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翡翠の焔が世界を焦がす  作者: 借屍還魂
旅立ち

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16.賢者の芋

 ルセロが報告のため、城に帰った後。昼食を食べた四人はテーブルを囲み、今後の予定を考えていた。

 各々、手には自身の登録した職業に関する説明書類を持ち、黙々と読み進める。


 刺繍職人として登録した鏡花の資料は、完成品は個人で売ってもいいし、商人組合に買い取ってもらうこともできる、程度のことしか書いていない。

 後は、図案に対する特許に近い制度について書かれた紙があるだけで、全部で書類3枚しかない。


 早々に読み終わった鏡花が顔を上げると、一区切りを付けることにしたのか、京が口を開いた。


「身分証は貰えたけど、問題は資金調達の方法かな」

「アイクが援助してくれるんじゃないの?」

「地方で売れる商品は、だ。恐らく、大金を動かせる状態ではないな」


 個人で動かせる資産がないとは思わないが、秘密裏に動かせる状態ではないという事だろう。御門の言葉に、三人は頷いた。


「……旅に出るための必要資金は、ある程度自分たちで稼ぐしかないって事だね」

「そういうこと」


 武器と防具はいいとして、旅に出るなら道中の衣服と食料、テントなどの装備。次の街の物価が高いなら、食料は王都でなるべく調達しておいたほうがいい。

 四人分の食料となると、量も嵩張る。何か対策をしなければ、旅に慣れない鏡花達では運びきれないだろう。


 ゲームや小説で見かける、マジックバックの類があればいいが、その分、資金が必要になるだろう。


 鏡花は、問題が山積みであることを強く意識し、思わず溜息を吐いた。


「それで、この書類だけど……」

「読めない字でもあったか?」

「違うよ」


 京は幾つかの資料をテーブルに並べた。露店、貸店舗、荷車による訪問販売、商人組合への卸し。


 その中から、京が一番上に置いた紙は。


「屋台か」

「へぇ。貸し出しあるんだね」

「調理器具もある程度、備え付きであるみたい」


 包丁、まな板、陶器だが、鍋やフライパン。魔法式の水道とコンロも備わっているようだ。

 実際の中世ヨーロッパより発展しているようで、鏡花は少しホッとした。


「八月一日と蓬莱がいれば、商売にはなりそうだが。何を売る気だ?」


 当然、屋台で売るのは料理として。問題は、何を売るかだ。鏡花は、昨日からの食事と、今日の街の様子を思い出し、小さく頷いた。


 中世ヨーロッパ、並びに、この国の庶民にとって、食事の中心は穀物で作ったパンと、豆や野菜だ。


「あ、なるほど。一角ウサギの被害も考えるの?」

「眞金さん、流石だね」


 朝、討伐依頼を達成したとはいえ、一角ウサギは頻繁に現れる。被害を受ける作物は、一定数あるだろう。


 勿論、野菜を捨てるようなことは少ないだろうが。そう言った野菜なら、比較的安く仕入れることは可能かもしれない。


 経済的に余裕がなかった鏡花は、規格外野菜に何度も助けられたものだ。

 育ちの違いだろう。御門は思いもよらなかったようで、眉がハの字になっていた。


「とは言え、まずは現地調査から。午後は街に出て、野菜の流通事情について調べていこうと思う」


 登録した職業の関係もあり、京と輝夜、鏡花と御門のペアに別れる。時間は15時の鐘がなるまでとして、情報収集に赴くことにしたのだった。


「おや、見ない顔だね。夫婦で出稼ぎかい?」


 情報収集に向かった鏡花と御門に声を掛けたのは、道端で野菜を売っている中年女性だった。


 御門が一瞬、眉を顰めたのを見て。鏡花は御門の袖をそっと引き、ある場所に視線を向けるよう指差した。


 年季の入った木箱の上に商品を並べているだけだが、商人組合の紋が入った布を引いている箱がある。正式に認可された露店だ。


「ああ。王都に来たばかりだ」


 警戒を解いた御門は、本人にしては柔らかい、しかし他人からすれば冷たい声で答えた。


「旦那さんは堅いねぇ。でもまぁ王都じゃ、そのくらいの方がいい」


 何を探しているんだい、という問いかけに、鏡花はなるべく柔らかい声で、野菜を見に来ましたと答えた。


「野菜なら、今の時期はキャベツにニンジン、タマネギ、カブ……あと、豆も少しあるよ」


 この世界がヨーロッパ風のファンタジー世界で、料理の歴史も同じようなものなら。庶民の料理は煮込み料理が主流なのだろう。


 野菜を煮込んだものが主な食事で、豆は乾燥させて保存食にする。肉は貴族は日常的に口にしても、平民にとっては冬を越すための貴重なもの。


 知識を思い出しながら、女性が出している商品を確認すると、やはり、肉は殆どない。旅人向けなのか、塊の干し肉を少し置いている程度のようだ。


「野菜自体は、他の地域とあまり変わらないのですか?」

「そりゃあね。寧ろ、王都じゃ野菜を育てる場所も少ないから、野菜も若干高くてねぇ」


 かといって、肉はそこまで食べられないし、と女性は溜息を吐く。最近はマシだが、門の外で畑を始めるまでは、パンと豆のスープしか食べられない日も多かったそうだ。


「育てやすい野菜があれば良いですけどね」


 中世ヨーロッパでは、トウモロコシ、ジャガイモ、トマト、カボチャ、ピーマンなどはは普及していない。

 それらの野菜は15世紀後半、コロンブスがアメリカ大陸に到達したことを皮切りにヨーロッパに伝わっていくからだ。


 この辺りの野菜が広まれば、生活も変わるだろうけど。鏡花が、そう思った矢先。


「食べやすい野菜で思い出したよ。アタシも今朝、仲間から聞いたばかりだけど、“賢者様”が奨めてる新しい芋で、『ジャガイモ』っていうやつが出回り始めたみたいだねぇ」


 賢者、ジャガイモ。その単語に、鏡花と御門は顔を見合わせた。

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