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翡翠の焔が世界を焦がす  作者: 借屍還魂
旅立ち

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25/35

25.意見

 翌朝、テーブルの中央には、封筒が置かれていた。アイベルクからの返事だ。最速で届けてくれたのだろう。


 夜中、部屋に入ってきたはずの宿の店主に誰も気付かなかったのは問題だが、まあ味方なので考えないこととする。

 アイベルクと直接連絡がとれれような宿だ。店主も只者ではないだろう。


「開けるよ?」

「ああ」


 封はなく、紙の厚さも殆どない。少し黄色が混じりのざらついた紙には、簡潔な返事が一文、綴られているだけ。


『主な出資者はグレノア商会』


 わざわざ書かれていないだけで、貴族、特に第一王子派との関わりはなし、ということなのだろう。


 そして、肝心の商会だが。四人とも、その名前には聞き覚えがあった。


「グレノア商会って、確か大通りに店がある……」


 屋台の情報収集をする際。ターゲット層も価格帯も違うため、店に入ることはなかったが、場所は調べた記憶のある店だ。


 店の前は定期的に掃除されているのか、落ち葉ひとつなく。大きなガラス窓から店内の様子が見え、明るい雰囲気だったことを覚えている。


 組合にも人員募集の広告が出ていたし、条件も悪くなさそうだったので儲かっているのだろう。


「大きなレストランを持ってるけど、他にも食材の流通にも手を出してる、王都きっての大商会だよ」


 下手な貴族よりも資金力がある、ということだろう。且つ、王都の住人との直接接触も多いため、慈善事業に力を入れているということが。


「労働力確保の面もありそうだな」

「幼少教育、大事だからね……」


 輝夜が言うと、御門は苦い顔をして頷いた。二人とも、ピアノが弾けるはずなので、小さい頃から色々習い事をしていたのだろう。


「取り敢えず、貴族との関係がないなら良かったけど……」


 逆に、ヴィクの事を伝えるか、判断が難しくなった。今後のことを考えるなら、大きな商会とは波風を立てない方が正解だろう。


「流通にも手を出しているなら、王都外にも影響力があるだろう。手を出すべきではない」


「レシピを売る先という意味では、いいかもしれないけどね。慈善事業をしてて、さらに食品関係なら食品ロスとか対応してくれそう」


「買い取り金も弾みそうだな」


 御門と京が方針は決まった、とサクサクと話を進めていく。淀みのない会話は、普段なら大変頼もしいものだ。


 でも。鏡花は、ちらりと輝夜の顔を見た。いつも以上に穏やかな顔を浮かべる輝夜を、放って話を進めたくなかった。


 それに。鏡花は、京に視線を送る。


「眞金さん?」


 京はすぐに気付き、話を止めてこちらを見た。ここまでは良い。


 京も、孤児の境遇には同情的な方だ。なんとかできるなら、多少利益が減っても良いと言うだろう。


 問題は、御門の方だ。


「何か意見か?」


 その言葉に、鏡花の喉がきゅ、と一瞬細くなる。勢いに乗っている話を遮るのならば、相応の内容なんだろうな、と無言の圧を感じる。


 だが、ここで口を閉ざすわけにはいかない。御門は何も言わない方が無駄だと怒るだろうし、鏡花には、明確な意見がある。


 採用されるかは別として、まずは、言わなくては。何を言っても聞いてもらえなかった、あの職場とは違うのだから。


「……私は、ヴィクの事を、孤児院に伝えるべきだと思う」


「利が薄い」


 即座に斬り捨てられた。が、鏡花は、まだ諦めない。何も考えずに、ただ、事実を伝えるべきだと主張したのではない。


 子供の教育に良くないからと言うつもりもない。慈善事業をする余裕なんてない事は、重々承知している。


「上手くいけば、私の案の方が、利益は大きくなると思う」


 目を見て、はっきり御門に言い返せば、顎を軽く上げ続きを促される。鏡花は小さく頷き、言葉を繋げた。


「孤児院側の視点で考えると、所属している子供の不祥事は、表沙汰にしたくないはず」


 単純な話だ。孤児院は、いつまでも子供を所属させておくわけではない。


 養子として引き取られたり、就職したりして出ていくことが当然であり、そうなるように日頃から指導しているはずだ。


 今回の件が表に出る事は、活動資金の減額にも繋がるだろうし、子供の引き取りや独立の妨げになるだろう。


「当然だな」

「だからこそ、揉み消すんじゃ……」


 その可能性はある。だから鏡花は、『上手くいけば』と前置きをしたのだ。


 相手次第では、こちらが言葉を尽くし、努力を重ね、正しく事実を並べたところで無意味な事を、鏡花はよく知っている。


「根本的な解決をしないと、同じ事をするか、今度はスリをするかもしれない。そう言えば、否定はできないと思う」


「確かに、慣れてる雰囲気だったね……」


 だから、鏡花が言っているのは、相手が常識人だった場合の話だ。開き直ったり高圧的な態度を取ってくるような相手には通用しない。


「だが、孤児院自体に解決力はないだろう」


 相手が常識的でも、資金的な問題は孤児院だけで解決できるものではない。


「だから、出資者にも同席してもらう」


 孤児院の最大出資者である、グレノア商会も同席させて上で。ヴィクの行動と、屋台の事を伝える。そして。


「レシピを高値で売るわけではなく、孤児院の子供を従業員として屋台を開かせる事を提案する」


 子供達に自分で稼ぐ手段を与え、孤児院の経済状況を改善させる。グレノア商会には、屋台経営を全面的に支援させる。


 鏡花達は、組合で定められているレシピの使用料を定額だけ貰う。レシピ料や慰謝料などをふっかけるのではなく、恩を売る事で長期的に資金を得られるだろう。


「……どう、かな」


 先程までとは打って変わって、自信なさげに、鏡花は首を傾けた。

年末年始のため、1月3日まで毎日更新します。

金曜のみ21時、他の日は9時更新予定です。

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