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翡翠の焔が世界を焦がす  作者: 借屍還魂
旅立ち

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28.料理教室

 無事にレシピを売却した翌日。纏まった金額と定期的な収入源を手に入れた四人は、王都から出立する準備を進める傍ら。


 鏡花と輝夜は、ファナジオーズ孤児院のキッチンに立っていた。


「では、実際に作っていこうと思います」


 二人を囲むように立っているのは、孤児の中でも年長の子供たちとグレノア商会の職員だ。子供たちも職員も、興味深そうに、しかし真剣なまなざしを輝夜の手元に向けている。


『火豆串』のレシピは簡潔に書かれているが、実際に調理すると様々な問題が発生する。正式販売を始める前に、そして、四人が王都から離れる前に、きちんとレシピを伝えるために設けた機会が、本日であった。


「下準備として、前日の晩に水で戻した豆を水はそのまま鍋で煮ます」


 子供たちの売り上げが、四人の定期的な収入にも繋がる。そのため、二人は子供相手といえども手を抜くことなく、正確に、わかりやすく説明する必要があった。


「火は弱火でじっくりと。皮ごと潰せるくらい柔らかくなったら、ヘラで粗めに潰します」


 孤児院のキッチンは薪を使っているので、火力の調整に注意が必要だ。今回は鏡花が鍋の見張りをしている間に、輝夜は別の説明を進めていく。


「この間に、野菜の準備をします。まず、玉ねぎをみじん切りにして、フライパンで少し色が変わるまで炒めます」


 いわゆる、飴色になるまで炒める、というやつだ。しかし、孤児院の子供は雨を食べたことが無い子が多いため、輝夜が実際の色を見せて説明をする。食べて少し甘く感じるくらい、と別の基準も説明すれば、味見をした少女が大きく頷いた。


「にんじんとカブも小さめに切って、別の容器に入れてすりおろします」


 ペースト状になったら終了だ。後は、細かく刻んだ香草、塩少々、小麦粉をそれぞれ別の容器に準備しておく。


「鏡花ちゃん、そっちはどう?」


 鏡花は豆を一粒鍋から取り出し、指でつぶれることを確認する。


「ちょうど柔らかくなったところ」


そう答えながら、鏡花は火を止め、水を切って鍋に豆だけを残す。ヘラでざっくり豆を潰して、全体がひとかたまりになったところで、輝夜が用意した鍋敷きの上に鍋を置く。


「今から、生地を作っていきます」


 此処からは簡単で、今迄用意した材料を全て混ぜるだけだ。レシピ開発の段階では、塩と小麦粉の量を調整しなければ生地が纏まらなかったが、輝夜が丁度いい比率を発見したため、全部同時に混ぜても纏まるようになっている。


「材料が均一に混ざるまで、ひたすら練ります」


 穏やかな声音で説明しながら、輝夜が孤児院で一番大きなバットに全ての材料を入れ、先程より一回り大きなヘラを使って練っていく。


「この作業は力がいるので、交代しながらやってください」


 そう言いながら、輝夜は鏡花と交代することなく素早く生地を練っていく。


おっとりとした見た目の輝夜が、重い生地を平然と練っていることに商会の職員たちは驚愕し口を開けたままになっているが、彼はプロのシェフである。京と比べると劣って見えるが、実は平均以上の体力があるのだ。


 孤児院の子供たちと商会の職員、双方から尊敬と、一部熱のこもった視線を集める輝夜の姿を見て、鏡花は相変わらずだと苦笑いをしながら流しに使い終わった器具を移動させる。


「これで下準備は終わりです。次は生地を丸めていきます」


 大きさはこのくらい、と輝夜はヘラに生地を乗せ、自分の手のひらに落とし素早く丸める。直径、約三センチ。一寸、つまり大人の親指の長さが基準である。


「同じ大きさに作るのが一番難しいので、一回やってみましょう」


 輝夜はそう言い、子供にヘラを渡す。丁度いい量の生地を取らなければ、当然団子の大きさは同じにならない。


子供たちは順番に生地を取り、丸め、大きかったり小さかったりすることに首を傾げ、調整を繰り返す。


「…………意外と、時間が掛かってるね」

「毎回同じ量が取れるように、計量スプーンを使った方が良いかも」


 慣れてないと難しいかぁ、と反省している輝夜を軽く励まして、鏡花はグレノア商会の職員に視線を向ける。


「あの、商会に、量り売りのスプーンはありますか?」

「はい。屋台が始まるまでに、準備しておきます」

「ありがとうございます」


 人数でカバーできるかもしれないが、楽できるところは楽をすべきだ。商会の職員に手配を頼んだところで、生地の成形が完了したようだ。

 ここまでの作業が、孤児院の中でやっておく作業。残りは、屋台で行う作業だ。


「串に刺して、最後に焼いていきます」


 輝夜は実演用に借りてきた魔法式コンロを取り出し、鉄板に油を塗ってから、均等に串を並べていく。じゅう、という音とともに広がる香りに、子供たちから歓声が上がった。


「片面ずつ、中火で丁寧に焼いて……」


 しっかりと焼き色のついた表面を見せ、反対側を焼こうとした、その時。パチン、と一際大きな音がして、鉄板上で盛大に油がはじけた。


「えっ……」

「輝夜くん、火が__」


 少し離れた鏡花の目には、魔法式コンロの火が設定よりも強く、鉄板の底を包んでいるのが見えた。

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