1
「風音さん、お米を炊きたいのですがかまどはどちらにあるのでしょう……」
米や山菜を入れた釜を両手に抱えた由椰が、眉をさげて風音を振り返る。
由椰に頼まれて汁に入れる団子を丸めていた風音は、粉で汚れた手を水で流すと、由椰のそばに歩み寄ってきた。
「お伝えするのを忘れていましたね。お米は、この機械を使えば簡単に炊けるんですよ」
風音が、由椰の見たこともない変なカタチの釜の前のほうを触る。そうすると、フタが自動的にパカッと開いた。
「今は、どんな妖力を使ったのですか?」
由椰が呆気に取られて見ていると、風音がクスクスと笑った。
「今のは妖力ではありません。これは炊飯器と言って、電気でごはんを炊く機械です。フタにボタンが付いていて、押すと自動で開くんです。中に米と水を入れてスイッチを押せば一時間ほどでごはんが炊けるんですよ」
「電気……?」
そういえば、麓の村で暮らしていたとき、外の国では火ではなく、石炭などを燃料にした灯りが使われていると聞いたことがある。
「人の世では、もうかまどで米は炊かないのですか?」
「私はあまり人里に降りることがないので詳しくありませんが、近頃の一般の家庭ではこの炊飯器という機械が使われているんだそうです。でも、今日は釜で炊きましょう。私も兄も泰吉さんも、釜で炊いたごはんは大好きです」
風音は、にこっと微笑むと、由椰を不思議なカタチの器具がついた台の前へと導いた。
「由椰様、ここに釜をのせてください」
風音に言われて、由椰が台の上に釜を置く。
「こう、ですか?」
「はい。では、火をつけますね」
風音が台の下についている小さな丸いもをつまんで捻ると、カチカチッと音がして、ボゥッと火が点いた。驚いて一歩後ずさる由椰だったが、すぐに釜の下で火が燃えていることに気が付いて目を瞠る。
「今の一瞬で火が……?」
料理をするにも風呂を沸かすにも、薪を燃やしていた火を起こしてきた由椰には、目の前で起きたことが俄かに信じられなかった。
「井戸に汲みにいかなくても水が出てきたり、薪がなくても火が燃えたり、食べ物を新鮮なままで保存できたり……。この屋敷の台所にあるのは、私が暮らしていた頃にはなかったものばかりですね」
水道やガスコンロ、炊飯器、冷蔵庫など。由椰にとっては、見るもの全てが新鮮で不思議だ。それらのものは全て、定期的に人里に降りている泰吉が持ち込んできたものらしい。
風音にいろいろと器具の使い方を教えてもらって由椰が作ったのは、山菜とキノコの釜飯と根菜たっぷりの団子汁だった。




