The Another of Cellular Structure
蛇口
掲載日:2025/09/07
旧校舎の理科準備室には、誰も近寄らない蛇口がある。
夜にひねると濁った水が垂れるが、触れてはいけない──そう語り継がれてきた。
触れた者は、一瞬で消えるからだ。
僕らは半信半疑だった。
放課後の肝試しで、その蛇口に挑んだ友人がいた。
「ただの噂だって」
そう笑って、彼は水を手のひらで受け止めた。
次の瞬間、彼の姿は消えた。
声もなく、音もなく。
残されたのは靴と、金属のボタンだけ。
僕らは恐怖に押しつぶされ、誰もその場に長く留まれなかった。
蛇口はコンクリートで封じられ、七不思議として語られるだけになった。
◇
数年後、新任の教師がその蛇口を調べていたという。
古いノートには、乱れた文字が残されていた。
──水が瞬時に有機物を分解している。
──温度も圧力も常識を超えている。
──この現象を説明できる言葉がある。
ページの端に小さく、震える字で記されていた。
「……超臨界水」




