36.やり方次第
御門の提案した作戦は、至極単純なものだった。
ゴブリンは、単体では大した強さではない。そして、知能も高くないため、指揮官がいない時は動きも単純だ。
「ゴブリンたちを、川へ追いやる」
脅威なのは数だが、逆にこれを利用する。集落の近くにある大きな川まで相手を追い込み、沈めてしまうのだ。
一体、二体程度が川の方へ逃げても意味はない。しかし、数が増え、大群で川へと逃げれば。雑踏事故を意図的に起こすようなものである。
「この作戦なら、殆どのゴブリンは相手にせずともいい。ゴブリンキングは問題だが、大人数で囲って仕舞えばどうとでもなる」
それに、と御門は京に目配せをした。京は目ざといね、と笑って、ある商人の隣に移動し肩を叩いた。
「お兄さんたち、武器商人だよね」
「あ、ああ」
「そうだが……」
でも、俺たちが扱っているのは飛び道具や罠で、冒険者が直接買うようなものじゃない。そう答えた武器商人に、京はからりと笑った。
「逆だよ。そういう道具なら、全員で戦える」
「全員って、まさか……」
「当然だろう。商人含め、この場の全員で戦う」
そうして御門は、罠や人員の配置を地図に書き始める。初めは半信半疑に覗き込んでいた人たちも、書き込まれる文字が増えるたび、顔つきを鋭くしていく。
そして、説明が終わる頃には。
「決行は日暮前。今から準備に取り掛かる」
全員が作戦への参加を決め、着々と準備に取り掛かる。戦闘に長けた冒険や、地形を読んだ設営が得意な商人。
完全に退路を立つのではなく、川の方に敢えて逃げ道を作ってやれば、ゴブリンは簡単に誘導できる。
冒険者を前面に、商人たちは後方で罠の起動を担当する。数匹、ゴブリンが向かったところで、その程度なら対処できる。
御門の作戦は、上手く運んだ。
「全員を説得するなんて、御門くん凄いよねぇ」
ゴブリン達が、一斉に川へと向かって逃げていく。その背を追いつつ、輝夜は感心の溜息を吐いた。
「やらなきゃ無駄死にするだけだ。不安を煽れば、必死に動くだろうさ」
あちこちで爆発音が轟く。とはいえ、森に火はついていない。相手を追い込むだけの爆竹だ。
「でも、僕たちだけで大丈夫かな?」
「私たち、戦闘向きのスキルはないから……」
ゴブリンキングを倒すのは、鏡花たち4人の役目となった。他の人影はない。スキルを見られるわけにはいかないからだ。
冒険者について来てもらわなくて良かったのか。鏡花は不安を口に出したが、御門はそれを鼻で笑った。
「一対四に持ち込めば勝てる。俺の【傲慢】、眞金の【無感動】で隙を作って、八月一日が正面、蓬莱は後ろから刺せばいい」
正面切って戦う必要は一切ない。数の有利で叩き潰せばそれでいい。御門の言葉に納得はするが、鏡花は先の苦戦による不安が拭えない。
「大丈夫かな……」
ぎゅ、と槍の柄を握り、足を止めずについていく。頼みにされている【無感動】は、前より弱くなっていた。
理由もわからない今、次に使えば、さらに弱くなるかもしれない。もしかしたら、発動すらしないかも。
ただでさえ戦闘スキルがないのに、少ないスキルも使えなくなれば。魔王を倒すなど不可能だ。
「止まれ」
御門の指示で足を止める。木々の隙間から奥を伺えば、そこには一際大きな影。ゴブリンキングだ。
「ゴブリンが4体、他に影なし」
「引き離す余裕はない。このまま行くぞ」
御門が背中の武器を構える。商人から手に入れたボウガンだ。御門は静かに、照準を合わせた。
「俺が打つと同時に飛び出せ。外してもだ」
「そこは当ててよ?」
「練習通りにできればな」
3、2、1。鏡花は深く息を吸う。手足の震えは、前よりマシだ。空を割く音が鳴る。それを合図に飛び出した。
「当たった!!」
御門の放った矢は、ゴブリンキングの右腕に命中。痛みから敵は、持っていた剣を取り落とす。
「よし、武器を持ち替える前にやれ!!」
襲撃に気付いたゴブリンが武器を構えるも、既に遅い。
槍のリーチを活かした鏡花が一体、少し遅れて、次弾を装填した御門が一体。京はすれ違いざまに二体を切付け、勢いそのままゴブリンキングに斬りかかる。
「動きが鈍い……!!」
これはいける、と鏡花と輝夜も前に出る。御門はボウガンでさらに一発、ゴブリンキングの左肩にあたり、痛みに体を揺らし隙が生まれる。
「畳みかけろ!!」
京が再び、剣を振り上げ、袈裟斬りを放つ。鏡花は構えた槍を、走る勢いに任せ突気を放つ。
そして、背後に回り込んでいた輝夜が心臓目掛けてナイフを突き立て。
ゴブリンキングは、地を揺らす断末魔を上げて、地面に倒れ伏したのだった。
「勝っ、た……?」
「本当だ……」
鏡花と輝夜は、互いに顔を見合わせた。思ったよりも、楽に倒せて拍子抜けに感じるほどだった。
「言っただろう、“やり方”はあると」
折角の大物だ、【強欲】スキルは試しておけよ。それだけ言って、御門はさっさと踵を返した。




