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17.干し豆で

 ジャガイモ、という単語に目を丸くした二人は、人目を考え、一応、誤魔化しておくことにした。


「聞いたことがないな」

「王都には、そんな野菜があるのですね」


 店主さんは情報通なんですね、と鏡花が言えば、女性は二人の様子を疑うことはなく、機嫌良さそうに笑って答えた。


「噂話程度だけどねぇ。痩せた土地でもよく育つって言われてるみたいだよ。まぁ、流通するまでは時間が掛かると思うけどねぇ」


 作物の出来は、生活に直結する。幾ら育てやすくても、新しい野菜に挑戦するより、慣れた野菜を育てる人の方が圧倒的に多い。


 それこそ、国が主導しなければ、中々普及していかないだろう。だが、賢者が国に提案した、という事実は重要だ。


 後で、情報共有をしよう。そう思いながら、鏡花は女性に質問をした」


「お話は興味深いのですが、私達は余裕がなくて。商品にならない、形の悪い野菜などがあれば、ある程度纏めて買わせていただきたいのですが……」


 女性は、そうだろうねぇ、と頷いた。王都は物価が高い、という予想は当たったようだ。


「そういう野菜は倉庫の裏手に集めてあるから、ついておいで」

 

 倉庫の裏手には、大小不揃いの野菜が詰まった麻袋が幾つも積まれていた。形の崩れたカブ、ひびの入ったニンジン、芽の出た玉ねぎ。


 少し加工すれば売れそうなものから、全く食べられそうにないものまで。仕分けをする時間が勿体無いのだろう。雑に積まれたそれらは、砕いて畑に巻くくらいしか使っていないようだ。


「こんなのでいいのかい?」

「はい」


 見た目が悪くても、美味しく調理しできれば屋台で使えるだろう。鏡花は野菜選びに専念することにして、御門は女性と交渉をする。


「明日以降、更に纏めて買う場合、誰に相談すればいい?」

「それなら、アタシから代表に話を通しておくよ。商売でも始めるのかい?」

「俺ではなく、同郷の奴が、屋台を出す予定だ」


 なら、明日はそいつも連れて来な、と話が纏まったところで。両手一杯に野菜を選び終わった鏡花が声を掛け、宿に戻ることにしたのだった。


 夕方、宿に戻ると、輝夜と京は先に戻ってきていたようだ。テーブルの上に、大小一つずつ袋が置かれている。


「おかえり。どうだった?」

「僕達の収穫はこれ。干し豆と乾燥ハーブ」


 大きい方の袋が干し豆。小さいほうが乾燥ハーブのようだ。王都には地方から作物が集まるが、主食である小麦と、保存食である豆は特に多く集まる。


 しかし、ひもじい時期に食べる豆の印象は良くないようで、積極的に豆を買うのは旅人くらいのものだという。


「だから、それなりの量は買えそうかな。鏡花ちゃん達の方は?」

「形の悪い野菜は、結構安く仕入れられそう」


 持って帰った野菜を机に並べれば、結構あるね、と輝夜が目を細める。これらの野菜に豆とハーブ、小麦を加えれば、色々と作れるだろう。


「後は、賢者の意見をもとに、ジャガイモを普及させようとしているようだ」

「ジャガイモ?」

「このくらいの時代にあるっけ? いや、違う世界だけど」

「他国から入ってきてすぐみたい」


 じゃがバターやフライドポテト。屋台料理とジャガイモも相性が良いため、輝夜と京の瞳が一瞬輝く。が、しかし。


「ジャガイモって、毒、あるよね?」

「ソラニンだったっけ。芽の部分は毒があるはずだけど、御門くん、合ってる?」


 京の呟きに、輝夜が恐る恐る確認を取る。すると、御門は頷き、説明を始めた。


「ジャガイモに含まれるソラニンは、特に芽や緑色に変色した皮の部分に多い毒素だ。症状としては、吐き気や腹痛、眩暈、酷い場合は痙攣や意識障害を引き起こす」


 加熱しても分解されないため、芽を深く取り除き、緑色の皮は厚めに剥くこと。未熟な小粒のイモは食べないことなどの対策をする必要があるという。

 光に当たったり、傷がついたりすると毒素が増える為、新聞紙などに包んで段ボールに入れるなど、冷暗所での保管が推奨されているらしい。


「この世界で、体調不良は死に直結する。疑問があれば、都度、確認するように」

「「「はい……」」」


 流通量も少なく、現代日本ほどの保管技術が無い以上、ジャガイモを使うのはリスクが高い。四人は、ジャガイモ以外を使うことに決めた。


「そうなると、干し豆を中心にするのが良いかな。腹持ちが良いし」

「仕入れの事を考えても、豆は利益率が高くできると思う」

「じゃあ、京くん、手伝ってくれる?」

「わかった」


 そう言って、輝夜と京は袋を持って厨房でメニュー考案を始める。使う野菜の量を見て、仕入れの事を考えるのなら、手伝いは鏡花よりも京の方が良いのだろう。


「俺はアイクに連絡を取る。恩は売れるだけ売っておくべきだ」

「ジャガイモの事?」

「ああ。広めようとしているのは第一王子だろう」


 事前に毒性について指摘し、第一王子の功績を妨害できれば、アイベルクは有利になるだろう。それでも、第一王子が広めようとした場合、中毒になった場合の対応も必要だ。


 医者として、防げるものを放置するわけにはいかないのだろう。御門は手紙を出すため、足早に部屋へと戻って行った。


「私は……」


 一人、残った鏡花は。テーブルを見つめ、自分にできることを考えて。


 他の三人と違って、何か、大きなことはできないけれど。少しでも、役に立ちそうなことをしよう、と部屋に戻ったのだった。

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