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翡翠の焔が世界を焦がす  作者: 借屍還魂
旅立ち

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27.四者の利

 話し始めた京が、視線を向けたのは孤児院長のボゥルだ。


 今回の件に最も密接に関わっているから、という理由もあるが、三人の中で一番流されやすそうだから、というのが主な理由だ。


 予想通り、視線を向けられたボゥルは狼狽し、視線を京、バフェット、ウォルトン、と忙しなく動かす。


 京は余計な話が挟まれる前に、簡単に事実を告げる。


「単刀直入に申し上げます。孤児による、屋台の運営妨害に近しい行為がありました」


「__それは」


 どのような。半ば、音にならなかった疑問に、京が困ったような顔をした。


「実際に見た者から説明させます」


 キョウカさん、と名前を呼ばれ、鏡花はすぐに話を始めるのではなく、返事だけして微笑んだ。

 ここで、女性である鏡花が出しゃばることを、三人が良く思わない可能性が高かったからだ。


 だが、三人は、今のやり取りで鏡花が同席している理由に納得がいったらしい。少しだけ落ち着きを取り戻したボゥルに促されたことで、鏡花は口を開いた。


「我々の屋台では、変わった料理を皆様に受け入れて頂くため、試食という形式をとっていました」


 バフェットとウォルトンは既に知っていることだろうが、孤児院にいるボゥルに向けて簡単に説明をする。

 その時点で、子供が何をしたのか予想がついたのだろう。ボゥルの顔色が青くなった。


「ファナジオーズ孤児院の子供が、一人一回の試食を二回頼みましたので、少しお話をさせていただきました」


 そして、聞いた際に、不正を何度も繰り返している事を、自ら話したことも伝える。

 空腹である事を訴えかけ、同情を誘うような言動をした、と。


 代金を無理に求めることはしていないし、屋台から少し離れた場所で話をしたので、孤児院の評判が落ちる心配はない。


 そう伝えると、ボゥルはあからさまにホッとして。だが、すぐに慌てたように京の方を見て、言った。


「そ、その、子供には強く言って聞かせますので……」


 予想通りの反応。京と鏡花は視線を合わせ、小さく頷き合う。


「ファナジオーズ孤児院を責めたいわけではありません。ただ、今後、似たようなことが続けば他の方々も困るかと思いまして、今回はご提案をさせていただきたいと思っているんです」


「提案、ですか?」


「資金的な問題もあり、孤児院の子供はお腹を空かせています。ですが、一時的な支援があっても、根本的な解決にはなりません」


 今はグレノア商会の支援があると言っても、ずっと続くとは限らない。孤児院自体の出費を減らすか、外資を稼ぐ能力を得るしかないのだ。


 だが、出費を減らすのは簡単ではない。受け入れる子供の数を減らしたところで、建物の維持費などの固定費は削れない。


 そのため、根本的な解決には外資を稼ぐ必要がある。寄付といった他者に頼るものではなく、孤児院の者が稼げるような手段で。


 京は、人懐こい印象を殺さないまま、強気に微笑んだ。


「孤児院の子供に、屋台を経営させるのは如何でしょうか?」


「__ですが、そんなに簡単には」


 王都に出展している屋台は多い。孤児院の子供に同情的な人は少なくないが、割高の商品を買うほどの余裕もない人が大多数だ。


 屋台経営をしていた鏡花たちは、その事実を把握している。その上で提案しているのだから。


「僕達が販売していた火豆串でしたら、目新しく、競合も少ない。材料調達や調理も比較的簡単です」


 そう提案したところで、バフェットが深く頷いた。


「なるほど、その為の我々ですか」


「はい。僕達は『火豆串』のレシピを売却する予定です。ですが、折角なら、ファナジオーズ孤児院の状況改善に利用していただきたいと思っています」


 京の言葉に、バフェットは目を見開いた。


「良いのですか? より高値で買ってくれる店は幾らでもあるでしょう」


 今は、値を吊り上げるための時間が惜しい。だが、素直に伝えれば足元を見られるだろう。


 京は何も答えなかったし、鏡花たちも微笑むだけだ。しかし、ウォルトンは気にせず、火豆串の話に食いついた。


「『火豆串』のレシピ、商人組合は最低額を幾らと見積もっていますか?」


「そうですね。ご本人たちの希望で最低額を見積もったとしても、安すぎる値は望ましくありません。孤児院に直接売却したとしても、最低価格は__」


 バフェットの告げた額に、孤児院長ボゥルは驚きの声を上げた。鏡花も内心、想像以上の金額に驚いていたが、京や輝夜の顔に動揺の色はない。


「そんな額、我々ではとても……!!」


 頭を抱えたボゥルに対して、ウォルトンは問題ありませんよと笑った。


「だから、グレノア商会に声を掛けたのでしょう?」


 資料をいただけますか、という言葉に、輝夜が作成していたレシピを一度、バフェットに渡す。

 商人組合に一度内容を確認してもらってから、資料がウォルトンの手に渡る。


「調理法の斬新さは勿論、食材が全て容易に手に入る……。評判は聞いていましたが、よく考えられている品ですね」


「ありがとうございます」


 ふにゃ、と気の抜けた笑みを浮かべる輝夜は、本当に嬉しい時の表情だ。鏡花は少しだけ、目を細めた。


 ウォルトンは、体を京の方向に乗り出して、早口で答えた。


「利益を考えると、買わない手はありません。食材の調達、孤児院の子供への教育と監督はグレノア商会から出しましょう」


「それでは……」


「売上の一部は我々に、となりますが、孤児院にも十分な利益が見込めます」


 鏡花たち、組合は売上の一部を得て、グレノア商会は事業拡大と優秀な従業員候補の確保。

 孤児院は資金確保と子供の進路拡大と、各々に利益がある形で。


 営業妨害から始まった会議は、恙なく終了したのであった。

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