18.紅白団子
「おはよう、鏡花ちゃん」
「おはよう。輝夜くん、これって……」
翌朝、皿の上に並べられていたのは、白と赤、二色の団子もしくは、つくねのようなものだった。野菜やハーブが練り込まれているのだろう。ところどころ違う色も混ざって見えた。
「…………この香り、ハーブか?」
匂いに釣られ、昨日は全く起きてこなかった御門も自力で部屋から出てくるほどだ。鏡花と御門の期待のまなざしに、輝夜と京はニコリと笑って席に着く。
「自信作だよ。名付けて、『火豆団子』」
キラキラと輝きを纏いながら、誇らしげに輝夜が言うが。男二人の反応は冷淡なものだった。
「名前がダサい」
「屋台で出すなら、串に刺して『火豆串』の方がまだいいかな」
御門はともかく、京も『まだ』を強調していたため、輝夜は目を丸く見開いた。
「そんなに?」
そんなにダサいかなぁ、と凹む輝夜の背を撫でながら、鏡花は言った。
「シンプルで、私は好きだよ」
「ありがとう……」
「原材料と調理法がわかりやすくて、いいと思うよ」
鏡花は優しい口調だが、格好いい名前とは一言も言わなかった。豆を団子にして焼いたんだよね、と確認すれば、輝夜がコクリと頷いた。
「そう。干し豆を水に漬けた後、潰してペーストにして、刻み野菜を練り込んで焼いたんだ」
野菜も入っているため、豆だけを食べるより健康的だと輝夜は胸を張る。
「色が違うのは?」
「赤の方は、ビーツを混ぜたんだ」
そうか、と御門が頷く。赤カブ。現在で言うところのビーツである。甘さを出すのにちょうど良く、見た目も華やかになっている。
「食べてみて」
輝夜に促され、三人は素直に団子を口に入れた。
口の中に入れた瞬間、油とハーブの香りが口の中にふわりと広がり、噛めば豆と野菜の甘みが染み出してくる。時折、焦げ目が舌に当たるのも良い。
もちもちと咀嚼しながら、鏡花は何度も頷き、美味しい、と輝夜に目配せをした。
名前に文句を言っていた京と御門も、味は文句の付けようがなかったようで。無言で二つ目の団子に手を伸ばす。
「美味しい。焦げ目が特に」
「火加減が難しそう」
団子の表面には絶妙な焦げ目がついているが、中々火加減が難しそうだ。日本と違い、火力調整機能も何もないだろうに、輝夜は器用に焼き目を付けたらしい。
「一番は、香りだな」
「香りは大切な要素だからね」
「屋台とか、匂いの誘引効果が大半だから……」
御門は、ハーブの香りが気に入ったらしい。確かに、この国の平民の食事は煮込み料理が多く、柔らかな香りはすれど、強い香りは殆どなかった。
ある意味、最も舌が肥えている御門からすると物足りなかったのかもしれない。鏡花が一つ、団子を譲ると御門は僅かに目尻を下げた。
「食べる気になる、というのは重要だ。人間、食べなければ弱るからな」
そうして、御門は追加の一個も食べ終え、満足そうに言う。かなりお気に召したらしい。
ハーブによる食欲増進効果は、この料理の付加価値になる、と力説している。
「皆の反応もいいし、商業組合に持って行ってみるね」
輝夜はプロだ。三人に出した時点で、自分の中では納得いくものになっているだろう。
ただ、この世界で通用するかは、商業ギルドに持っていくまでわからないが。三人はあまり心配していない。美味しい、は世界共通だと思っているからだ。
慣れない味でも、美味しければ。値段も手が出せるならば。徐々に受け入れられるだろう。
「僕は農家さんとの話し合いに行ってくる」
「俺も参加予定だ」
昨日の女性のところには、御門が行ってくれるらしい。大きな話をするなら、妻と名乗った鏡花より、夫である御門が行った方が自然だろう。
「終わったら、回復師について調べたい。帰りは別行動でもいいか?」
「大丈夫。眞金さんは?」
そう聞かれ、鏡花は視線をテーブルに落とし、考えた。
京と御門について行くのは、大きな商談になるなら微妙だろう。御門の妻と名乗った以上、王都では輝夜と二人で歩くのも良くない。
とはいえ、女の一人歩きは危険だ。この近くは宿も多く治安がいいので問題ないが、あまり遠くに行かない方がいいだろう。
「私は、近くの露店で布と糸を見てくるね。王都を出るまでに、少しは作品を作っておきたいから」
ルセロに頼めば、刺繍道具一式を揃えてくれるだろう。だが、買い物がてら情報収集ができた方が、皆の役に立つ。
鏡花はそう判断した。
「そっか」
昨日は、御門が一緒だったので当たり障りない会話だったが。女性だけの会話なら、もう少し違う情報が得られるかもしれない。
「それじゃ、今日も夕方に報告会でいい?」
「ああ」
「そうだね」
「わかった」
それに、屋台を出すなら、作っておきたいものがあった。鏡花は各々支度を始める三人を見て、僅かに微笑んだのだった。
三連休の為、土日も更新いたします。土日は午前九時予定。




