君に贈ったプレゼントは全て取り返した。君はブルドス公爵家に戻れるんだ。私との婚約も継続している。だから王国へ帰ろう」
ディアーナは首を振った。
「わたくしは帝国で生きたいと思いますわ。公爵家になんて戻りたくない。だって、お父様もお母様もマリーを可愛がっていたのですもの。わたくしが戻ったとしても、わたくしの幸せは公爵家にはありませんわ」
「早く結婚して、婿に入る。辛い目に遭わせはしない」
「わたくしは弱いのです。貴族社会は厳しい。わたくしのような妹に全て盗られるような女が公爵夫人として強かにやっていけると思っておりますか?わたくしは帝国で叔母の手伝いをして生きていきたいと思っております。せっかく迎えに来てくれたのに。ハリウス様。ごめんなさい」
ディアーナの心は深く傷ついていたのだ。そして今も傷ついている。
ハリウスはディアーナの手を両手で握り締めて、
「私はどうしてもブルドス公爵家に婿に入らねばならない。ブルドス公爵家は名門で、力がある。私は王国の為に尽くしたいのだ。王太子である兄上の力になりたい。我が王国は貧しい。人々の生活水準も高いとはいえない。愛しいディアーナ。学園で一緒に学んで、王国の先行きを心配したよね。何か出来る事はないだろうかと、色々と話し合ったよね。君と一緒に歩けなかったら私は嫌だ。私の妻は君だけだ。どうか、頼むから一緒に戻って欲しい。お願いだ。君の傷に寄り添うよ。いますぐにでも、公爵家に行って共に住む。君に辛い思いをさせない。君を守ってみせる。だから、お願いだから」
ディアーナ。お願いだ。一緒に戻っておくれ。
心の底から願った。
涙が流れる。
ディアーナの気持ちも解る。
あんなひどい家に戻りたくはないのだろう。でも、どうしてもブルドス公爵家に婿に入らねばならない。
ああ、ディアーナ‥‥‥愛しのディアーナ。
「本当にごめん。ずっと君が辛い思いをしてきたというのに、私は君の傷に寄り添えなかった。これからはずっと傍で寄り添いたい。離れたくないんだ。ディアーナ」
自分勝手だと罵られるだろう。きっと。でも、ディアーナの傍にいたい。
妻はディアーナしかいないんだ。
ディアーナがハリウスの両手に手を優しく添えながら、
「解りましたわ。わたくしもハリウス様と離れるのはとても辛くて。ハリウス様がわたくしを守ってくれると、ずっと傍にいて下さると言ってくれた。わたくしは弱いままでは駄目だわ。わたくし、強くなります。ハリウス様が傍にいれば頑張れる。そう思えてきましたわ」
ディアーナの瞳から涙がこぼれる。
ハリウスはディアーナの傍に行き、彼女の首にドクランテスの首飾りをかける。
そして強く抱き締めた。
二人は帰国した。
ハリウスはディアーナに付き添って、ブルドス公爵家に行った。
ブルドス公爵夫妻に面会し、
「今日からこちらに世話になることにする。私が目を光らせないとディアーナが心配だ」
ブルドス公爵が慌てたように、
「まるで私達がディアーナを虐めていたような言い方」
「現にマリーを可愛がってディアーナをないがしろにしてきたのではないのか?私のプレゼントをマリーが持っていたのを、とがめなかったではないか」
ブルドス公爵夫人がディアーナを睨みつけて、
「お前なんて、マリーの代わりに修道院へ入ればよかったのよ」
ディアーナはブルドス公爵夫人に、
「わたくしは罪を犯しておりませんわ。お母様。これから、ハリウス様と一緒にこの公爵家を盛り立てていくのは、このわたくし。よろしくお願い致しますわね」
ブルドス公爵夫人は扇をへし折って悔しそうにディアーナを睨みつけた。
あれから一月経った。
もうすぐ、ディアーナと正式に結婚する。
今日は王太子であるジェラルドと共に王宮の庭にあるテラスで食事をした。
勿論、ディアーナも一緒だ。
ハリウスはジェラルドに礼を言う。
「兄上が背を押して下さらなかったら、私はディアーナを失っていた所でした。兄上、感謝致します」
ジェラルドは優雅に珈琲を飲みながら、
「公爵家の事業の詳細を受け継いだら、ブルドス公爵夫妻は、上手く領地の片隅にでも押し込んでしまうがいい」
「確かに。ディアーナの為にも」
ディアーナはジェラルド王太子に向かって頭を下げた。
ハリウスはディアーナの手をそっと握り締める。
ディアーナが微笑んでくれた。
全てはすがすがしい秋の空。
綺麗な鱗雲が空を彩っているのであった。
とある変…辺境騎士団
「屑の美男はどこだ?」
「屑の中年はいらないぞ」
「我らはグルメ。若い美男でないとな」
「若い美男を探しに行くぞ」