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「どうして、ここに……」

「なぜ、大鳥居の外に出た?」

 唖然と口を開いた由椰の声に、烏月の叱責するような低い声が重なる。由椰を見つめる烏月の金の瞳は、最後に見たときと変わらず怒っているようだった。

「それは……」

(あなたが出て行けと言ったからではないですか……)

 思わず反論しようとしたとき、烏月の背後にゆらりと何かが近付いてくる。烏月の背後で鋭い爪を振り上げたのは、先ほど吹き飛ばされた銀髪の男だった。

「烏月様……!」

 反射的に烏月を庇おうと身を乗り出した由椰だったが、それよりも先に烏月が妖力で起こした風が男を吹き飛ばす。男が大きな木の幹に背を打って倒れると、烏月は微かに鼻で笑った。

「おれが気付かぬわけがないだろう、野狐(やこ)め」

「随分とひさしいな、烏月様。ずっと神様の役割はご無沙汰してたくせに、また人助けを始めることにしたのか?」

 ゆっくりと起き上がった銀髪の男が、烏月を睨みつけるようにしながら嫌みっぽく口角を引き上げる。

「ここはまだおれの領域だ。すぐに去れ」

 烏月は男のほうを見ずにそう言うと、由椰の手を引いて立ち上がらせた。それから許可もなく由椰を抱えあげると、バサリと羽音をたてて背中の黒い翼を広げる。

「どこがお前の領域だ。山の統治もできないお前は、もうこの山の神でもないだろう。力を失くした土地神など、俺たち放浪あやかしが本気になれば、いつでも引きずりおろせる」

 飛び立とうとする烏月を、銀髪の男が挑発的な目で睨む。

「……、そうか」

 烏月は感情の読めない目で銀髪の男を見下ろすと、ただ一言、そんなふうに零して、由椰とともに空へ舞い上がった。

「う、烏月様……!?」

 抱かれたまま宙へと浮かんだ由椰は、次々と起きる予期せぬ出来事に頭の理解が追い付かずにいた。

 まず、どうして烏月は大鳥居の外に出た由椰を追ってきたのか。そうして、今からどこへ向かうのか。

 灰色の雲間を抜けて飛ぶ烏月の体は、ときどき風に揺らされて小さな上昇と下降を繰り返し、その度に、由椰の心臓がひゅっと持ち上げられるような感覚になる。

 途中で雨が降ってきて、雷鳴が近くで轟き、由椰は恐ろしさに震えた。

 由椰がバタバタと足を動かしていると、

「暴れるな、落ちるぞ」

 と、烏月に言われ、なおのこと恐ろしくなる。

「ど、どうか落とさないでください……」

「ならば、しっかりとしがみついていろ」

 震える声で訴える由椰の耳元で、烏月が囁く。

 言われるままに、由椰が烏月の肩にぎゅっと腕を回すと、烏月の飛翔速度が加速した。

 自分に存在意義などないと思っていたし、麓の村から生贄として差し出されたときも、人の世に還るためのお清めを受けているときも、由椰は自分の命が消えることに恐怖は感じなかった。

 けれど、銀髪の男に食われかけたときや、落ちればどうなるかわからないという今の状況で、ものすごい恐怖を感じた。

 烏月にしがみつきながら、自分は思っていた以上に生きることに執着があったのだと、今更ながら気付かされる。

(私は本当は、由椰としてまだ生きていたかった……? だから、眠ったまま三百年も生きながらえ、今も人の世に還ることができずにいるのでしょうか……)


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