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13.一角ウサギ

 朝食後。迎えに来たルセロに連れられ、四人が到着したのは城門の外。主要街道から少し外れたくらいの、見晴らしの良い平原だった。


「皆様に倒してもらうのは、一角(イッカク)ウサギと呼ばれる魔物です」


 城門沿いに、歩きながら説明を受ける。城から見て側にある正門から、東側へ回ると平野がある。そこが、今回の目的地である。


「角が生えてる兎ってこと?」

「はい。大きさも普通の兎と大差ありません」


 体長は約50センチメートル。頭に角が生えており、長さは耳より少し長い程度。この時期は体毛は土の色に近い茶色が多いのだという。


 この辺りは日本と同じだな、と御門と輝夜が頷いた。鏡花と京は高校の時、生物を履修しなかったので、そうなんだな、と頷いた。


「森や草原に出没しますが、魔物の中では比較的弱く、駆け出し冒険者が最初に受ける討伐依頼としても有名です」


 基本的には夜行性なのだが、数が増えると食料を求めて昼間も移動するようになる。今回は、そういった個体を狙って討伐を行うようだ。


「確認だが、兎というなら草食なのか?」

「はい。畑の作物を荒らすので、定期的に討伐を行います」


 王都は各地から物資が集まるとはいえ、依存しすぎるのも良くない。そのため、城門の側には幾つか畑が作られているのだという。


 東側の平野は耕作に適しているが、森が近く一角ウサギの被害に遭いやすい。そこで新人冒険者の練習を兼ね、討伐依頼を出しているらしい。


「見えてきました」


 そう言われ、視線を向けた先には。張り巡らされた木の柵を、体当たりで抜けようとする一角ウサギの群れがいた。


「待って」

「え、怖い」


 木が軋む音、というレベルではない。もはや、柵の一部が折れながらも、括り付けられていることで、ギリギリ耐えているという状況だ。


「あれと戦うんですか……?」

「はい」


 頭に7センチ程度の角のある生き物が、時速70キロで衝突してきたら。当たりどころによっては、間違いなく致命傷である。


「……御門くん」

「当たるなよ。救急箱すら持っていないからな」

「無理言わないでよ、あの速さだよ?」


 この世界に召喚された際に、持っていた鞄などは全て無くなっていた。恐らく、身につけていた最低限の衣服以外は、元の世界においてきたのだろう。


 必要な服や防具は、昨夜、アイクによって宿に届けられていた。しかし、救急箱はこの世界には無い。


 そして、防具に関して。鍛えていない鏡花達が、金属鎧を着ても重さになるだけだ。そのため、部分的な革鎧だけを装備しているが。

 防御力は、推して知るべしである。


 四人の戦闘に対する不安がふくらんできたところで、ルセロは淡々とした口調のまま、胸元から紙束を取り出した。


「戦っていただく前に、事前に皆様のスキルについて、情報を調べた結果を共有いたします」

「おねがいします」


 四人の声が揃った。スキル無しで一角ウサギに挑むのは無謀すぎる。事前情報を少しでも仕入れ、安全に戦闘に臨むべきだ。


 意外と木の柵は丈夫なようなので、四人はルセロに向き直り、真剣に話を聞く姿勢を取った。


「まず、キョウカ様。【無感動】は既に説明があった通り、防御系のスキルです」

「はい」

「【嫉妬】は所持者がいたことは判明しましたが、詳細な記録が残っていませんでした」

「そう、ですか……」


 能力も代償も不明なスキルを、実践で使うのは危険だ。今回は、何かあった時に【無感動】を発動できるよう控えておこう、と鏡花は頷いた。


「無いものは仕方がない。他はあるのか?」

「ミカド様のスキルについては、どちらも記録が残っています」


 【傲慢】は相手を威圧し行動を止めるスキル。代償に関しては、記述がバラバラで整合性が取れなかったが、外見が変わる可能性が高いようだ。


 【怠惰】は傷や病、呪いなどの状態異常を解除するスキル。【博愛】と【信仰】を組み合わせて、幸運の加護を無くしたようなものらしい。代償は、強い眠気に襲われることだという。


「直接戦闘には向かないな」

「御門くんが回復役なのは、わかりやすくていいけどね」


 いざという時に、頼る相手を間違えなくて済む。実際の職業を考えても、御門が一番適切な処置を施せるだろう。


 鏡花は、無言で御門と柵の間に立った。


「次に、カガヤ様ですが、【色欲】は視線を合わせることによる精神干渉系。制御が困難との記録があります」


 もう一つのスキル、【悪食】は対象を捕食することで能力を再現するが、痛みや体に不調を起こす可能性があるらしい。


「最後に、ケイ様。【強欲】は倒した相手の能力や魔力を一部吸収します。代償は精神負荷との記録がありました」


 【憤怒】は身体能力と回復力の大幅強化の代わりに、錯乱状態に陥る可能性が高い。効果は判明していても、代償については不明なものが多いらしい。


 代償の記録だけが残っていないということは、それだけ致命的な内容である可能性が極めて高い。どれも、使い所が難しいスキルだ。


「……誰も攻撃スキルが無いってこと?」


 【悪食】も【強欲】も相手を倒さなくては使えない。【色欲】も兎相手に通じるかは不明。【憤怒】が最も攻撃系のスキルだが、錯乱して味方に攻撃してきたら元も子もない。


 徐々に大きくなる、木の柵が軋む音に。四人は顔を引き攣らせた。

三連休ですので、土日も1話ずつ更新します。

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