5.鑑定
「真っ白だ」
京の言葉に、鏡花は顔を上げる。廊下も明るかったが、この部屋は白い石が光を反射し、更に明るく感じた。
「……眩しい」
目の奥が痛みそうな明るさだったが、鏡花以外の三人は平気なようで、興味深そうに部屋を見渡した。
「なんというか、ギリシャっぽい」
「プロスタイル形式だな」
「御門くんは物知りだね」
「ギリシャ神話と医学は関わりがある」
プロスタイルとは、前柱式ともいう、正面に4本の柱を建てる形式の神殿である。柱が建っている以外は、平面で構成されている。
御門の説明を聞ききながら、部屋の奥へと目を向けると。祭壇らしき場所に白いローブを着た人物と、高校生四人組が立っていた。
「あれは……」
「あ。制服、懐かしいなぁ」
鏡花たちが高校時代の思い出話に花を咲かせる暇もなく、セーラー服の少女が祭壇の上、水晶玉の前に誘導された。
「この水晶の上に手を置いてください」
「こう、ですか?」
白ローブの人物は、少女が水晶に触れると、背丈ほどある杖を構えて、コツン、と杖先を水晶玉に押し当てた。
『神に与えられし力を示したまえ』
聞き取りにくい、エコーが掛かったような声でそう言うと、一瞬、水晶玉が白く光った。少し間を開けて、水晶の中に文字がじわじわ、浮かび始める。
水晶は西瓜程度の大きさがあるが、距離の離れた鏡花たちには内容が読めない。
「これは……」
「やはり聖女か」
しかし、一拍遅れて湧き上がった歓声に、彼らの求めていた結果だったのだろうと、鏡花たちは理解した。
「スキルは……、【博愛】と【信仰】。どちらも美徳スキルですので、文句なしの大聖女かと」
「スキル、って、何ですか……?」
「ああ、心配しないでほしい、聖女殿。スキルは神から与えられた力で、選ばれた者しか持っていないものだ」
あちらの見窄らしい女とは違って、選ばれた君に相応しい。派手男は一々鏡花を扱き下ろさねば気が済まないらしい。
黙って聞いていれば解決するなら、どうでもいい。鏡花は小さく溜息を吐いた。
「スキルは魔力を使わず、魔法と同等、或いはそれ以上の力を発揮できる、素晴らしいものだ」
異世界から来たものは、この世界の者とは違い魔力を扱うことができない。その代わりに、感情の力をスキルという形で扱えるようになるのだという。
魔力操作に適した器官があるのか、と御門が小さく呟くと、京が無言で首を横に振った。違いが気になっても、絶対に実験しないでほしい。
そんなことを考えている間にも、白ローブによるスキルの説明は続く。
「【博愛】スキルは治癒魔法の強化版で、重症のものも一瞬で完治する力があります。勿論、毒や麻痺といった状態異常も治療する力があります」
完全な回復役である。即死さえしなければ、幾らでも回復できる能力は、戦いにおいて大きな助けになるだろう。
「【信仰】スキルは浄化や祝福の効果があります。魔王を倒すために必須のスキルですので、このスキルを持っている方を聖女と呼びます」
聖女に必要な【信仰】だけでなく、回復ができる【博愛】を持っているので大聖女という肩書きになるらしい。
「どちらのスキルも、魔王討伐において大きな力となるでしょう」
白ローブはそう締めくくり、残った男子三人にも水晶に触れるよう指示を出した。
「おお……、素晴らしい……!!」
結果、一番爽やかそうな男子のスキルが【正義】と【希望】。【正義】は、聖なる光で敵を薙ぎ払う強力な攻撃をする、聖剣のスキル。【希望】は自身の体力を大幅に回復する不屈のスキルだ。
クラスでも中心そうにいそうな彼が、勇者の肩書きを手に入れた。
「勇者はスキル二つ持ちの大勇者。賢者と聖騎士も【美徳】スキルだ。これは決まりだな」
メガネをかけている男子のスキルが【知恵】と【節制】。異世界人には扱えないはずの魔力を扱えるようになり、更に魔力消費を抑えるスキル。
体格のいい男の子のスキルは【堅固】一つだったが、周囲に防御壁を展開するだけでなく、身体を硬化させるという防御スキルの中でも最強のものらしい。
白ローブの説明も、派手男の言葉も、興奮からか声は上擦り早口気味だ。
ひとしきり盛り上がったところで、派手男は思い出した、という風に部屋の入り口、鏡花達を見た。
「お前達は……、最早必要もないが、念のため、鑑定だけはしておくか」
早く来い、と派手男は、視線だけで指示を出した。既に聖女と勇者は決まっているので、鏡花たちは大して価値がないのだ。
だから、丁寧に扱う必要もない。
「勇者達の役に立つなら、旅に同行させても良いのでは?」
「期待はするまい。おい、女、手を置け」
だから、鏡花が祈るのは、使えないスキルであることだ。戦えず、支援もできず、旅に出ても役に立たないので元の世界に帰ることになるような、そんなスキル。
たとえ、希望もなく、疲労を溜め、心労を蓄積し、ただ働くだけだとしても。
病の父を支えられるのは、ただ一人の家族である、鏡花だけなのだから。
だから、どうか。スキルなど無くていいから、帰らせてほしい。
そう願いながら、触れた水晶は辺りの光を飲み込むような、黒い光を放ち。
「……【嫉妬】に、【無感動】?」
おどろおどろしい字体で、二つのスキルを示したのだった。
次回以降、毎週金曜21時更新となります。




